「当たり前だろ。マドロールは俺のなんだから」―属国観光編⑥―
マドロールとヴィツィオは領主の館を後にして、属国の王城へと向かうことになった。
それまでの間に、領主の娘はヴィツィオに接触しようとして全て止められ、結局それは叶わなかった。
竜の上へとマドロールとヴィツィオは乗る。
「ヴィー様はこの国の王城には行ったことがあるんですか?」
「ない」
「そうなんですね。ヴィー様と一緒にヴィー様が行ったことのない場所に行けるの、なんだか嬉しいです」
竜の上で嬉しそうにマドロールは笑った。
マドロールが笑うと、ヴィツィオも笑う。
そうして竜で移動して、マドロールたちはその国の王城へとたどり着く。帝国の城よりもこぢんまりとしている。
属国の王族たちにマドロールとヴィツィオは迎え入れられる。
その国の姫たちは、ヴィツィオの美しさに見惚れている。
逆にマドロールのことは彼女たちは気に食わないようだ。マドロールの祖国はこの国と同じように小さな国である。そんな国から帝国の皇妃になったマドロールは羨ましい存在なのだろう。
また属国の王族や貴族はそこまでヴィツィオのことを正しく理解しているわけではない。幾ら『暴君皇帝』と呼ばれていても、どれだけ恐ろしいか分かっていないのだろう。
マドロールとヴィツィオはパーティーに参加することになった。
「ヴィー様、今日の装いも最高にかっこいいです!!」
「マドロールもよく似合ってる」
「ふふ、可愛いですか?」
「ああ。可愛い」
パーティーに参加するためにマドロールとヴィツィオは着飾っている。
マドロールは、最推しから可愛いと言われて満面の笑みを浮かべる。
「それにしてもヴィー様が属国を訪れることはあまりないからって、凄く皆さん喜んでますね。それだけ私のヴィー様が慕われているんだって思うと、なんだか嬉しいです」
「そうか」
「ふふっ、そういうのどうでもよさそうなのがヴィー様らしいですよね」
ヴィツィオは他人の意見を全く気にしない様子だ。そんなヴィツィオのことがマドロールは好きでたまらない。
マドロールとヴィツィオはパーティー会場へと足を踏み入れる。
そうすれば、視線を一斉に向けられる。
「ヴィー様、踊りましょう」
「ああ」
音楽の演奏が始まり、マドロールとヴィツィオはダンスを踊る。
マドロールはヴィツィオと一緒にこうやって踊ることが出来るだけで嬉しくなって仕方がなかった。
「ヴィー様、楽しいですね」
「ああ」
「ふふっ、皆、ヴィー様がかっこいいから皆視線を向けてますね」
「マドロールが可愛いからだろ」
踊りながらそういう会話を交わす。ヴィツィオはマドロールに気づかれないように、マドロールを見ている男たちを睨みつける。男たちはびくりと身体を震わせて、視線をそらした。
マドロールとヴィツィオが踊り終わると、周りの人々が近づいてくる。
「皇帝陛下、ぜひ、私と踊りませんか?」
「失せろ」
この国の姫からの誘いに、ヴィツィオは冷たく言い放つ。あまりにも冷たい言葉に、周りに近づいてきた女性陣は顔色を悪くする。
「皇妃様、私と――」
「俺のマドロールに近づくな」
マドロールへの誘いに関してはヴィツィオが牽制した。
ヴィツィオはマドロール以外と踊る気はなく、マドロールを他の男と踊らせる気もない。
そしてマドロール以外と話す気もヴィツィオはなく、こういうパーティーの場なのに全く周りと交流を深める気はないのであった。
そもそもヴィツィオがこの国にやってきたのは、マドロールを楽しませるためだけである。
「ふふっ、ヴィー様が独占欲向けてくれるの嬉しいです」
「当たり前だろ。マドロールは俺のなんだから」
そんなときめく言葉を言われて、変な声をあげそうになる。
(俺のって言った。ヴィー様が俺のって!! はぁ、好きっ! ヴィー様に独占欲向けられるの本当に幸せすぎる)
マドロールの頭の中はヴィツィオのことで今日もいっぱいである。
パーティーの場なので、マドロールは頑張って引き締まった顔をしているが、ヴィツィオがかっこよすぎてすぐに顔をにやけそうになる。
ヴィツィオは話しかけられても無視か、冷たく返事をするかのどちらかである。
(それにしてもこの国のお姫様は、ヴィー様を狙おうとしているみたい。私が小国出身だから自分でもいいのではって思ったのかも。ヴィー様が隣にいなければ私に何かしてこようとするのかもしれない。まぁ、ヴィー様はこういう場でいつも私のことを離さないから彼女たちもどうしようもないだろうけど。なんだかヴィー様に守られているって幸せ!)
マドロールと、彼女たちは言ってしまえば同じような立場だ。
たまたまマドロールがヴィツィオと政略結婚をしただけで、何か掛け違えば彼女たちが政略結婚の相手だった可能性もあるだろう。
だからこそ、マドロールのことが気に食わないのかもしれない。ただしヴィツィオはマドロールの傍から離れる気が全くないので、マドロールに何もすることは出来ないのであった。
そういうわけで、マドロールを良く思っていない女性陣はマドロールとヴィツィオの仲が良い様子を見せつけられるだけで終わった。




