「寧ろ景色がヴィー様にあわせているとかそういう感じですよねぇ」―属国観光編④―
「ヴィー様、おはようございます!」
「ああ」
「ふふっ、寝起きのヴィー様って、可愛いですよねー」
マドロールは、領主の館でヴィツィオに元気に挨拶をする。
昨夜、マドロールは皇妃らしく食事の場で務めた後、やっぱりまだ疲れていたのかすぐに眠ってしまった。起きた時にヴィツィオに抱きしめられていたので、幸せそうに目覚めた。
「ねぇ、ヴィー様、窓の外を見てください。凄く朝日が綺麗ですよ」
「ああ」
「ふふっ、いつもとまた違った光景だと、新鮮で楽しいですよねぇ。私、こうしてヴィー様に連れてきてもらえて本当に楽しいです」
マドロールは本当にちょっとしたことで、幸せを感じるような人間である。なのでこうして連れてきてもらえるだけでも心の底から幸せそうである。
ヴィツィオはそんなマドロールを見ながら、笑っている。
(ヴィー様が笑っているのいいなぁ。素敵! 朝からこういうヴィー様を見れるのが本当に最高!!)
マドロールはマドロールで朝からヴィツィオが笑っているだけで大興奮なので、皇帝夫妻は互いに幸せを分け合っているという良い関係であると言える。
「ねぇ、ヴィー様、今日は何をするんですか?」
「見て回る。マドロールが行きたい場所に行くぞ」
「まぁ、いいんですか? お仕事にきているのに、遊びそうです」
「遊んでていい。属国を見るのも仕事だ。面倒なことは文官がやる」
一応視察という名目で、仕事という形で此処にきているわけだが、ヴィツィオはマドロールを楽しませようと言う気しかなかった。
「ええと……いつものお忍びデートみたいに過ごすこともありですか? 普通にデートもしたいなぁって」
「ああ。問題ない」
「ふふっ、じゃあ――」
マドロールは行きたい場所をいくつかピックアップする。それは昨夜の夕食時に領主一家から聞き出したお勧めの場所である。
皇妃に気に入られようとしている領主一家は、マドロールに望まれるままに情報を教えてくれたのだ。
マドロールが楽しそうに「ヴィー様はここの光景が似合うと思います」とか、「ヴィー様とここを歩いたら楽しそう」とか、ずっとそういうことばかりを言っている。
マドロールの頭の中は、ヴィツィオのことばかりである。
「ヴィー様ってきっとどこでも似合いますよねぇ。絵になるっていうか、寧ろ景色がヴィー様にあわせているとかそういう感じですよねぇ。ヴィー様なら恰好がどうであれ、その輝きをかすめることは出来ないっていうか。はぁあ……妄想しただけでニヤニヤします」
「そうか」
「はい!! 色んなヴィー様の可能性をその隣で見ることが出来るなんて、私幸せです!」
今日も元気にマドロールは一人でしゃべっている。大体この二人はマドロールが何倍も多く喋っている。
そんな会話を交わした後、使用人たちに服装などを整えてもらって、領主一家の朝食を食べる。
ちなみに領主一家はそれはもう緊張している。
元々皇帝夫妻がこういう属国にやってくることはほぼないので、緊張して仕方ないのである。まぁ、領主の娘に関してはヴィツィオがあまりにも綺麗なので、キラキラした目で見ているが。……両親に「皇帝夫妻に無礼をしたら大変な目に遭う」などと言って止められているが、止まるかどうかは本人次第である。
何かした途端、首か腕か、なんらかのものが飛ぶことは確実であるが。
領主夫妻は食事の間、皇帝夫妻を楽しませようと必死だけれども、ヴィツィオは全然喋らない。マドロールが代わりに返事をして、ヴィツィオの間を取り持つマドロールはずっとにこにこしている。
「陛下、皇妃様、本日はどうなさるのですか?」
「先日、お勧めいただいた場所を見て回ろうと思いますわ。とても楽しみですの。ね、陛下」
「ああ」
領主から話しかけられて、マドロールがにこやかに笑えば、ヴィツィオも頷く。
「じゃあ、私が案内しますわ!!」
「要らねぇ。黙れ」
領主の娘が声をあげれば、不愉快そうにヴィツィオが告げる。
領主夫妻が慌てて謝り、領主の娘は顔を青ざめさせる。
そんな中でもただ一人、にこにこしているのはマドロールだけである。
食事の後、ヴィツィオと二人になると、
「やっぱりヴィー様は世界で一番かっこいいので、異性が放っておきませんね。私のヴィー様はもてもてですよねぇ」
と笑っている。
「邪魔なだけだ」
「ふふっ、ヴィー様らしい。そんなヴィー様が大好きだなーって思います」
嬉しそうなマドロールがヴィツィオに抱き着けば、ヴィツィオも笑う。
そしてその後、マドロールとヴィツィオは平民の服に着替え、髪色を変えると手を繋いで、護衛を連れて領主の館を出た。
……その後ろからひっそりと領主の娘がついてきていることはマドロール以外は気づいているが、放置することにしたらしい。




