「お母様は、本当にいつも幸せそう」
「今日はお父様とお母様と一緒に寝たい!」
そんなことを言うのは、五歳のロルナールである。
ロルナールは皇女である。皇族であるロルナールは両親にずっと面倒を見てもらっているわけではない。皇帝であるヴィツィオも、皇妃であるマドロールも忙しいものである。
皇帝夫妻は皇族にしては子供の面倒を見ているものだが、それでも平民の家庭に比べると家族のふれあいは少ない方だろう。
夜も皇帝夫妻は一緒に寝室を共にしているが、基本的に子供たちは別々の部屋で眠っている。
とはいえ、時々は一緒に寝たくなった時はこうして声をあげるのである。
「ふふっ、じゃあ一緒に寝ましょう。ヴィダディたちも呼んで、皆でね」
ロルナールは、マドロールがそう言って優しく笑うから嬉しくなった。
「うん!! お兄様もミドロールも一緒!! お父様に絵本読んでもらいたい」
「素敵ね! ヴィー様の読み聞かせは私も好きだわ」
マドロールは無邪気に笑った。
それからマドロールはロルナールと手を繋いで、ヴィツィオの元へと向かう。
ロルナールはマドロールと手をつなぐことが好きである。
(お母様は、本当にいつも幸せそう。お母様と一緒に手をつなぐの嬉しいな)
忙しくても、マドロールはロルナールの話を聞いてくれる。
それでいて怒った顔などほとんど見たことがない。ロルナールが危ない真似をしたら、心配したって抱きしめられたり、悪いことをしたら叱られることはあるけれど、基本的には穏やかである。
「ヴィー様!!」
マドロールがヴィツィオの名前を呼べば、ヴィツィオの表情が緩む。
「マドロールと、ロルナール、どうした?」
「お父様、今日一緒に寝たいの! お兄様たちも一緒がいい!」
ロルナールがそう言って、ヴィツィオに駆け寄れる。そうすればヴィツィオはロルナールの頭を優しく撫でた。なでられたロルナールは目を細めて、嬉しそうに笑った。
マドロールはヴィツィオが父親をしているというだけでもなんだか嬉しそうである。
推しであるヴィツィオが息をしていて、動いていて、父親をしている。
それはマドロールにとっては幸福なことである。
「はぁ、ヴィー様素敵……っ」
「お母様? どうしたの?」
「今日もヴィー様がかっこいいなって思ったのよ。ロルナール、貴方のお父さんは世界で一番かっこいいのよ」
「ふふっ、うん。知っているよ! お父様は一番かっこいいもん」
「ええ。そうよ」
マドロールとロルナールはそんな会話を交わして笑いあう。
そうして笑いあう二人をヴィツィオは優しい目で見ている。
その後、七歳のヴィダディと二歳のミドロールも混ざって一緒に寝室へと入る。
「お父様、私はこの本がいい!」
「おとうたま、これ」
そう言ってロルナールとミドロールが本をヴィツィオへと差し出す。
長男であるヴィダディは妹たちが父親の元へ行くので遠慮している様子だ。
「ヴィダディ、こっちへおいで」
マドロールがそう声をかければ、ヴィダディは嬉しそうに笑ってマドロールの方へと駆け寄った。
大きなベッドに五人で入る。
マドロールとヴィツィオの間にミドロールが入って、左右にヴィダディとロルナールである。
ヴィツィオがまずミドロールが希望した絵本を読み始めれば他の四人はそれを聞く。
ヴィツィオが読み始めた本は、果物に関する絵本である。ミドロールは色とりどりの果物の見た目が好きである。
美味しくて、綺麗な果物を見るのが好きなのでその絵本を見ると嬉しくなる。
なのでヴィツィオの読んでくれている絵本の絵を見ながら、きゃっきゃっと声をあげている。
「ヴィー様の声は凄く落ち着くわ。素敵だわ。はぁ、かっこいい」
マドロールはヴィダディの頭を撫でながら、ぼそぼそとそんなことを言っている。
ヴィダディからしてみればいつものことなので、特に気にした様子もない。
ミドロールの希望した本を読み終えた後は、ロルナールの希望する絵本をヴィツィオが読む。
読んでいる間、ずっとマドロールはキラキラした目でヴィツィオのことを見ていた。
ヴィツィオが本を何冊か読み聞かせした後、すっかり子供たちは眠たくなったらしい。うとうととしていたロルナールとミドロールは目を閉じる。ヴィダディも眠くなったのかいつのまにか眠っている。
「ふふっ、寝顔がとっても可愛いわ」
マドロールは子供たちの寝顔を見ながら嬉しそうに笑う。
――そして皇帝一家は仲良く眠りにつくのだった。
ヴィダディ 七歳、ロルナール 五歳、ミドロール 二歳。




