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捨てられる予定の皇妃ですが、皇帝が前世の推しだと気づいたのでこの状況を楽しみます! 関連話  作者: 池中織奈


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「触ってみてもいいかしら?」―聖なる乙女と聖獣⑤―

「お初にお目にかかります。皇帝陛下、皇妃様」




 目の前でカーテシーをするマリアナ。可愛らしい見た目に、可愛らしいドレス。

 ――それに鈴の鳴るような愛らしい声。

 マドロールはそんなマリアナを前に、内心大興奮していて変な声を発しそうになっていた。でも何とか取り繕って皇妃として挨拶をする。




「ようこそ、来てくれましたね。その子が聖獣様ですか?」

「は、はい」



 ちなみにだが、にこにこしているマドロールと対称的にヴィツィオはマリアナのことを観察するように一瞥した後はどうでもよさそうにしていた。マドロールだけでマリアナに会ってもよかったのだが、ヴィツィオはマドロールが気にするマリアナが気に食わなかったので同席することにしたようである。



(可愛い!! 流石、ヒロインだわ。凄く可愛すぎるわ。なんだろう、味方をしてあげたくなるような愛らしさよね。こういう可愛さがあるからこそヒロインなのよね。とても可愛いわ)



 マドロールはすました顔を心がけながら内心では嬉しそうな顔をしている。

 マドロールは聖獣の、犬のような生物をじーっと見つめる。




(とても可愛い。もふもふだわ。可愛い。こういう生き物、転生してからあまり触れたことないわ。ヴィー様の竜は撫でさせてもらっているけれど。凄く可愛い。触ったら気持ちが良さそう)



 前世のマドロールは、犬を飼っていた。大型犬の茶色の毛並みの可愛い子だった。それを撫でまわすのがマドロールは好きだった。触りたいなぁとマドロールはじーっと、聖獣を見てしまう。




「皇妃様、この子が何か?」

「……触ってみてもいいかしら?」



 マドロールは思わず触りたいなとそういう気持ちになって、そう言ってしまっていた。



 期待するようにマリアナと聖獣を見るマドロール。

 マリアナはなんと答えていいものか悩んだ。というのも聖獣は認めた存在以外に触れられることを嫌がるのである。マリアナが撫でる分には気持ちよさそうに撫でられているが、それ以外が触ろうとすると威嚇したりもする。




 マリアナが悩んでいると、冷たい視線が向けられる。

 驚いてそちらを見れば、ヴィツィオが威圧するようにマリアナを見ていた。

 マリアナは驚き、顔を青ざめさせる。




「こ、皇妃様。触る分には大丈夫なのですが、この子は私以外に触れられるのを嫌がる傾向にあります。もしかしたら……無礼な行いをしてしまうかもしれません」

「まぁ、そうなのね。駄目だったら諦めるわ。ちょっとだけ触らせてもらえたらと思うの」

「は、はい」




 そんな会話をしている間もヴィツィオは冷たい視線をマリアナに向けているので、マリアナは気が気じゃない。マリアナのすぐそばにいる聖獣は、マリアナの顔色が悪いことを気にしているようである。

 聖獣はマリアナに抱きかかえられたままマドロールの方へと差し出される。

 マドロールはその聖獣に手を伸ばす。




 しかし、



「がうっ」



 と聖獣に威嚇され、マドロールは慌てて手を引っ込める。




(あー、びっくりした。そうよね。いくらもふもふだから触りたいと思っていても、聖獣は特別な存在だから私じゃ触れないわよね。マリアナじゃないと触れないからこそ、特別なのよね)




 そんなことを考えてマドロールは納得するが、ヴィツィオは納得していない様子だった。

 マリアナの腕の腕におさまっている聖獣がびくりっと身体を震わせる。

 ヴィツィオが、マリアナと聖獣を睨んでいた。




「おい」




 ヴィツィオが不機嫌そうに聖獣を片手で掴む。

 バタバタと手足を動かしてシャーッと鳴いて、ヴィツィオを睨む。しかしヴィツィオからにらまれて身体をびくつかせる。

 ヴィツィオは魔力を持ち、基本的に野生の魔物相手でも威圧することが出来る。その威圧は聖獣にも効くらしい。




「陛下! 聖獣様にそんな扱いしては駄目ですよ。離してあげてください」




 ヴィツィオが威圧していても、マドロールが全くためらいもせずにヴィツィオに意見を言う。

 そのことにマリアナも聖獣も驚いた様子であった。




「マドロール」

「ほら、可愛そうですよ。こんなに足をバタバタしているんですよ?」

「……でもこいつ、マドロールを威嚇した」

「陛下、そんな怖い顔しないで。聖獣様は特別な存在だから、私に触らせないのも仕方ないですから。ね、陛下、その子、離してあげて」

「……ああ」




 ヴィツィオはマドロールに宥められて、聖獣を落とす。聖獣にする扱いではないが、ヴィツィオにとっては聖獣はどうでもいいのだろう。



「きゃうん」



 小さく鳴いた聖獣に慌ててマリアナは手を伸ばす。




 ヴィツィオは聖獣のことを崇めることもなく、聖獣のことを塵芥のように思っているようだ。

 マリアナのことだって、ヴィツィオは同じように思っているということが分かるからこそぞっとして顔を青ざめさせる。




 マリアナに抱きかかえられた聖獣は、その後、自分をヴィツィオから解放してくれたマドロールに少しは気を許したらしい。

 少しだけだが、撫でられることを許可していた。




「可愛いわ」




 マドロールはそう言いながら、嬉しそうに聖獣の頭を撫でていた。

 嬉しそうな様子のマドロールをヴィツィオは優しい目で見ている。




 マリアナと聖獣は、その後少しマドロールたちと話した後に城を後にした。

 マリアナはもうこんなに緊張することはないだろうとほっとした。




 しかし……、それからもマリアナはマドロールから声をかけられることになる。




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