「パーティーの始まりですね」―大規模パーティー⑥―
「ヴィー様、パーティーの始まりですね」
「そうだな」
「それにしてもヴィー様の正装、本当に素敵。世界一かっこいい。見ていて幸せな気持ちになりますね!!」
「マドロールも可愛い」
「おおぉおお! はぁ、ヴィー様の素敵な声で可愛いって言われるとときめく!!」
パーティー当日。
特にあれ以降、他国からのパーティーの参加者にマドロールが遭遇することはなかった。ヴィツィオが警備をより一層強化し、招待客たちの行動を制限したためである。
マドロールはヴィツィオの正装を見て今日も大興奮である。大好きでたまらない推しの着飾った姿を見ることが出来、それでいて推しから可愛いと言ってもらえたマドロールは幸せで仕方がない。
パーティーが始まり、ヴィツィオとマドロールの仲がよさそうな様子に他国からやってきた招待客たちはそれはもうざわめいていた。
国内の貴族たちはすっかり皇帝夫妻の仲の良さにすっかり慣れているが、他国からやってきた者たちは噂で聞いていてもこれほどまでとは思っていなかったのだろう。
……マドロールに向かってヴィツィオが笑みを浮かべているのも周りをざわめかせるのには十分なことだった。
暴君皇帝などと呼ばれているヴィツィオは、顔立ちの美しさが有名である。しかしその美しい顔が、笑みを浮かべる様子など見たことがない者の方が多かった。マドロールの前では笑みを浮かべるヴィツィオも、他ではそんな風に表情を変えることはないのだ。
マドロールへのヴィツィオの様子に、「私にも笑いかけてくれるかしら?」と話しかけようとした招待客の王女もいたが、結局のところほとんどがヴィツィオに直接挨拶をすることも許されなかった。挨拶が許可された者も、ヴィツィオから冷たく睨まれてその場を後にすることがほとんどである。
マドロールはヴィツィオのそういった表情を見ただけで、嬉しくてたまらない様子である。
(はぁ、冷たい表情のヴィー様もとても綺麗。こんな風に周りに冷たいヴィー様が、私に笑いかけてくれているのも、もうときめく。こういう冷たいヴィー様もかっこいいよね)
ヴィツィオの冷たい表情もマドロールにとっては、大好物である。
寧ろこういうパーティーの場ではないと、そういう冷たいヴィツィオを中々見れないのでこういうパーティーもいいなと思っている。
(ヴィー様が私に優しくしてくれるのも、笑いかけてくれるのもとっても嬉しい。でもこうやって冷たい表情のヴィー様を見れるのもいいわ。向けられた方はたまったものではないかもしれないけれど、とっても素敵)
マドロールは公の場でのパーティーなのに、気を抜くとついついヴィツィオだけを見つめてしまいそうになる。ただマドロールは皇妃としてここにいるのであまり気を抜かないようにしようと必死である。
ちなみにそうやってマドロールが一生懸命すました顔をしているのをヴィツィオも分かっているので、楽しそうにヴィツィオはマドロールを見ていた。
ヴィツィオはどんな場であろうとも自由なので、あえてマドロールが面白い表情をしないかとちょっかいを出したりはしていた。
「マドロール、ほら」
「陛下、自分で食べれます!」
マドロールの口元に、パンを差し出してくる。
食え、とでもいう風に差し出されたそれにマドロールは顔がにやけそうになりながらも、拒否する。
そもそも暴君皇帝なんて呼ばれているヴィツィオの命令をこんな風に断るだけでも周りからしたら驚きものである。命令を断られても、ヴィツィオは面白そうにしている。
「ほら」
「……はい」
結局マドロールはヴィツィオが大好きなので、ヴィツィオから期待したように見つめられると断れない。なので沢山の招待客がいるというのにも関わらずマドロールはヴィツィオの手からパンを食べる。
その様子を見て、ヴィツィオは笑った。
(はぁ、ヴィー様が嬉しそうな顔をしてる。かっこいい。大好き。ちょっと、私にちょっかい出そうとしている悪戯な感じのヴィー様も可愛い。私は皇妃だし、キリッとした顔をしていた方がいいんだろうけれど、でもヴィー様の狙いには逆らえない!)
マドロールはそんなことを思って、結局ヴィツィオにされるがままにされてしまうのだった。
皇帝夫妻のそんな様子に、招待客たちはなんて仲が良いのだろうかと……、その仲の良さはそのパーティーでますます広まるのだった。
ヴィツィオは周りに誰が居ようとも全く気にせずいつも通りです。




