「怒れるヴィー様も凄く素敵!!」―大規模パーティー⑤―
「ヴィー様!!」
マドロールは嬉しそうにヴィツィオの名を呼ぶ。
ヴィツィオは蹴り飛ばした少年のことはどうでもよさそうに、マドロールについていた護衛たちを睨みつける。
「おい、あんなのを近づけるな」
「は、はい! 申し訳ございません!!」
「処分を覚悟しろ」
ヴィツィオ、マドロールにあんな少年を近づけるなと冷たく言い切る。護衛たちは当然のことだとうやうやしく頷く。
「怒れるヴィー様も凄く素敵!! でも、私が手出ししなくていいって言ったのだから、あんまり怒らないであげて?」
「あれと話したかったのか?」
「違いますよー。ほら、ちゃんと私のこと知らないでただ話しかけているってだけですからね! いきなり護衛に取り押さえさせるのもなぁって思っただけです!」
ヴィツィオの不機嫌そうな顔を見てもマドロールはにこにこしている。
蹴飛ばされた少年のことを放置してマドロールとヴィツィオは会話を交わしている。
「い、いきなり俺を蹴りつけるとは無礼じゃないか!!」
……少年はヴィツィオが皇帝だと気づいていない様子である。それに反して、少年に付き従っていた従者は青ざめた顔をしている。
「おい、こいつ、国に強制送還させろ。そして二度と足を踏み入れさせるな」
「ヴィー様、それは厳しすぎると思います! ちゃんと説明すればきっと大丈夫ですよ。ね、ヴィー様、そんな怖い顔しないで。私、笑っているヴィー様も大好きなの」
「分かった」
ヴィツィオはマドロールの言葉を聞くと、少年の方を向く。少年はヴィツィオを睨みつけたが、睨み返されておびえた様子を見せる。
「も、申し訳ございません!! 殿下を許してください!! 皇帝陛下!!」
「こうてい、へいか?」
従者は殿下と呼ばれた少年の頭を思いっきり押さえつけて、強制的に謝罪させる。従者の言葉に、少年は驚いたような顔をする。
「それを、マドロールに近づけさせるな。そして必要以上に出歩くな。次に必要以上に近づいたらそれ、殺すぞ」
「は、はい。もちろんです!! ほら、殿下も謝ってください!」
「……も、申し訳ございませんでした」
少年もヴィツィオが帝国の皇帝だと理解したのか、青ざめたまま頭を下げる。
そのまま騎士たちに連行されて、二人とも去って行った。少年はマドロールに名残惜しそうな顔を向けていたが、マドロールはヴィツィオのことだけをにこにこと見ていた。
「マドロール、ああいうのは相手にしなくていい」
「公式の場じゃないし、無視するのもなって思ってしまって。ごめんなさい。ヴィー様」
「……やっぱりああいうのが出るなら、人前にあまり出したくないな」
「ふふっ、ヴィー様に独占欲向けられると嬉しいですね。でも心配しなくていいですよ? 私はヴィー様しか見てませんから」
ヴィツィオにとって、マドロールは可愛くて仕方がないので人前に出したくないななどと口にしている。それを聞いてマドロールは嬉しそうに笑っている。
「当たり前だ」
「ふふっ、ヴィー様、本当に素敵。かっこいい!! 私はヴィー様がとっても素敵だから見せびらかしたいって思います。可愛いしかっこいいし最高ですもん。でもヴィー様に惚れる女性が沢山増えたらちょっとヴィー様が取られちゃうかなって心配になりますけどね!」
「俺はマドロールの物だから、何も心配しなくていい」
「ヴィー様が私の物って思うと、なんだかすごく幸せです。私もヴィー様の物ですからね? ヴィー様に一生独占されたいし、ヴィー様の物で一生いたいです!!」
マドロールは侍女や護衛たちの前だがそんなこと言いながらにこにこしている。
自分の大好きな推しが、自分の物だと言えるのが嬉しくて仕方がないのだろう。すっかり二人とも先ほどまでいた少年のことは頭にないようだ。
「ああ。当たり前だ」
「えへへ。嬉しいですね!!」
マドロールが嬉しそうにそう言えば、ヴィツィオも笑った。
その後、別棟の他国からの招待客たちはより一層警備を強化され、必要以上に出歩けないようにされるのであった。




