「面白いことになってきたわ!」―第一王女の学園編③―
ロルナールが学園に入学して半年ほど経過したころ、学園に一人の編入生がやってきた。
男爵家の庶子という立場のその少女は、男爵の過去の恋人との間の娘らしい。今の夫人と結婚している間に、別の女性と出来た娘なので立派な浮気による子供である。性格のきつかったという夫人が亡くなった後に、その娘を引き取り、学園に通わせることにしたとのことだった。
(立派な浮気よね。それに夫が別の女性と子供まで作っていたらそれはもう夫人も性格がきつくなるわよね。お金があって本人たちが納得しているなら一夫多妻でも問題ないと思うけれど……、お金もそんなに余裕がないのに愛人まで作っていたんだと亡くなった夫人が気の毒だわ。その息子さんも。結婚する前のことならともかく、結婚後もそれだったら……、うん、お父様がもしお母様以外にやさしくしていたらって想像するだけで悲しいもの。まぁ、お父様はお母様のことが大好きだからそういうことはないけれど)
ちなみにロルナールの父親である皇帝は結婚前は気まぐれに関係を持つぐらいはあったが、結婚後はそういうことはない。そもそも基本的に他人に対して関心がないので、家族以外に執着することもない。
何年か前に一度、結婚前に皇帝と身体の関係を持った女性の伯母だという者が皇帝の子だと言って子供を城に連れてきたことはあった。その時に、皇妃は「まぁ、ヴィー様の子供が増えるのね」などと言って平然と世話を焼いていた。子供たちも父親が母親を溺愛しているのは知っているのと、母親がにこにこしているので特に気にしなかった。まぁ、その後調べた結果、そもそも皇帝の子ではなく、皇帝の亡き従弟にあたる存在の息子だということが発覚したが。
偽りを口にした女性は処刑されたが、その子供に関しては城で引き取られて今では立派にロルナールの兄のヴィダディの側近として働いている。
(あれはお母様がああいう人だから修羅場にはならなかっただけよね。大変だったんだろうなぁ)
ロルナールは亡くなったという男爵夫人に少し同情していた。
とはいえ、編入生である娘には罪はないのでもし関わることがあれば普通には接しようとは思っていた。ただクラスが違うので関わることはあまりないだろうが。
そんなことを思いながらロルナールはいつも通り学園生活を送っていたのだが、その男爵令嬢の周りは大変騒がしいらしい。あまり学園内の噂を集めようとしていないロルナールの耳にも入ってくるぐらいだった。
その男爵令嬢がこの学園に通う王族や高位貴族の子息と親しくしているらしい。平民として生きていたからこそ貴族としての常識がないのか、べたべたしているらしい。その子息の婚約者たちに何か言われても、子息たちに泣きつき、この学園はギスギスした雰囲気になっているんだとか。
ロルナールもそのよくわからない騒動を遠目に見かけたことがある。
そしてそうやって見かけていたロルナールは気づいた。
「ねぇ、あれって魅了の魔法よね?」
侍女にそう言って問いかけたのは、そういう魔法があることをロルナールは知っていたからだ。
帝国の皇女であるロルナールは周りから狙われる立場にある。隙を見せて攫われるなんてことになったら大惨事になるのだ。あとそういう魔法をかけられてしまう場合もあるのでということで対策もしている。
というより、王侯貴族たちはそういう対策をしておくべきなのだ。
ロルナールもそういうのにかけられることがないように、魔法具を身に着けている。
「そうですね。見た限りそういう風に思えますね」
「王族と高位貴族が男爵令嬢の魅了魔法にかけられるなんてびっくりだわね。面白いことになってきたわ!」
「ロルナール様、一応属国の王族がそういうのに関わっているのですよ。面白がってたらダメですよ」
「ふふ、でもおかしいじゃない。こんな風に簡単に魔法にかかっちゃうなんて。でもそうね。何か大事になるのも困るから、この国の王に伝えてはおきましょう」
「そうですね。そのぐらいがよろしいかと思います」
魅了の魔法はその人に惹かれてしまうという状況に陥るだけである。それ以上の被害は特にない。強い魅了の魔法だと、傾国につながる場合もあるが、その男爵令嬢の場合は学園全体を魅了するようなものではない。
だからロルナールはこの国の王に伝えておくにとどめておくことにした。
「それにしても側近候補たちも含めてかかってしまうなんて面白いことよね。誰一人、そういうことに対策してこなかったのかしら」
「この国は小さな国ですからね。そういった事態はあまりなかったのではないかと思います。それに魅了されている王族は第三王子という立場で、王太子ではないからでしょう」
「流石に王太子だともう少し危機感はありそうよね。でも魅了された状態って一番その人の本質が見える機会だと思うの。面白そうだから少し観察しておくわ」
「ロルナール様が楽しそうで何よりですわ」
ロルナールはにこにことしながら、これからどうなるのかなとにこにこ笑っている。




