「お友達が出来てうれしいわ!」―第一王女の学園編②―
ロルナールは学園生活を穏やかに送っている。
自分のことを皇女だと知らない人たちばかりしかおらず、周りにばれずに静かに学園生活が出来ることに楽しくなっていた。
(本当に隠していると誰も寄ってこないのね。面白いわ。それにしても人って不思議よね。地位がある人には騒ぐけれど、そうじゃないと寄ってこないのだもの。私は出来る限り、それだけを見ないようにはしたいわね)
ロルナールは、帝国の第一皇女。
皇帝一家に愛されている皇女であり、権力を持つ。ロルナールが泣きつけば暴君皇帝はすぐに動くだろうし、帝国も黙ってないだろう。それだけロルナールは周りに影響力を与える立場である。
ロルナールは自分がそういう立場である自覚はあるので、地位だけではなく、ちゃんとその人自身を見れる方がいいよなと思っている。
この学園に通う高位貴族の中には、下級貴族や平民を馬鹿にしている者はそれなりにいる。帝国ではロルナールの周りにはそういう人はいなかった。というより、帝国の皇女であるロルナールの前でそういう態度を見せる人はあまりいなかったと言えよう。そもそもロルナールにそういう人たちが近づかないようになっていたというのもあるが。
ロルナールは皇女としての立場では見られないであろう、その人自身の本来の姿を見ていると何だか面白くなった。
(帝国に戻って、変装してどこかに潜り込んでも面白いかもしれないわね)
そしてそんな悪戯のようなものを思いついている。帝国の貴族たちはロルナールの姿をよく知っているのでちゃんと変装しなければいけないだろうが、そのことを考えるとロルナールは楽しくなっていた。
さて、ロルナールは学園生活を送る中で友人が出来ている。
この国の男爵令嬢である二人である。二人の名前はヨゼフィーとミヴィファ。
高位貴族に睨まれることがないようにと……、大人しく日々を過ごしている二人はまさか仲良くなった留学生が帝国の皇女だとは思っていないだろう。もし知ることがあれば驚愕することは間違いなかった。
「ロルナールは、いつも楽しそうね」
「ええ。とっても楽しいわ」
こういう風に、ロルナールのことを呼び捨てにする友人というのも帝国だとほぼいない。こういう風にロルナールににこやかに笑いかけてくるヨゼフィーたちを見ると、ロルナールは新鮮で楽しい気持ちでいっぱいになる。
(やっぱり皇女だってかくして入学したからこそよね。そうじゃないとヨゼフィーやミヴィファたちと仲良くすることなどできなかったもの。帝国でも男爵令嬢の方とはまず関わりがないものね。卒業後も仲良くしたいって確証が持てたら、私のことを言うのもありよね。お父様もいいって言っていたもの)
仲良くなったばかりなので、これから先もずっと仲良くやっていけるかはまだ判断がつかない。けれど卒業後も仲良くしたいと思うのならば、ロルナールは二人に皇女という身分を明かすことだろう。
「ロルナールは少し世間知らずな感じがするわね」
「そうかも」
話しているとやはりロルナールは育ちの良さというか、箱入り娘感が出ているのか、ヨゼフィーとミヴィファにそんな風に言われることもある。
実際にロルナールは皇室で大事に大事に育てられていた皇女なので、結構な世間知らずである。
お忍びで出かけたりというのもしていたが、それでもロルナールは大切に守られてきたので箱入り娘なのだ。
ロルナールにとって、ティドラン王国の下級貴族の娘として学園に通っていると初めての経験が沢山溢れている。
基本的に商人が城に訪れることが多くお忍びでちょっとした買い物しかしていなかったので、学園生活の中で自分で学園内の購買などで買い物をするのも楽しい。
ヨゼフィーとミヴィファたちに連れられて街で買い食いをするという経験も初めてである。そもそも立ち食いなんてものをしたことがなかったので、面白い気持ちになっている。
学園に通う高位貴族たちに命じられた雑用を友人たちと一緒に行うのも、こういう雑用を自分ですることはまずないので面白かった。
友人たち二人と一緒にテストの勉強をしたりするのも、ロルナールにとっては初めての経験である。いつも帝国では兄妹たちと勉強するぐらいはあったが、貴族の令嬢と一緒に対等に勉強するなんてなかったから。
「お友達が出来てうれしいわ! 初めての経験ばかりだもの」
そんな風に家でにこにこと笑いながら告げるロルナールを使用人たちはにこにこしながら見ていた。
ちなみに友人たちの情報はしっかり帝国には伝えられている。




