「お姉様はぽやぽやしているから、心配だわ!」
帝国の皇帝夫妻には、五人の子供がいる。三人の皇子と、二人の皇女である。それぞれが皇帝と皇妃の特色を受け継いでいる。
さて、皇帝夫妻の第二子であり第一皇女であるロルナールは母親であるマドロールに見た目も中身も似ている。そんなロルナールは、十五歳になる来年学園に入学することが決まっていた。
正直言って、家庭教師を雇って呼び寄せて過ごすというのも出来る。とはいえ、こうやってロルナールが学園に入学するということは本人たっての希望である。
ロルナールが学園に……それも本人の希望で皇女であることを隠し、属国の自分を知らない国の学園に通うなどということになっているので、弟妹たちは大変心配していた。
今日も三人でこそこそと話し合いをしている。
「お姉様が悪い男に騙されたらどうしましょう! お姉様が私の見えないところに居るの心配だわ!」
「そうだよ。父上もロル姉上に甘すぎる!」
「いや、でも俺だって母上やロル姉上に頼まれたら断らないし、もちろん、ミド姉上やロッツィオに頼まれたことも断らないけど」
こそこそと話しているのは、第二皇女であるミドロールと、双子である第二皇子と第三皇子のロッツィオとルッツィオである。ミドロールは今年十一歳、双子は今年八歳だ。
「まぁ、私もお兄様やお姉様、それにあなたたちの頼みは基本断らないわよ。でも他国に行くのを許すのはお父様は甘すぎるわ」
「でもミド姉だって、母上やロル姉が頼んだら頷きたくならない?」
「なるわ! だって、お母様もお姉様も可愛いもの!」
ルッツィオの言葉に、ミドロールは頷く。
ミドロールは黒髪、黄色目のきつめの美人である。見た目もそうだが、中身もそこそこヴィツィオに似ていた。可愛いものが好きなミドロールは、母親のことも、姉のことも、弟二人のことも可愛いと思っている。
ロルナールが属国の学園に通うことが許可されたのは、「お願い、お父様」と頼み込んだのにヴィツィオが頷いたからである。あとマドロールも「隠しているけど実は……的なものね! 楽しそうだわ」と乗り気だったため、二人がかりで頼めば暴君皇帝は簡単に陥落した。
「お姉様はぽやぽやしているから、心配だわ! 悪い男に騙されたりしないかしら?」
「父上が厳選して護衛はつけるはずだから大丈夫かと思うけど」
「でも皇女だって知らないロル姉上にひどいことをする人はいるかもしれないし。俺たちの方でも姉上が危険な目に遭わないように手の者を潜ませておこうよ。あとロル姉上は一人で入学するわけじゃないから、一緒に入学する令嬢の方にもちゃんとロル姉上に無礼を働くやつをどうにかするように手を回さないと」
年下の弟妹たちに、ロルナールは大変心配されていた。
「でもちゃんとお姉様の周りに人を忍ばせるならお父様には言っておかないと」
「それはそうだね。しかしこれでロル姉上が男連れて帰ってきたなんてことがあったら……、多分父上は黙ってないと思う」
「うん。分かる。ロル姉上は母上に似ているから父上はうるさそう。いや、まぁ、誰の相手でもうるさそうだけど。大体、兄上も婚約者がいておかしくない年だけど、父上におびえる令嬢が多すぎて婚約者いないし」
皇太子であるヴィダディにはまだ婚約者がいない。というのも家族には優しくても、基本的に冷たいヴィツィオのことを令嬢たちは恐れていたりするからである。あとは皇太子という地位だけ目的の令嬢で次期皇妃に相応しいと言える存在が今のところ居ないので保留になっているというのもある。
「お母様とお父様はあれで政略結婚だものね。案外お兄様も政略結婚したらうまくいくかしら?」
「いや、母上と父上は運が良かっただけだと思う。多分、普通に考えて政略結婚であれだけうまくいくのってレアじゃないか……?」
「俺もそう思う。いざ、政略結婚してどうしようもない姫とか来られても困るから、兄上がちゃんと選んだ相手がいい気がする。いっそのこと、属国も含めて選考会みたいな感じで集めるとかもいいかも。兄上なら妃選び間違えないだろうし」
ミドロール、ロッツィオ、ルッツィオとそれぞれ発言する。
皇族なので、政略結婚もありだとは思っているがどうしようもない存在が義理の姉になるのは嫌だなぁなどと思っているのである。
「って、お兄様のことはいいのよ。多分お兄様はそのうち勝手に選んでくるもの。それよりお姉様のことよ。お母様と似ていて、ちょっと楽観的でぽやぽやしているお姉様が私たちの目の届かない所で変な男に遊ばれないようにしないと。近況報告は当然してもらうとして……ああ、でも心配だわ」
「本当、心配。とりあえずロル姉上を傷つける人がいたら男女問わずに報復する」
「うん。それは絶対。ロル姉上が身分を隠して学園に通うなら、ロル姉上にひどいことを言う令嬢とかもいるかもしれない。ロル姉上は可愛いから、色んな人に目を付けられそうだし」
弟妹である三人にとって、第一皇女のロルナールが可愛いというのは共通の認識である。皇妃であるマドロールに似て、物語が好きでちょっとぽやぽやしていて、可愛い姉が目の届かない学園に通うのが心配で仕方がない。
結局その日の話し合いも長く続いた。
ちなみに途中からヴィツィオも参加していた。
そんなに心配されていると思っていないロルナールは「学園生活楽しみだわ。素敵な人に出会えるかしら」とワクワクした様子を見せている。
ロルナールはマドロールに見た目の中身も一番似ています。
「お父様お願い、学園に通いたいの!」
「ヴィー様、私からもお願いするわ!」
と、ロルナールとマドロールに頼まれて、ヴィツィオは陥落してます。家族にはヴィツィオは甘いです。




