「ヴィー様、すごく幸せな一日になりました」―お忍びデート⑥―
食事をとり終えた後、マドロールはヴィツィオと一緒にデートを楽しんだ。
普段は皇妃としての仕事にいそしんでいるので、こうやってゆっくりするのも久しぶりである。
その休日を大好きなヴィツィオと一緒に過ごせることにマドロールは幸せで仕方がなかった。
洋服屋で次のお忍びデート用に洋服を買いこんだり、本屋で面白そうな本を買ったり、劇を見たり――といったことをお忍びで行った。
(はぁ、楽しい!! 楽しすぎてやばいわね)
楽しくて仕方がないマドロールは、歩きながら一つのお店を見つけた。それはぬいぐるみのお店である。
「ヴィー様、此処よってもいい?」
「ああ」
そして二人はそのぬいぐるみのお店に足を踏み入れた。
マドロールはきょろきょろと店内を見まわす。可愛らしいぬいぐるみが沢山置いてあってマドロールは楽しそうである。
そしてマドロールはあるぬいぐるみに目をとめて、興奮したようにヴィツィオに話しかける。
「ヴィー様、見て見て。このぬいぐるみすごく可愛い。黄色い瞳のクマさん、すごくいい!! ふふ、赤目のクマさんも発見!!」
黄色い瞳のクマと、赤い瞳のクマ。
マドロールはそれがヴィツィオと自分みたいだと思ってワクワクした気持ちになっている。そのぬいぐるみが隣り合って並んでいるだなんて運命みたいとそんな風に興奮している。
はしゃいだ様子のマドロールは可愛らしくて店員さんにもにこにこと見られていたが、マドロールは特に気づいていない。
「買うか?」
「ええ!」
嬉しい気持ちになりながらマドロールは二つのクマのぬいぐるみをレジまで持っていく。そしてヴィツィオが支払いを済ませ、その二つのクマのぬいぐるみはマドロールのものになった。
「どこに飾ろうかなぁ。ヴィー様は何処がいいと思う?」
「どこでもいいと思うが」
「ヴィー様、どこに飾るかってのは大事なんですよ! やっぱり寝室よねぇ。ベッドに並べてもいいけれど」
「邪魔になるだろ」
「それもそう! じゃあ、棚とかに並べようかなぁ。皆に置き場を相談するのもありですよねー」
寝室のどこに飾ろうかと頭を悩ませて、侍女たちに何処に飾るか相談するのもありだとマドロールは思う。
(こういうぬいぐるみって可愛いよね。前世ではヴィー様のぬいぐるみとか持ってたなぁ。というか、あれが今世でも欲しい。ヴィー様は許してくれるかな? 許してくれるならヴィー様のぬいぐるみほしいな)
マドロールはそんなことを考えながらヴィツィオをじっと見つめてしまう。
「どうした?」
そうすればヴィツィオは優しくマドロールに問いかける。
(どんな表情でもヴィー様は本当にかっこいい)
マドロールはヴィツィオにやさしく問いかけられてまたときめいていた。というかマドロールはいつもヴィツィオにときめいているのでいつものことだが。
「ヴィー様のぬいぐるみほしいなぁって」
「……俺のぬいぐるみ?」
「うん! ヴィー様のぬいぐるみほしいの。いつも抱きしめちゃいそう」
「……俺がいるからいらないだろ」
「きゃー。ヴィー様、嫉妬? 自分がいるのにって? ふふん、ヴィー様のそんなセリフ聞けただけでも幾らでもご飯食べれそうだわ」
「食べ過ぎるなよ。前に食べ過ぎておなか壊しそうになってただろ」
「うっ、分かってますよー」
マドロールはヴィツィオが素敵すぎるとご飯を食べすぎてしまったことがある。推しの素敵な姿ならいくらでも食べられる気分になるらしい。
ヴィー様、素敵ーっとごはんを食べ過ぎておなか壊しそうになるという子供みたいなことをやらかしてしまったこともあるのだ。でも、推しの素敵な姿って見たら幾らでも食べれそうな気持ちになる。
(ヴィー様と話していたらヴィー様に抱き着きたくなったけれど、此処は皇都で、人が沢山いるから我慢我慢。流石にこういうところで抱き着くのは恥ずかしいもの)
マドロールはヴィツィオに抱き着きたくなったものの、城に戻るまで我慢するつもりらしい。
「ねぇねぇ、ヴィー様、しばらく帰ってもそのままでいません?」
「なんでだ?」
「私がレアなヴィー様を見つめていたいから!」
「そうか」
そろそろ帰る時間になったので、城へと二人は帰宅中である。その最中に告げられたマドロールの言葉にヴィツィオは呆れながらうなずいた。
そしてその日は一日、ヴィツィオとマドロールは髪と瞳の色を変えた状態で過ごすのであった。
「ヴィー様、すごく幸せな一日になりました。ありがとうございます!!」
マドロールが寝る前にそう告げれば、ヴィツィオも笑った。
その日はマドロールにとっては楽しくて、最高の日になったのだった。




