「私、こうやってヴィー様と帝都を見て回れて幸せです」―お忍びデート④―
「ふふふ~ん♪」
「楽しそうだな」
「ヴィー様と一緒にお忍びデートですよ? 楽しくないはずがないです。見ているだけで幸せなんです。今日も私を幸せにしてくれてありがとうございます。ヴィー様」
マドロールはそんなことを言いながら、ヴィツィオの手を握り、腕にぴたりと身体をくっつけている。
ヴィツィオと一緒にお出かけが出来ることが嬉しくて仕方のないマドロールは鼻歌を歌っていた。
帝都をお忍びで見て回ることになっているわけだが、当然マドロールにとっては初めてのことである。
祖国でも典型的なお姫様として、あまり街などにも出たことはなかった。なのでマドロールははっとする。
「ヴィー様、私、お金とかちゃんと触ったことないです! どうしましょう。ヴィー様とのお忍びデートなのに、わからないなんて」
「そのあたりは大丈夫だ。俺はそういうのわかる」
「まぁ! 流石、ヴィー様ですわ。なら、安心ですわね」
マドロールは、ヴィツィオのことを信用していて、寧ろヴィツィオになら何をされてもいいと思っているのでそんなことを言いながらにこにこしていた。多分、マドロールはヴィツィオにならだまされようが、問題ないと本気で思っている。
そんなマドロールをヴィツィオは見て、小さく笑った。
そしてマドロールとヴィツィオは帝都に出る。
そこには沢山の人々の姿がある。マドロールはあまりにも沢山の人が溢れていることに目を輝かせていた。
「まぁ! お祭りでもないのに普段からこんなに人が沢山いるのね。ヴィー様とはぐれてしまわないように気を付けないと」
「大丈夫だ。俺がマドロールが迷子にならないようにちゃんと手を握っておく」
そんなことを言われたマドロールは、またときめいていた。
(か、かっこいい!! ヴィー様は本当にかっこいい。かっこよすぎてやばすぎる。こんなヴィー様とお忍びデート出来るのが本当に幸福よね)
ときめいて無言になっているマドロールを連れて、ヴィツィオは歩き出した。
ちなみにそんな皇帝夫妻の周りには、一般人に扮した護衛たちが結構紛れている。あと皇都を守る騎士たちには本日皇帝夫妻のお忍びデートが決行されることは通達されているので、騎士たちは細心の注意を払っているものである。
「マドロール、何を見たい?」
「はっ、ヴィー様と出かけられるだけで幸せすぎて、どこを見たいかなんて考えてませんでした」
「そうなのか?」
「はい。私、こうやってヴィー様と帝都を見て回れて幸せです」
「そうか。じゃあ、適当にぶらぶらするか」
「はい」
マドロールはヴィツィオが隣に居るだけで幸せなので、一緒に向かう場所は何処でもいいと思っている様子である。例えばそこが危険な場所だったり、デートとしてふさわしくない場所だったとしてもマドロールは気にしないことだろう。
「お兄さん、恋人さんにこういうアクセサリーはどうだい?」
マドロールとヴィツィオが手を繋いで歩いていると、そんな風に声をかけられる。
前世はともかくとして、お姫様として生を受けたマドロールはこうやって露店の店主に声をかけられるのも初めてでなんだか新鮮な気持ちになっている様子である。
「妻だ」
「恋人じゃなくて、若夫婦だったのかい。それにしても奥さん、可愛いね」
「ああ」
「どうだい? 一個買わないかい?」
そう言って露天商は、アクセサリーを進めてくる。
ちなみにマドロールは、妻だと言われたことなどでまた自分の世界に入って幸福に浸っていた。
「マドロールどうする?」
「奥さん、皇妃様と同じ名前なのかい。それだとこれはどうだい?」
ヴィツィオと店主に話しかけられて、ようやくマドロールは自分の世界から帰ってきた。
「ほしいです!」
皇妃であるマドロールにとって、こういう露店で購入するものよりも呼び寄せた商人から購入するものの方が高価である。それでも初めてのお忍びデート記念に欲しいなと思ったマドロールであった。
もちろん、ここで購入したものは社交界には身に着けられないが、プライベート用にするのならば問題はない。そういうわけでマドロールは髪飾りを買ってもらった。
「えへへ、ヴィー様似合います?」
「ああ。可愛い」
「はぅ、ヴィー様も超絶かっこいいです」
早速買ってもらった髪飾りを身に着けて、マドロールは嬉しそうにしている。
「ははっ、奥さんは旦那さんがよっぽど好きなんだな」
「当然です。ヴィー様は私にとって最高の旦那様ですからねー」
店主の言葉にマドロールがそう言って笑えば、店主も笑った。
去っていくヴィツィオとマドロールを見ながら店主は「仲が良い夫婦だったなぁ。ちょっとしたお忍びっぽいけど」と思っていた。ただし流石に皇帝夫妻がお忍びでそこにいるとは思ってもいない。ちょっとした商会か何かの若夫婦かな? などと思っている様子である。




