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ゴブリンたちの受難

良いですよね、ゴブリン。

様々な作品で雑魚扱いされながらも、健気に主人公らに立ち向かうあの勇姿。

尊敬すら覚えます。

 以前リンのマップに追加された【ナディアの町】。そこから程近い場所にある『ルイスの迷宮』は部屋や通路が広く、ポップするモンスターの数が多い事が特徴的なダンジョンだ。

 入り口から地下へと続いており、全部で20層ある。どんなに細い通路でも幅が5メートル近くあり、場所によっては学校の体育館のような広さの空間もある。

 襲ってくる敵もこちらを囲うようにして集団で攻めてくる為、ある程度実力のある者たちのパーティーでない限り、攻略は困難なダンジョンだった。

 余談だがダンジョン名の『ルイス』というのは、この迷宮の第一発見者の名前らしい。


 そんな『ルイスの迷宮』の入り口に、リンたち三人の姿はあった。


「おっきいねぇ~」

「サイズだけなら今知られてるダンジョンの中で最大らしいからな」


 彼らがこのダンジョンにやって来た理由は、パーティーの連携を磨く為だ。このダンジョンの性質上乱戦となるのはほぼ避けられないので、チームプレーが重要となる。


「一先ずはモンスターの少ない第1層で私とリンさんが戦ってみて、その動きを見せ合うっていう流れで良いですか?」

「うん。ガクはこないだ見たけどラスプの戦闘シーンとか見た事ないし、私もちゃんと戦ってるのは見せた事ないしね」


 お互いの動き方が全く分からない状態では連携は難しい。

 タンクやヒーラーなどがいて最初から役割が明確だったならばこういう事にはならないのだろうが、彼らは3人ともアタッカーだ。今のままではそれぞれがバラバラに攻撃をしていく未来しか見えない。


「では、私から行かせてもらいますね」


 ラスプは予め2本のククリを手に用意しており、それを(もてあそ)びながらダンジョンへと入っていく。刀を腰にくくりつけたガクと、戦斧を担ぎ、目隠しを外した戦闘モードのリンも後に続いた。


「ここってどんなモンスターが出てくるの?」

「詳しくは知らんが、基本雑魚だけらしい」

「ボスは?」

「さあ」

「えぇ……」


 ラスプも首を振る。どうやら誰もこのダンジョンの詳細を知らないらしい。


「まあ実践で相手の情報なんかないことの方が多いんだし良いじゃねぇか」


 ガクはそう言って呵々と笑う。そうして歩いていくと、前方から5匹のゴブリンが現れた。

 向こうがこちらに気づいた瞬間、ラスプが腰を落とす。


「行きます」


 そう呟くと彼女は一気に加速し、一瞬でゴブリンたちの真ん中に潜り込む。


「──ギャッ!?」


 ゴブリンたちがラスプの攻撃に気づいたときには、既に両手のククリナイフが2匹の首を跳ばしていた。残りの3匹は混乱しバラバラにラスプに向かってくる。一匹が大振りで短剣を振り下ろしてくるが、ラスプは剣筋の内側に潜り込み、ゴブリンの喉元にナイフを突き込む。その身体が崩れ落ちるよりも先にラスプはその場から飛び退き、残りの2匹の攻撃を(かわ)す。もちろん、そのうちの1匹の首をナイフで撫でながら。最後の1匹も、振り向いた瞬間に喉笛を掻き切った。

 ものの数秒でゴブリンは壊滅した。恐ろしいのはその全てがクリティカルで一撃死している事だ。


「すごい! 何か殺戮者って感じがする!」

「あ、ありがとうございます」


 リンが手放しで誉める(?)と、ラスプも少し照れたような顔をした。

 

「次は私の番だね! 瞬殺してやる!」


 エライ方向に意気込んだリンは、顔をひきつらせたガクとラスプを連れて先へと進んでいった。


 先程までのラスプとは打って変わり、リンは全く周囲を警戒することなくずんずん先へ進んでいく。


 彼女の被害者となるモンスターはすぐに現れた。再び登場、皆大好きゴブリンだ。それも7体。彼らは既にこちらに気づいており、薄汚い剣や棍棒を構えている。


 リンは肩に担いでいた戦斧を地面に下ろす。そのまま両者硬直──何て事にはならず、リンが戦斧を引き摺りながら無造作に近づいていく。

 それを見たゴブリンたちも一斉にリンに向かって駆け出した。一気に距離が近づいていき、遂にリンが戦斧を持ち上げ、振り下ろした。


 爆音と衝撃波が辺りを襲う。それは飛びかかる飛沫に対して大波で返すがごとき光景。


 ダンジョンの床が大きく抉れ、グチャグチャになった肉塊が3()つ。残りの4匹は文字通り消し飛んでしまったのだ。


「……ふう。こんな感じかな」

「……お前、だいぶやべぇな。いや知ってたけどさ」

「これは想像以上でしたね……。というかダンジョンが破壊可能オブジェクトだったとは……」


 一撃で7匹のモンスターを屠り、しかもそのうちの4匹が跡形もなくなるなど聞いたことがない。


「この調子でジャンジャン行こう!」


 やる気十分のリンに対し、乾いた笑みを浮かべるしかないガクとラスプだった。





***




 結局3人は大した連携も出来ないまま、20層まで降りてきた。

 中堅のプレイヤーでもパーティーの協力が必須と言われていたが、彼らにとってはソロで十分な難易度のダンジョンだったのだ。下手に連携しようとすると、かえって効率が悪くなると感じる程に。


 そんな彼らは今、100メートル四方ほどの巨大な部屋の中にいる。十中八九、ここがダンジョンボスがいる部屋の筈だ。

 果たして部屋の中に、モンスターが出現する際の魔法陣が現れる。


 部屋を埋め尽くす程にたくさん。


「「「え?」」」


 それは100や200なんて可愛いもんじゃない。最低でも1000は下らないだろう。


 やがて現れたのは大量のモンスター。ほとんどはゴブリンだが、スライムやホーンラビットという角の生えた兎などもいる。全て雑魚モンスターのようだが、如何せん数が可笑しい。


 実はこのダンジョンは1匹のボスモンスターが出てくるのではなく、侵入者の力量に合わせて大量の雑魚モンスターが出てくるというものなのだ。仮に弱いプレイヤーが入ってくればモンスターはほんの数匹だけだったりするが、高レベルのプレイヤーが複数入れば酷い有り様になる。リンたち3人のように。


「これどうする? スキル使った方がいい?」

「……いや、むしろこっちの方が面白そうだ」

「……本当にやるんですか?」

「ああ。ぶっちゃけビビりはしたが余裕だろ?」


 ガクは日本刀を仕舞い、代わりに槍を2本取り出す。

 ラスプとリンもそれぞれの得物を構え直す。


「行くぞ!」


 ガクの掛け声を切っ掛けに戦闘が開始する。

 直後、大量の矢が3人目掛けて降り注いだ。後方に弓を扱うゴブリンがいるらしい。


「私がやる!」


 リンは2人の前に躍り出ると、戦斧を思い切り横に薙いだ。それにより発生する衝撃波は、容易く矢の群れを蹴散らし、ついでとばかりに前方の敵を吹き飛ばす。


 その出鱈目さにモンスターたちが一瞬だけ怯むが、その隙にラスプが敵の懐へ潜り込む。

 彼女のスキル【超加速】により人の限界を超えた速度で駆ける。そしてすれ違い様にモンスターたちを切り刻んでいく。

 仮に命を奪えずとも、腕や足の腱を断ち、動けなくする。

 囲まれそうになれば、【フラッシュ】というスキルを使い、敵の目を眩まして一気に畳み掛けた。

 彼女が駆け抜けた1拍後に敵が血を吹き出して倒れる様は異様な光景だった。


 ラスプに続くガクもまた派手に戦っているが、そこには何処と無く堅実さがあった。

 2本の槍を自在に操り、穂先で、石突きで或いは柄で、周囲の状況を常に把握し、的確に敵を打ちのめしていく。

 包囲されぬよう敵と場所を入れ替えるようにして常に立ち位置を変え、時に敵自身を盾にしながら戦う。

 相手の意表を突く事などはせず、己の技量のみで確実に敵を(ほふ)っていった。


 そして後ろからモンスターたちを殲滅していくリンは、目につく敵を片っ端から粉砕していった。

 そこには救いはなく、慈悲もない。抵抗など出来る筈もなく、全てが平等にスプラッターへと変えられる。重瞳を忙しなく(うごめ)かせ、口元を三日月のように歪ませる。

 その戦斧を一度薙げば、10の敵が消し飛び、10の肉塊が出来上がる。

 敵の攻撃など児戯に等しい。振り下ろされた剣の腹を掴み、握り潰す。ついでにそのゴブリンも踏み潰す。

 囲まれる事など厭わない。身体を捻り、戦斧を一回転させれば容易く吹き飛ぶのだから。


 結局のところ、彼らにとってこのダンジョンは何処までいってもイージーモードでしかなかった。




***




 数分後、ラスプが最後の1匹に止めを刺したことで戦闘が終了する。

 それと同時に部屋の中央に1つの宝箱と帰還用魔法陣が出現する。


「いやー、終わったー!」

「中々骨が折れましたね」


 現在、部屋の中はモンスターの死体が大量にあるという地獄絵図のような状態なのだが、もう慣れっこなので誰も気にしない。


「てかお前、戦闘中に笑ってんじゃねぇよ。マジモンの化け物かと思ったわ」

「いやー、途中でレベルが上がったアナウンスが入ってねぇ。ようやくだったから嬉しくなっちゃって。まあ癖で戦ってる最中に笑っちゃうってのもあるんだけどね」


 休憩がてらしばらく雑談をした後、攻略報酬の宝箱を開ける。


「これ……なに? スタンプ?」


 “ギルドの印”──ギルドのシンボルマークを決め、それをギルドメンバーの身体に印す為の魔道具。刻まれたシンボルはギルドから脱退すると消える。


「へぇ。結構面白そうじゃねぇか」

「良いですね。入墨みたいになるんでしょうか」


 皆でお揃いのシンボルを刻むのは確かに面白そうだと、リンも心を踊らせる。


(どんなマークが良いかなぁ……。シンプルに『殺』って漢字を……いや、ここはあえてニコちゃんマークとかも──)


「リン。ぶっちゃけお前のセンスはどうかと思う」

「え!? 私まだ何も言ってないんだけど!?」

お読みいただきありがとうございます。


ようやく自分の執筆スピードがわかってきたので、3日に1回の更新と定めさせて下さい。

続きを心待ちにしてくださっている方々には申し訳ないのですが、2日に1回は流石に厳しいのでどうかご了承下さいませ。


評価、ブクマなどお待ちしております。

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