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君の足跡を探して(ディオ)




 今となっては、日課になったと言ってもいい、セナード魔具堂への道のり。


 ステラに出会うまでは深く被ったフードに顔が隠れているのが当たり前だった。

 視界から見える世界は狭く、暗く、地面がほとんどだった。


 どう見られているかなんてものは大して気にしたことはなかったが、呪いの影響で姿が普通では無く、恐れられる物なのだと自覚した途端に隠さねばいけないと思った。

 

 いつも疲れてくたくただった道のりも、今では視界は明るく足取りは軽い。


 いや、呪いが消える前もステラに会えると思うと気分は晴れやかになる訳だから足取りは軽かった。だがなんと言っても絶望的に体の調子が悪かった。

 物理的に重い。

 身体破損レベルが重い。


 

 足が軽い理由は明白だ。正直に言おう。

 自分への対価の大きさと、同情と同族意識が働いていた。つまりステラに対し、利害関係にプラスして互いが「特殊な状況であること」に安心していた。安堵していた。



 この考えは非情だろう。

 その通りだ。

 卑怯者で卑屈で酷く悪質で悪辣あくらつな考えだ。


 自分のために彼女を捕える。

 言葉で、態度で。

 そして曖昧な表現で。


 己の下劣さに吐き気がする。人の良さそうな顔をして、良き師のような面をして彼女の心の隙間に入り込むのだ。


 結局入り込んだ先の居心地の良さに絡め取られ逃げ出せなくなったのは僕だった訳だけれど。


 未知の病から身体を回復させてくれる奇跡の女神。

 それはあっという間に、縋りつきたくて、もっと近くに寄りたくなる僕だけの天使になってしまった訳だが。


 ステラは『魔女』の問題や『聖女』の問題も綺麗に片付き、僕の視界どころか心までも明るく道を作ってくれた。



 街中はこんなにも明るく美しい物だっただろうか。一度失ってみると見え方は変わるというのは確かだったと言うことがこの僕にもわかる日が来るとは。






 明るく、僕の知らないステラを知る学生。

 

 息がしづらい。

 胸が詰まる。

 指先がビリビリと痺れる感覚に、ムズムズと妙な機嫌の悪さが身体を暴れ回った。


 こんな感覚は初めてで、自分の卑しく浅ましい心根が顔を出す。


 すぐに割って入って追い払いたい。

 触って欲しくない。

 その権利は僕のものであって欲しい。


 そんな自分勝手で横柄な考えで脳内が汚濁されていく。




 

「浮気だ」



 結局口をついてそんな卑屈な言葉が出た。

 相手を責め立てる文言としては1級、いや特級かつ意地悪だ。



 でもどうにも坂を降り始めた石ころのように舌はコロコロと転げ落ちて行く。



「これは浮気だ」


 さも自分が正しい事を言っているとでも言いたいのか僕は。


 口から出た言葉の快楽に一瞬で酔って一瞬で後悔した。



 ステラは僕の言葉にどう言った意見を持ったのかはわからない。酷い言葉を吐いた癖に、この言葉にほんの少し傷ついたり、縋ってくれやしないだろうか、なんて女々しい考えが頭の中をうろうろとし始める。


 顔をグッと近づければ、体をグッと寄せてみれば。どうにかして惑わされてくれないものだろうか。


 帳簿台と僕とでサンドイッチにするみたいにステラを挟んで両手の中に閉じ込める。


 あとたった拳一つほどの距離にステラの体があって、その事に気がついてしまえば途端に自分の中の余裕がどこかへ飛んでいってしまう。

 

 なんとか顔には出ていない。多分。

 ステラが身じろいでくれれば。

 ちょっと寄りかかってくれれば。

 狭い空間を作ったのは自分だというのに、自分さえ少し近づけば触れられる距離にいる癖に、そんな偶然を望むなんて本当にどうしようも無い。


 

 ステラがこちらを見ないまま、あの男がステラが学生に戻ることを望んでいると言う話を教えてくれる。

 その話も僕の嫉妬を掻き立て、また同時に妄想に花を咲かせるだけだ。

 

 細い首が、髪の隙間から見えて、触り心地の良さそうな柔い肌を滑り落ちて行く。


 君は知らないだろう。

 もしも、あの男が僕であったなら。

 同じ時間に同じ教室で勉学に励むとするのなら。君が魔法を失敗したら、手取り足取り教えるだろうし、きっと朝から晩まで研究だってするだろう。きっと楽しいに違いない。

 

 いつもみたいに軽口で茶化せば、可愛らしい反抗が帰ってくる。


 僕の知らない君を知ってるあの男が憎らしい、そんなくだらない嫉妬心を聞いたら君は笑うだろうか。

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