チョコレートショック:レベル1
窓から差し込む薄ら明るい日の光と、窓元近くで聞こえてくる鳥たちの鳴き声にいつも通り目が覚める。
まだ朝霧が立ち込めるような時間、早朝といっても差し支えないだろう。まだまだ街が活気付くまでにそれなりの時間がある。
王国ソルシエの首都、パレでは朝の6時を迎えていた。その時間は静かなもので、配達の仕事もまだ始まってはいない。動き出しているのは元気に羽ばたく鳥たちくらいなもので、パタパタと羽ばたく音があちこちで響いている。
時間を確認すれば、うん。いつもとそんなに変わらない時間。
身支度を済ませて、腕をグッと伸ばして伸びをする。
窓を開いて朝の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込めば、寝ぼけていた頭が生き返ってようにスッキリとし始めた。
まだ外は静か......
パカパカパカパカ
ガラガラガラガラ
「うん?」
思わぬ喧騒に思わず首をひねる。
......うん......?静か......か?
馬車?こんな早朝に?
寝静まっている街中を静寂を断ち切るように、いや、もっと言うとぶった斬るように一際大きな音を立てて、朝に走らせるとは思えないほど乱暴な馬車の音が響いた。
「なに......? こんな朝早くに......緊急なのかしら」
一体どこの家に?
ほんの少しの野次馬心から、窓を覗き込んだ。
私の家からはまだ何も見えず、遠くから馬の音が響くばかりだ。
こんなに遠くからでも大きな音がするとは。
自分も馬車を手配する時は気をつけなければ、と1人ごちる。
しかしながらちょっと時間を考えた方が良い。
おおらかな人柄の人が多いとはいえ、マナー違反な行動は咎められがちだ。
どんなに国柄、という話になろうとも、血気盛んかつ短気なお人はどこにでもいる。
あまり度が過ぎれば怒鳴り込まれても致し方ない。
ふと、前世での生活が頭をよぎった。
旅行や仕事でタクシーを早朝に予約して迎えにきてもらっていた日常を思い出す。
細かな事だが、やはり前世の世界と全然違うんだな、なんて思う。17年もこの世界にいるのに今更ながらそんなことを思う。
やはり恋しく思い、懐かしくて帰りたいと思ってしまうことはある。
ひとえに私がこの世界に不適合なだけなのだと思うけれど。
不適合、不安定、そこまで考えて、ディオが少し前に漏らした言葉を思い出した。「あと少し」その言葉を素直に受け取れば、もう少ししたら私は上手く魔法が使えるのだろうか。それともディオにとって私がいらなくなるという意味だろうか。あの時は私らしくもなく、それ以上聞けずに言われるがまま出来損ないの魔法をかけ続けた。
やっぱり私は、どうにも求められていることに、喜びを感じているようだ。「はいおしまい」と、このよくわからない関係を終わらすのが怖いのだろうか?
何が「ごめん」だったのか。それすらわからない。
わからない。
そっと、窓を閉めようと手をかけると、あることに気がついた。
あれ......馬の音が消えてる?
綺麗さっぱり、馬の息の音も、馬車の音も。
突如、カツカツと靴裏を豪快に鳴らして歩く音が聞こえたかと思ったら、我が店のベルがピンポーンと鳴り響いた。
え?
一瞬間体がこわばる。これはうちのベルがなったの?
一拍置いて、ピンポンピンポンピンポンピンポーンと部屋中にベルの音が鳴り響き始める。
「うち!? わわわ、待って待って待って!」
ぎゃーっと心の中で叫び急いで階段を駆け降りる。
「一体誰なの...?」
一気に3階から1階まで駆け下り、店の中を駆け抜けて扉に手をかけた。
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