その魔物の名は (ディオ視点)
引き続きディオ視点です。
新種の魔物が出たという報告があり、いの一番に呼ばれたのが僕だった。
自惚れではなく、この国ではまぁまぁ強いと自負しているので僕に声がかかるのはそんなに不思議なことではなかった。
魔力量やスキルや技術、器用さにおいては昔から恵まれていたので、それを磨き続けてきた今では1人でも依頼を受けることはそう難しいことではなかった。
普通は騎士たちは国に所属しているので、王族もしくはそこから枝分かれして騎士隊長が名を連ねる。隊長がそれぞれ、騎士たちの中から自身の隊に引き入れた人材でチームを組み魔物の討伐へ向かう。
少なからず派閥も存在するので、それを好まない人間はフリーランスの騎士となり、依頼されれば自分で価格を設定して民間業務も国の命令にも従うような者もいる。
我が家系はプリースト、聖職者の家系で、父親も司祭、父の死後兄が司祭となり聖堂の運営をしている。
元々は回復専門のシスター輩出が主軸だったが兄の代になってからはどこから来たのか疑問だが、『聖女』の出現で、彼女たちの聖なる力を派遣する事に重きを置いている。
今となっては王家の力と同じくらいの影響力を持つようになってきている。
我が兄は自分とは違い、よく頭が回るので経営向きだ。
僕にはない穏やかさと人当たりの良さを持ち合わせていて、まさに真逆と言えるだろう。
僕はといえば、どちらかといえば怒りっぽいし、魔法を動かす事に関しての才能はあったようだが人を動かす才はからっきし。いつでも集団で動くことは苦手だった。
兄が司祭となるのは自然の流れだ。
少なからず、派閥争いが懸念され半ば強制的に僕は騎士の道、兄は司祭の後継と道を分けられた節はあるものの、それがベストであるという認識はある。
兄がどう思っているかはわからないが、僕は異議はない。能力をよく見極めた采配だと思う。適材適所。量才録用。良い塩梅に落ち着くところに落ち着いた。
◆
「何だ......! これは......」
国の境目、隣国にほど近い、山手の林道にそれは現れた。
森林の合間を抜けるような道なので、日が入りづらく、やや薄暗くはあるが、こんなにも憂鬱そうな景色だっただろうか。
そろそろ寒い季節になることは予測されているが、それにはまだ早いはずだ。
まだ肌を刺すような寒さも感じはしないし、強い冷たい風もない。
林道はまっすぐに進んで、森のより深い場所へ続いている。突如切り取ったように、まるで線が引かれたように、ある一定の場所から日が全く入っていない。
木々の葉の間から差し込むささやかな木漏れ日もなければ、雲の動きも感じない。
小鳥の囀る音は一方では聞こえているというのに、一歩禍々しい暗闇に入ると、それすら届かなくなる。
怪しげに肌にぶつかるのは、生暖かい空気。
ーーーたったの一歩。
一歩踏み込んだだけで空気が切り替わった。
夜を感じる暗さであるというのに、この生臭く暖かく絡め取られそうなねっとりとした空気はまさに異様そのものだった。
木陰からぬっそりと現れたのは、汚れて切り刻まれたボロボロのシーツが浮かんだような姿の魔物だった。
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