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さかなはとのさまにやかせよってやつ2


 

 ポカンとそれを見ていると、「やっぱりだ」とディオが呟くのが耳に入った。

 その声色は嬉しそうな色が含んでいる。


「この『魔女の呪い』って厄介でね。僕は先日までかなり疲れてた。もうそれこそ立っているのもやっとだった訳だけどステラ覚えてる?」


「うん、確かにあの時ディオはすごく疲れてた......」


 確かにそうだった。

 しっかり覚えている。

 まだ大汗をかくほどそう暑くもないのに玉の様な汗をかき、気怠げであったのは記憶に新しい。

 

 目の前の元気でにこやかな青年が全くの別人であると言われても、信じてしまうくらいには表情や態度、どれをとっても機嫌度が全く違う。



「魔女って上級中の上級の魔物で、最近現れた魔物の中でも未知数のS級の魔物だったんだ」


「ステラ知ってる?」と聞かれ、首を横に振れば、良かった。それで良いんだよ、と答えた。

 何が良いのかはわからないが、答えはない。まだ公開されていない魔物なのか、脅威になり得る繁殖力を持つのか......。

 わからないままに話は進んでいく。


「ソイツの討伐に行ったはいいけど、最後の最後で呪いを僕が受けたってわけ。はぁ、時間を戻したいよ。あんなヘマするなんて......慢心してた。反省するよ。倒すには倒せたんだけど呪いがね。最悪でーーー恐ろしい事に、回復魔法が全く効かなくなってしまったんだ」


「魔法が効かなく、なる?そんな事......」


「そう、一切受け付けない。いや、むしろそれこそが僕の体を蝕む。ダメージとして体が受け取る。だから回復薬程度で倒れてしまった......あ、気にしないで。僕は気にしてない。たまたま疲れも疲労も随分溜まっていて良くない状態だっただけだ」


 先日、私が回復薬を頭からかぶせた事が脳裏によぎり、血の気が引いていく。気にするなと言われても、そう簡単に切り替えるのは容易ではない。より一層の罪悪感が胸にザワザワと漣の様に音を立てて耳に押し寄せている。


「こんな身体でしかも不気味な模様までプレゼントされて、ついたあだ名は『呪騎士』。下手に回復役も雇えないモンだから毎日がスリリングで参ったよ。おまけに化け物扱いときた。僕は強いから良いけどさ......どうにかしてこの身体にくっついてる呪いをなんとかしたいと、仕事の合間にあっちこっち珍しい魔具収集や魔法の研究にいそしんでいたわけ」


「なるほど」


 確かに彼は初めてこの店に来た日、大量に魔具を買って行った。よくよく思い出してみれば、彼が買っていったものはどこでも売っているような物、つまり1箇所から大量生産され多くの店に置いている物ではなく、セナード魔具堂にしかない一点物や、発注がかかれば作る様なオリジナル製品ばかりを買っていた。


 なるほどそういう物を求めていたのか、と納得がいく。

 ジャスティンがディオならたくさん買うと言うのはこういう事を繰り返しているのを知っていたからなのか。


 

 うんうんと相槌を打っていると、じっとこちらを探る視線を感じてディオを見ると、その瞳が嫌に期待を含んでいるのに気がつく。


 黒く覆う呪いの下から美しい顔がぐんと近付き、危うく肌が触れ合いそうになる。


「だが僕は見つけたんだ、ようやくね」


「それは......」


「そう! ステラの魔法だよ!」


 びしりと指を指され、断言される。

 私の魔法......それはとても光栄ではあるけれど、複雑な気持ちが渦巻く。

 使いたくて使っていない、使いたいのに使えない役立たずの出来損ない。

 それが私の魔法だ。

 誰のせいでもなく、私がただモヤモヤしているだけの事だ。

 きっとそんな意図がない事もわかる。

 ひねくれた自分の考えだ。

 なんて自分本位な考えだ。


 つい眉間に力が入り、表情が崩れるのが自分でもわかった。

 目の前に出された指を払いのければ、キョトンとした顔のディオが、「どうしたの?」と不可解そうだ。


「わかった......協力は、するけど......私は、魔法を普通に使える様になりたいの......」


『もしかして貴方のために出来損ないのままでいろってこと?』なんて、相手を傷つけてしまいそうな言葉が出そうになるのを口の奥に追いやって、本心を混ぜ込んだ言葉が口の端から溢れ出た。


 自分本位でわがままな自分を蹴り飛ばし、グッと唇を噛む。

 蹴った背中は私そのものだ。

 自分の言葉でしっかりダメージを受けた。


 前世でもあったっけ。上司の言葉を素直に受け入れられず、どうやっても自分のやり方を曲げられなくて、つい口答えする器の小さな私。そのあとついてくる自己嫌悪はしっかりセットされている。

 自分の欠点が役に立つ。光栄だ。



「もちろん。僕も君の、ステラの役に立つよ」


 ディオは、全て見透かしているかの様に微笑んだ。握手を求める様に差し出された手が私の目の前に現れた。

 

 不安は吹き飛ばすことは出来ないが、自分でそれを蹴散らす様に、振り払い強い気持ちで差し出された手を強く握った。




 

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