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さかなはとのさまにやかせよってやつ

 



 まるで天気がどんどん悪くなっていくような、気分の悪さ、重さを感じる。


 身体にあるのはただの痣であるのに、目が離せない。


 魔女、魔女。

 魔女の呪い。


 

 この単語が引っかかっているのに、その先が出てこない。思考が止まり、空回りする。

 この状況はなんだったか。

 まるでアルコールが入った時。

 

 何か魔法にかかってしまった様な、錯乱状態に入った様な、そんな感覚。


 トンと肩に手がかかり、ハッとした。

 視線を上げると、ディオがにこりと微笑んでいる顔が目の前にあった。思っていたよりも近づいていた事に驚いて即座に距離を取った。


 青くなっているのか赤くなっているのかわからないが、普段こんなに男性と近づくなんて事はしない。父親とももうこの歳になってハグもしなければ体が触れそうなほど近付くなんて事は無くなっている。

 思い出そうとしても鮮明には思い出せず、朧げな幼少期、そう、4歳や5歳の頃の記憶くらいでしかこんなに近寄った記憶はない。

 近所の友達とふざけ合ってもみくちゃに転げ回り遊んでいた頃の記憶がおそらく最後だ。それもまた、確かそんな事もあった様ななかった様な......くらいなものである。


 心臓が急激にバクバクと働いたので、多分私の顔は今両方の色をしている事だろう。混ざって紫にでもなっているかもしれない。


 そんな私を尻目に、ディオは涼しい顔である。

 こう言った戯れは日常茶飯事なのかもしれない。最初こそ機嫌も態度も悪かったが、ニコニコしていれば相当モテそうだ。



「はい! という事で、一発よろしく!」

「言い方! 言い方!」


 両手を広げたディオが満面の笑みでそう言ったので、うっかり動揺して目潰しの魔法を放ってしまった。



「ぶはっ」

「あっ! ご、ごめん」


 ディオの顔面に降りかかったのは、正式な魔法だと人体にさほど影響の出ない小麦粉の様なものがブワリと顔に向かって降りかかるというものだが、私が使うと、それはもうとても危ないものになる。


 そう。

 毒霧だ。


 うっかりで発動させる様な魔法じゃない事はわかっている。反省している。

 咄嗟に目潰しの魔法を発動させるなんて事今までないので、前科はないです。


「............」


「ディ、ディオ......?」


 顔の周りに紫の汁をくっつけたまま、まるで石にでもなったかの様に立ち尽くし固まるディオを心配して、顔の前で手を一、二度振ってみるも以前様子は変わらない。

 一点を見つめたまま固まっていたディオの視線はようやく動き始めたと思うと、ディオ自身のお腹に視線が泳いでいく。そして忙しなくお腹、胸へと視線が動いた。

 私もそんな彼の様子に釣られて黒く、渦巻く胸元に目がいく。

 魔女の呪いがおどろおどろしくそこにある。

 

「お!お?」


 突如声を発したディオに驚き、思わずディオの顔を見れば、目を大きく瞬かせ、ぱぁ、と輝くような笑顔を見せた。


 とても毒霧を顔面に浴びせられてする様な笑顔ではない。


「見た?」


「んん? 見た......って何を......?」


「呪いだよ。魔女の呪い。ほら、よく見て」


「ええ......」


 ここだよここ、と指さされた場所を見れば、魔女の呪いだという黒い痣、胸の真ん中で渦を巻いていた場所が、ズルズル、ズズズと音を立てて広がっていた。


黒い痣の真ん中に、健康的な肌色がポカンと現れたのだ。




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