#068 〈姫職〉装備が強すぎる。だけど連携は別物。
「く、『挑発』!」
シエラの盾を掻い潜り、後衛のラナの下へ向かおうとしたコアラ型モンスター〈アラル〉がシエラの『挑発』を受けて方向を変える。
「エステル! シエラが引きつけている間にあぶれている奴から各個撃破しろ! 後衛には絶対に抜けさせるな!」
「はい!」
現在9層。
モンスターは最大で4体が同時に出現するようになった。
やはり数が増えた途端難易度が高くなり、連携にどんどん綻びが生まれるようになった。
俺はラナの前に陣取ってヒーラーを守るポジションに固定し、戦闘はタンクのシエラ、アタッカーのエステル、バッファー兼ヒーラーのラナの手に任せている。
しかし、シエラは良い感じだが、エステルとラナは複数を相手にしたパーティ戦の基礎がなっていなかった。
2体目、3体目くらいならごり押しでなんとでもなったが、4体からは今のように前線から抜けられそうな事も増えてきた。
俺はエステルに指示を出し、アタッカーとタンクのコンビネーションを教え込むと同時にパーティの立ち回りも説いてる所だ。
シエラは〈王家の盾〉とも言われた良家の出身だけあってタンクの仕事が完璧だった。
今のもモンスターを3体引き受け、残りの1体をエステルに処理してもらう立ち回りを見せたのに、エステルがそれを察せずにシエラの方に向かうモンスターを処理したために起きた事故だ。
俺が見る限りでもシエラは優秀なタンクと言えるだろう。
ラナはこの段階でもまだ手持ち無沙汰だ。
バフはやってもやらなくてもまださほど差は出ないし、回復は未だに一度も行なっていない。
しかし、俺に守られているのはなんか良いらしく、機嫌だけは良かったが…。
ハンナは採取メインなのでその辺でうろうろしている。〈『ゲスト』の腕輪〉も付けているのでモンスターから狙われもしない。
『ゲスト』はこのようにハイド系としても使う事も出来る。
そうこうしている間にエステルが全てのモンスターを倒して、シエラと共に戻ってきた。
「シエラ様、申し訳ありませんでした」
「別に良いわ。大事にならなかったんだし、最初は誰でもそんなものよ。ゼフィルスの指示を身につければそんなミスは無くなるわ。頑張りなさい」
「はい。精進いたします」
「……俺から何か言う事は無さそうだな」
エステルも、今の未遂事故が何によって引き起こされたのか理解し、さらに反省もしている様子なので俺もそれ以上は言わず、次の事について全員の希望を聞く事にした。
「この先は10層。つまりボスがいるわけだが、どうする? このまま挑むか。もう少し練習を積むか」
「……ゼフィルス殿は、どうお考えですか? 正直言いまして私はあまり自信が無いのですが……」
エステルが不安そうに漏らす。まあ今失敗したばかりだからな。
「私は行っても良いと思うわ」
「どうして?」
「多少連携が出来ていなくてもどうとでもなるでしょう?」
シエラが挑むのに賛成すると、ラナが不思議そうに尋ねる。しかし、返ってきた言葉に「ああ」とすごく納得したように頷いていた。
今一番敵に手応えを感じていないのはラナだからな。
シエラの「ごり押しで簡単に倒せる」とも取れる発言に、今までと同じ感じになるのだろう、と考えてしまったようだ。
まあ、否定はしない。
だって彼女たちの装備、むちゃくちゃ優秀だもんな。俺の〈天空シリーズ〉に迫るくらい。
実家からの援助があるお嬢様は装備も優秀だ。羨ましい。
とはいえこれには理由がある。
本来ならゲームで〈姫職〉が手に入るのは早くても一年生の後半のはずだった。その頃なら彼女たちの装備でも別にそこまで優れているでも無かったわけだが、〈ダン活〉がリアルになって、本来あり得ないはずの4月に〈姫職〉ゲットの弊害で、このような装備Tueee状態になっている。
まあ、それを言ったら〈天空シリーズ〉も同じだけど。
というわけで、装備でゴリ押しできるとシエラは非常によく理解しているらしい。
たとえボスだとしても、初級下位程度、適当にやっても楽勝である、とな。
俺も完全に同意なので最初からゴーサインを送るつもりだった。
故に引き返すか? ではなく練習もっとするか? と聞いたわけだ。
皆の視線がエステルに向く。
「自信なんて結果を出さなければいつまでも付かないわ。まずは挑戦してみなさい」
「エステル、私も良いと思うわ。行きましょう?」
「は、はい。シエラ様とラナ様が言うのなら私も異存はありません」
というわけで、次は彼女たち初めてのボス戦だ。




