#600 エステルVSトモヨ。〈12組〉拠点を攻め落とせ。
〈ダンジョン馬車〉の一撃を見事に止めた。
しかし、それにビックリしていたのはトモヨも同じ、内心「え、嘘、本当に止めちゃった?」とビックリしていた。
さすがにトモヨも〈ダンジョン馬車〉を止められるとは、ちょっと思う事が出来なかったために動揺して固まってしまったのだ。
しかし、それもラナの言葉で正気に返る。
「メルトたち出番よ! エステルも、すぐに装備を換装して! 拠点攻略よ!」
「任せてもらおう!」
「は、はい! 了解いたしました!」
正気に返ったのはエステルたちも同じで、ラナだけが冷静に、いやテンションそのままに対応できていた。
〈サンダージャベリン号〉のドアが勢いよく開いてメルトたちが飛び出し〈12組〉の拠点へと突っ込む。
トモヨが〈ダンジョン馬車〉を受け止めたことで「きゃー!」「すごい! トモヨが止めたわ!」と歓声を上げていた〈12組〉拠点も、すぐに悲鳴に早変わりだ。
「み、みんなー!?」
「あなたは行かせません! 私が相手です! ――『ドライブ全開』!」
「わっわわ!?」
トモヨが踵を返して拠点の援護に向かおうとするも、〈サンダージャベリン号〉から素早く降りて装備を外し、代わりに〈蒼き歯車〉に換装したエステルが回り込む。
装備を素早く換装するために〈蒼き歯車〉は〈サンダージャベリン号〉の御者席の近くに用意されていたのだ。
トモヨは回り込まれてしまった。背中を突かないとはエステルの騎士道が見える。
エステルは直感でこの二盾使いのトモヨはかなり出来る人物だと看破していた。
そしてエステルの予想は当たっている。
トモヨは〈12組〉在籍であるが、勇者の講義第一期生として参加しており、勇者ファンとして仲間同士で協力して勇者君の教えを忠実に吸収して急成長した一人だ。
シエラの理由と同じく最前線に出るために、いつも取り巻きを連れているアケミにリーダーを譲ったが、〈12組〉最強はこのトモヨである。
「――『ロングスラスト』!」
「――『盾流し』!」
ガツンッ! と金属同士が接触する音が響きエステルの槍による中距離突撃が簡単にトモヨの盾によって流される。
まるでシエラのような見事な受け流しに、もしスキルでの突きではなく、通常攻撃でいっていたなら体勢を崩されていたであろうとエステルは気を引き締める。
しかし、トモヨは焦っていた。
今の攻撃が予想以上の威力だったのだ。
防御スキル『盾流し』は相手の攻撃を横に流し逸らすスキル。故に成功すればほとんどダメージは負わない。にも関わらずHPが30も減っていた。
「どんな攻撃力しているの!?」と思わずにはいられない。
今の自分は孤立状態。
支援回復は受けられず、相手を倒してくれる味方もいない。
そしてこのままだと削られまくって負けるだろうことは明らかだった。
たった一発の交戦で悟ったトモヨはなんとか味方と合流できないかと考える。
しかし、エステルが速すぎてとてもではないが振り切れそうに無い。
援軍がやってくることにはなっているが、まだ姿は確認出来ない。当り前だ、ついさっき別れたばかりだ。
となればトモヨの残りの手札は、相手を〈気絶〉状態にする『シールドシンバル』しかなかった。
『シールドシンバル』は両手の盾で相手の顔面を挟み込むことで〈気絶〉状態にすることが出来る強力なスキル。
しかし、大きな欠点がある。それは超至近距離での技だという点だ。
エステルは〈戦車〉があるので足が速く、槍の間合いを常に維持している。トモヨが前に出ればエステルはその分下がる。追いつけない。
「何それ、詰んでるじゃん」とトモヨは頬を引きつらせた。
「――『レギオンスラスト』!」
「――『堅盾』!」
さらに猛攻。
エステルの小範囲攻撃。連続突きとその後の薙ぎ払いがトモヨを襲う。
フィードバックで少しずつ、しかしどんどんダメージを負うトモヨ。
「ひぃぃ」と内心叫びながら、なんとかパリィを狙うが、エステルもシエラと模擬戦をしてるためにパリィにさせない技術が大事だと知っていた。
フェイントを混ぜて通常攻撃をしつつ、スキルも混ぜて相手のリズムを崩す攻勢でトモヨにパリィのタイミングを掴ませない。
しかし、それでもエステルは二盾を抜く事が出来ない。
「なかなかやりますね」
「お褒めの言葉ありがとう! 勇者君にも伝えておいてね!」
やけっぱちでエステルの褒め言葉に答えるトモヨ。ちゃっかり勇者君へのアピールも忘れない。
エステルも素晴らしい人材がいたら教えて欲しいとゼフィルスに言われているため否は無い。
「お約束しましょう」
「え、ほんとに!?」
「隙有りです!」
「ああ!?」
なんということだ。
エステルの甘言に躍ってしまったトモヨ。
ガッチガチに硬かった二つの盾に思わず隙が出来てしまい、エステルに突かれてしまう。
しかしさすがはトモヨ。すぐにまたガッチガチに戻る。
通常攻撃だったためにそこまで大きくダメージは負わなかったのが幸いだった。
「な、なんという卑劣な手を!」
「いえ、そこまで言われるほどでは無いと思われますが」
トモヨの抗議をエステルは簡単に流した。
エステルはちゃんと約束は果たすつもりだ。それで隙を作るのはまた別問題である。
勇者ファンの悲しい性だ。
トモヨは焦る。
このままでは削られまくって負けてしまうだろう。
ラムダよ、早く来てくれと願う中、しかし届いたのは拠点からの悲鳴だった。
「私の出番ね! メルトたち援護するわ! ――『大聖女の祈りは癒しの力』! 来なさい光の剣――『大聖光の四宝剣』!」
ここにはまだ一人、忘れてはいけない王女様がいたのだ。
空に浮かぶは四つの光の巨大剣。
『大聖女の祈りは癒しの力』によって〈回復〉のカテゴリーを加えられたそれは〈白の玉座〉の『回復減退耐性LV10』の効力により威力がほとんど減退しない遠距離攻撃となって敵を襲う。
〈白の玉座〉に座ったラナが、エステルから外されて放置された〈サンダージャベリン号〉、その横で祈っていた。何を祈っているのだろうか? 気になるところだ。
〈12組〉拠点のメンバーやトモヨがその宝剣を見て呆け、次の瞬間には飛んでいった宝剣にメンバーたちが遠目にも慌てる姿が目視できた。
そして防衛メンバーと防衛モンスターが吹っ飛んだ。
「行ってきなさーい! まだまだ行くわー『聖光の耀剣』! 『聖光の宝樹』! 『光の刃』! 『光の柱』!」
「ひゃあ!? みんな下がって、というか全力回避ー!?」
「ってちょっと待て、俺たちも退避だ!」
さらにラナがここぞとばかりに攻撃魔法を連打する。
メルトたちが相手をしようとしていた防衛モンスター集団、そのド真ん中に直撃。
多くが光に消えてしまう。
ちなみにメルトたちはギリギリで下がったのでセーフである。
ラナよ、フレンドリーファイアには注意である。〈8組〉はラナの攻撃を受けたらダメージが減退しないのだ。クラスが違うから。
しかしラナの攻撃連打によってほとんどの防衛モンスターが一掃されてしまう。
そのあまりの光景に、〈12組〉の動揺はとても激しかった。
そしてその隙を逃すメルトたち〈8組〉ではない。
「良し、総攻撃だ! 〈12組〉を落とすぞ!」
「「おお!!」」
メルトの指示で〈8組〉が攻勢に乗り出し、終始〈8組〉有利で拠点が攻め込まれた。
それを見てエステルがトモヨに最後の宣告をする。
「そろそろ決着を付けましょう。私はエステルと申します。お見知りおきを」
「うう。私はトモヨ、勇者君にちゃんと伝えておいてよ?」
「はい。では行きます。『ドライブ全開』! ――『戦槍乱舞』!」
「――『ダブルシールドバッシュ』!!」
こっちでも決着が付こうとしていた。
エステル最強のスキル、四段階目ツリーの『戦槍乱舞』。
『ドライブ全開』とのコンボにより、縦横無尽で駆け巡るエステルからの高威力の連打。
とても防御スキル一つで乗りきれるものでも無く、トモヨは賭けに出た。
ジーロンを屠った『ダブルシールドバッシュ』からの『シールドシンバル』のコンボだ。
しかし、それは敵わず。
「きゃあぁぁ――――」
元々エステルの方がスピードが速いのだ。
盾突撃の『ダブルシールドバッシュ』は避けられ、そして『戦槍乱舞』の直撃を受けてトモヨは退場してしまう。
それから少ししてメルトたちによって、〈12組〉の拠点も陥落してしまうのだった。
――第6位、〈12組〉陥落。




