#578 宙を舞う〈天下一大星〉。騎士VS騎士。
リーナから「〈1組〉の本隊が南西へ逃れようとしていますわ」と連絡を受けたラムダはそのまま、足の速いメンバーをまず連れて南へと急いでいた。
〈マッチョーズ〉とあのセレスタンは南へと逃れたはずだがいつの間にか姿が見えない。
だが、〈1組〉の本隊がわざわざ第四要塞の南の地点(図F-18)を経由するということは、微笑みの筋肉部隊と合流するからだと見てまず間違いは無い。
合流のタイミングを見逃さず叩けば、被害はそれなりのものとなるはず。
特に〈1組〉本隊は追いかける別働隊を相手にしており、側面と正面、二方面からの攻めが出来る。このチャンスを見逃す手は無かった。
求めるのは速さだった。
タイミングが遅ければ〈1組〉は南へと逃れてしまい、一方面からの攻撃と化して側面からの攻撃のチャンスを失ってしまう。
故にラムダは足の速い四人で進むしか無かった。
「リーダー、こっちに数人が差し向けられた!」
「足止めか。押し通る!」
スピード優先にしたおかげで、なんとか〈1組〉が本格的に南下する前に側面につけそうだ、というところで〈1組〉本隊から別働隊が分かれた。俺たちのほうに向かう、数は四人。
足止め要員だ。
「我はサターン! 偉大なる【大魔道士】、サターンである!」
足止めに出てきた四人のうち、どこかで見た事があるような魔法使い風の男子が大声を響かせた。
む! 名乗りか!
戦場で名乗られれば名乗り返すのが騎士道だ。
「俺の名はラムダ! 職業は【カリバーンパラディン】だ! その道、押し通らせてもらおう!」
ラムダが名乗り返すと目の前の四人が慌てだした。
む、隙だらけに見える。本当に攻撃してよいのだろうかという思案が一瞬過ぎるラムダだったが、それは【大魔道士】の男子が魔法攻撃を放ってきたことで払拭された。
「ふ、『フレアバースト』!」
「道を開けるぞ! ――『聖光剣現・真突』!」
相手の魔法攻撃に対し、ラムダが選択したのは四段階目ツリーの一撃。
敵の攻撃もろとも飲み込み破壊する巨剣の顕現。『聖光剣現』の〈突〉だった。
瞬間、〈聖属性〉と〈光属性〉の二属性が込められた巨大な剣を顕現させ撃ち放つ。
その発射された巨剣は敵の魔法攻撃を貫き粉砕し、そのまま敵四人の下へ突撃。
タンクが防ごうとしたみたいだが、それは叶わず「ドガァァァンッ!!」という音と共に四人は宙を舞った。
「「「「うおおぉぉぉぉぉ!?」」」」
彼らの悲鳴がこだました。
しかし、さすがに一撃では退場者は出なかったようだ。
だが、敵を瓦解させることには成功する。
「さっすがリーダー! 一撃だぜ!」
「ああ。このまま進むぞ! 邪魔なようならすり抜けざまに斬れ!」
宙を舞った四人はそのまま地面に転がりダウンしてピクピクしている。
おそらくもう邪魔をすることは出来ないだろう。結構吹っ飛んだので距離が遠い。追撃する時間も惜しいと今はスルーする。
しかし、彼らは本当に〈1組〉だったのだろうか、あまりにも手ごたえが無かったのが少し気になる。
そんな考え事をしながら余所見をしていたためだろう。
ラムダはすぐ近くで何か車輪のようなものの駆動音が聞こえるギリギリまで、その者の接近に気がつかなかった。
「『ロングスラスト』!」
「うおおぉぉぉぉぉ!!」
それに反応して大盾を構えられたのは偶然だった。
「ガキィーン」という金属音を大きく響かせ、ラムダはサイドステップでその者から距離を取る。
「私の名はエステルと申します。ここで足止めをとゼフィルス殿からの指示を仰せつかっております。少ない時間ですが、どうぞよろしくお願いします」
そこにいたのは風変わりな、足に車輪を装備した美麗な女子。
お淑やかそうな見た目に反して強者の実力を持つ騎士。あれほどの攻撃力、〈キングアブソリュート〉でもそうはいない。
「これは丁寧に。俺の名はラムダだ。こちらこそよろしく」
クラスメイトに向けて指を二本立て行くなと合図して、ラムダは返答しつつ考えをめぐらせる。
なんとも厄介なことだと。
エステル女史と言えばユーリ王太子の妹君の護衛として騎士爵では有名だ。
ギルド〈エデン〉でも非常に強力なアタッカーの騎士として名が知られている。
騎士とは騎乗することでアタッカーとしての真価を発揮する職業だ。
本来は馬などに乗り、騎馬突撃などで強力な突破力を誇る。
だが、彼女の場合、乗っているのは馬ではなく、車輪。
初戦、準決勝戦で見た、あの縦横無尽に駆け巡る〈乗り物〉系の装備だ。
これにより、馬に乗っていないのに非常に高い機動力と攻撃力を兼ね備えた騎士が誕生している。
おそらく、ラムダたちが押し通ったところで追いつかれて終わるだけだろう。
エステル女史が出てきた時点でラムダたちは〈1組〉への攻撃の機会を完全に失ったのだ。
しかし、悪いことばかりでもない。
エステル女史が〈1組〉の集団から出てきてくれたのだから。
もし討ち取ることが出来れば、これからの展開で有利になれることは間違い無い。
ラムダは覚悟を決める。
「いざ尋常に、勝負!」
「はい。では〈天下一大星〉のみなさんは、お連れの三人のお相手をお願いしますね」
「わ、我らに任せよ!」
いたのか、さっきの【大魔道士】よ。
しかもいつの間にかHPが全回復してバフまで付いている。さっきの〈マッチョーズ〉たちと同じか。
数は四人。ラムダはエステル女史にかかりきりになるため。クラスメイト三人で相手にしなければならない。人数的に少し厳しいか? と思うラムダに、クラスメイトは【大魔道士】男子たちを指差しながら自信満々に言う。
「リーダー! あのへなちょこどもは俺たちに任せてください」
「だ、誰がへなちょこだ! 捻り潰してやろう! ――『フレアインパルス』!」
そして始まる戦闘。
ラムダは向こう側は任せるしかあるまいと前に集中する。
ラムダの相手は、上級職のエステル女史だ。
強敵だ。ラムダは気を引き締めなおした。




