#559 実況席。決勝戦開始! 今までに無い展開!
―――ブザーが鳴る。
十数分前には全て平地、そして中央には特設ステージがあるだけの会場が、今ではステージは片付けられ巨大な山々がそそり立つ〈五つ山隔て山〉フィールドへと変貌を遂げていた。
観客席はいつも以上に高くなり、山々を越えて見渡せるようになってはいるが、さすがに障害物が多すぎて見渡しづらい状況であり、いくつものドローンのような機械型モンスターが放たれ、その目を通じて巨大四面スクリーンや16面スクリーン、スタンドモニターに戦況が映し出されている。
なお、これは観客席くらいの高さからじゃないとちゃんと見えない仕掛けになっており、実際〈拠点落とし〉に参加している選手からは、巨大な山の頂上に行ったとしてもモニターは砂嵐のようになって見れないものとなっている。
すでにフィールドは整えてあり、八クラスは指定どおりの箇所に立つ拠点へと飛ばされていた。
そうして準備が整いカウントダウン。
―――〈クラス対抗戦〉決勝戦が今、始まった。
観客席が盛り上がる中、実況席のキャスとスティーブンも存分に熱中し、声を張り上げていた。
「とうとう始まった〈クラス対抗戦〉の決勝戦んんーっ!!」
「どこのクラスが勝つのか、とても楽しみですね」
「私は楽しみすぎてマジ眠れなかった! どこが勝つんだ! ほぼすべてが高位職クラス、ほぼすべてが優勝候補でこんな決勝戦は見たこと無いぞーー!!」
「ここまで〈2組〉や〈4組〉など、強いクラスが次々と敗退していくというどんでん返しも多かったです。今回もどんでん返しになるのでしょうか?」
「おおっとスティーブン君、その言い方、まるで優勝候補筆頭の〈1組〉が負けるかも、と言っているように聞こえるよ?」
「ふふ。そうでしたか? ですが、本当に分からないのも事実ですよ。決勝戦にはそれほどのツワモノクラスが揃っていますからね。それに一九ブロックを震撼させた〈51組〉は必見です」
「言うねぇ! ちなみにスティーブン君はどこが優勝すると思っているの? 推しは?」
「ええ。さてさて、確かに〈1組〉は一人一人が強力な使い手です。それが組んでいるのですから能力の相乗効果は何倍も上がり、他を寄せ付けないほど非常に強いクラスです」
「おお~、べた褒め! でもそれならどうして〈1組〉が負けるかもと思ったんだい?」
「はい。確かにここまで圧倒的な力を示して来ました〈1組〉ですが、他のクラスも強者ぞろい。この強豪クラスを複数相手にしたとき、さすがの〈1組〉でも厳しいのではないかというのが僕の予想です」
「なるほど~。スティーブン君の意見も分かるね~。ここまで一番目立っていたクラスだもん、狙われる危険も最も高いよね」
「はい。そしてそうした展開が起きたとき、僕が推すクラスは〈51組〉です」
「お! 意外な予想! てっきり〈5組〉辺りを予想するのかと思ってたよ!」
「〈5組〉も非常に強いクラスです。力、そして知略としての面も言うことなし。さらにリーダーは例のギルドの切り札ですからね。しかし、〈51組〉のリーダー、ヘカテリーナさんは別格です。ひょっとすれば、知略で〈1組〉を追い詰めるのではと僕は思っているのですよ」
「おおっと! とんでもない発言だー!!」
「特にこのフィールドでは分断されやすく、各個撃破、伏兵、罠などこれまでの対人戦では無かった戦法が多く用いられることになるでしょう。ヘカテリーナさんはその辺をとても得意としております。〈1組〉がこれまでどおりスムーズに、圧倒的強さを発揮して勝つことは、難しいでしょうね」
「にしし。なるほど~スティーブン君の意見は分かったよ。というか〈51組〉というよりヘカテリーナさん推しだね」
「はい。ヘカテリーナさんは中位職から高位職の【姫軍師】へと〈転職〉し、一年生最強ギルド〈エデン〉へと加入。大成功した方です。それだけでも大注目でしたが、例のアイテムを使った戦法は僕を虜にして止みません」
「わぁお~、スティーブン君がそこまで言うなんてね。――でもね、私は〈1組〉が優勝すると思うな」
「ほう? それはやはり強いからですか?」
「そう、単純に強いんだよ〈1組〉は。一人一人、個人個人の能力が高い。そうして連携をとってさらにそれを何倍にも昇華してくる。この世は実力主義、〈1組〉はそれを最も体現しているクラス。だからこそ、私の推しは〈1組〉だよ!」
実況席で、横目で見つめあったキャスとスティーブンがニヤリとする。
「ではキャスさんの推し、いえ、優勝予想は〈1組〉ですね」
「そうでーす! 優勝は〈1組〉! ちなみに推しは勇者のゼフィルス君だけどね」
「やっぱりですか。同門対決ですね」
「〈エデン〉のメンバーは〈1組〉の方が多いよ~。やっぱり優勝は〈1組〉じゃない?」
「ふふ、面白くなって来ましたね。どちらも学年最強ギルドがリーダーを務めるクラスですか。〈エデン〉のメンバーといえば〈8組〉も該当します。というより〈エデン〉のメンバーが在籍するクラスは全員勝ち上がっていますね」
「とんでもないギルドだよね~~、さーてどこが勝つのか、〈1組〉か〈51組〉か、それとも〈8組〉が勝つのかーー!」
「――おっと、実況席が優勝クラスを予想している間に動きがありましたよ」
「あ! 本当、〈1組〉が大きく動き出してるよ!」
「やはり、〈1組〉の動きは大胆にして自信に溢れていますね」
「なんなら今から優勝予想、鞍替えしてもいいよ?」
「ふふ、遠慮しておきますね。その方が面白いですから。――おっと? ここで〈1組〉が新たな動きを見せました? いえ、――これは?」
「ええ!? おっと〈1組〉! なんと攻めの部隊を細かく分けました! 四部隊、いえ五部隊!? 細かく分かれてフィールドに散らばっていった!? これはいったいどういうことなのかスティーブン君!?」
「このフィールドでは平地が少ない分、分断がされやすく、各個撃破がされやすい。また応援の情報伝達が上手くいかないことも多いため、より部隊を固めた方が良いとされています。ここで人数を分ける意味は? ――いや、そうか!!」
「何か分かったのスティーブン君!?」
「ここは見通しが悪く、大部隊ですら隠れられれば見逃しやすいなど様々な特性があります。ですが、大部隊が動くにはそもそも必要なことがありますよね?」
「あ、そうか! 情報収集班!」
「もしくは工作班などでしょうか。つまりは斥候です。〈1組〉はこの少数精鋭の部隊を各所に放ち、斥候を出会いがしらに倒すつもりでしょう。このフィールドでは情報が滞ることはかなり難しい展開になりますから」
「つまり?」
「〈1組〉の狙いは他クラスの戦力、斥候を狙い撃ちし削り取る気のようです」
「これは大胆に動いてきたね! 一歩間違えれば逆に部隊が各個撃破されるよ!」
「ですが、有効な手です。ここは見渡しづらい。見えにくい、だからこそ斥候がより重要とされる。そんな斥候をガンガン潰されれば手痛いダメージとなるでしょう。さらに、他のクラス同士のやり取りや手を組むといった共同戦線も組みづらくなります」
そう自分で言ったスティーブンが自分の言葉に息を呑み〈1組〉の行動を一瞬たりとも見逃さないよう集中しだす。
しかし、その時別の方向を見ていたキャスから声が上がった。
「――あ、でもそんな目論見は外れるかもしれないよスティーブン君?」
「……む、それは、どういうことですかキャスさん?」
「――他のクラスもみんな、少数精鋭を出してきたみたい! あそこなんてそろそろ〈1組〉とぶつかるわ! 激闘の予感!?」




