#558 決勝戦フィールドは固定〈五つ山隔て山〉!
会場の中心部には初戦の時と同じようなステージが設けられている。
そこに立つのは我らが〈1組〉の副担任、ラダベナ先生とムカイ先生だ。
ステージ前には決勝戦まで勝ちあがった八クラスの学生たちが控えていた。
「これより、決勝戦フィールドの選定を行なうよ! フィールドが決まり次第、〈1組〉から得点が多い順に拠点の配置をムカイ先生に伝えていきな。制限時間があるから気をつけるんだよ」
マイクのようなアイテムにラダベナ先生がそう言うと、巨大なスピーカーから会場中に声が届いた。
その後、ラダベナ先生がムカイ先生に指示を出すと、ムカイ先生がいつも持っているタブレットをタップ。
頭上にある巨大スクリーンがまるでスロットのように回りだした。
あれでランダムにフィールドが決まるのだ。
初戦はムカイ先生が適当に決めた、と思わせて一年生初戦用のフィールドにセッティングされていた。しかし、決勝戦ではそれなりに難易度の高い固定フィールドのどこかから選ばれることとなる。第五アリーナのフィールドなので、下手をすれば二年生用のフィールドに決定される可能性もあるドキドキスロットだ。グルグル回っておられる。
全クラスと観客が見守る中「ドルルルルルッ」と回っていたスロットが止まる。
ごくりと、誰かの息を飲んだ音が響いた気がした。
そして最初に声を出したのは、ラダベナ先生だった。
「…………ほう。こいつは中々面倒なフィールドじゃないか。決まったよ! 今年の〈クラス対抗戦〉〈戦闘課1年生〉の決勝戦フィールドは、〈五つ山隔て山〉だ!」
――――おおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!
巨大スクリーンに映し出された映像とラダベナ先生の司会に会場が盛り上がる。
映っていたのは、フィールドの中央、そして四隅に特徴的な巨山があり、他にもフィールド中に散らばるようにして配置されている数々の山。
池は無く、障害物は全て山、そして平地の方が少ないくらい山がそこら中に散らばっており道が非常に狭い。山ばかりの山岳地帯フィールドだった。
そここそが〈五つ山隔て山〉フィールド。完全に二年生用の難易度である。
「〈五つ山隔て山〉かぁ。こりゃ、難易度高いなぁ」
俺はスクリーンを見上げながら呟いた。
多分、俺の表情は盛大にニヤけているに違いない。
平地が少ないフィールド、道が狭いフィールドとは、つまりは敵との遭遇が非常に高くなり、遭遇戦になりやすい他、平地の確保という概念が生まれてくるフィールドである。
第五アリーナの中でも難易度はそこそこ高い。決勝戦にふさわしいかと言えば、ふさわしいんじゃないだろうか?
ただ、障害物が多いフィールドなので観客席から見えづらいかもしれないが。
それはともかくとして、フィールドを決めたら次は拠点の場所決めだ。
「それじゃ〈1組〉代表、前へ出な。拠点の場所を決めるよ」
「はい!」
ラダベナ先生に促されステージへと上る。
決勝時の拠点の場所を決める順番は、準決勝のポイント数で決めている。準決勝のポイントが多い順番に場所を決めていく形だな。〈1組〉は歴代記録を更新するポイントをたたき出したので当然1番手だ。
後に〈51組〉〈5組〉〈8組〉〈9組〉〈12組〉〈3組〉〈10組〉と続く。
俺はそのままムカイ先生の下まで向かって、タブレットに拠点の位置をタップしてすぐに戻った。ちなみに拠点の位置は巨大スクリーンには投影されない。
素早く終えた俺を見て他のクラスが少しざわめいていた。どうやら難易度の高いこの〈五つ山隔て山〉にてあっさり決めたのが意外だったらしい。
「勇者さん、あっさり決めたわね」
「思い切りがいいのか、それとも〈五つ山隔て山〉が選ばれたのは想定内なのか、考えなしということは無いな」
周りからそんな話し声が聞こえる。
まあ、ぱぱっと決められたのはこのフィールドがゲーム時代にもあったものだからだな。
山々が連なりすぎて防衛に適した場所が数多く存在するこのフィールドだが、さらに数箇所、特段に守りやすい場所というのが存在する。
その内の一つをヒョイっと貰っただけだ。
いやぁ、1番に選べるってやっぱり有利だよ。マジで。
続いて〈51組〉のリーダーリーナが、これもあっさり決める。2番手が中位職の〈51組〉という事で観客席がざわざわしているな。
そこから〈5組〉もやや迷っていたがすぐに決め、続いて〈8組〉メルトも十分考察してから決める。一瞬メルトが俺の方を見たのが気になったが、どこに決めたんだろうねぇ。
〈9組〉のリーダーはタブレットを見たときかなり驚いていたが、即決する。もしかしたらいい場所が残っていたのかもしれない。
〈12組〉だが、ジーっとタブレットを見つめたかと思うと、突如目を見開いて即で決め、「ブー」とエラー音を出していた。どうやら他のクラスの拠点と近すぎたらしい。一応好きな場所に拠点は配置できるとなってはいるが、他のクラスの拠点に近すぎる位置には配置できないルールとなっている。防衛モンスターが拠点から2マスまで動けるので、他の拠点とは最低でも5マス離れた位置じゃないと拠点は配置できない。
〈12組〉リーダーはしぶしぶといった様子で他のところに決めたようだ。
続いて〈3組〉の「狐人」のリーダーがかなり迷っていたが制限時間いっぱいまでを使って決め、最後は〈10組〉が唸り声を上げんばかりに悩んでいたが決めて拠点選びは終了した。
さすがに最後のほうはいい場所が残っていないだろうからな。〈3組〉と〈10組〉はかなり悩んだ様子だった。
俺たち〈1組〉は1番手だったのでどのクラスがどこの場所を選んだのかは分からない。
まあ、大体予想は付くんだけどな。
〈五つ山隔て山〉フィールドは先ほど言ったとおり、平地が少ない。
拠点は平地にしか築けないため、拠点を作れる場所が限られているのだ。その代わり隠れる場所はたんまりあるが。
俺は各クラスが拠点を決めている間にメモをサラサラ書いておき、カルアに渡しておく。
「このフィールドはとにかく隅に拠点を建てる傾向が強くなる。この辺が要注意箇所な。見つけたらどこのクラスのものか調べておいてくれ」
「ん」
そんな会話がなされたが、他のクラスには聞こえなかっただろう。
全ての行程が終わるとラダベナ先生が再びマイクに向かって言う。
「さて、これで全クラスが決まったね。続いてはフィールドの構築を行なう、この場所も巨大な山になるからあんたたちも一時控え室に転移させるよ。フィールドが整い次第、各拠点に送る。そうしたら10分後に試合開始だ。しっかり準備しな!」
俺たちが返事をする前にムカイ先生がタブレットを操作すると足元に転移陣が表れ、俺たち〈1組〉はさっきまでいた控え室に転移していた。
他のクラスはいない。きっとそれぞれの控え室に転移させられたのだろう。
転移って優秀だな!
その後に、ゴゴゴという地鳴りのような音が響くと、俺たちが見守る数分後にはフィールドが山たくさん生えてくるようにして形作られていき、整えられてしまう。
「マジ、アリーナ便利、超ハイテク」
思わずそんな言葉が漏れちまったぜ。
フィールドが整ったところで再び足元に転移陣。
すると今度は、俺が選んだ拠点の場所に立っていた。
拠点に向かっているところを他の対戦相手に見つかると拠点の方角がバレ、試合開始前に不利になるからとはいえ転移で送迎とか、マジアリーナ内ならなんでも有りだな。ダンジョンでも最奥に送迎してほしい。
クラスメイトたちがキョロキョロとしているのを見て声をかける。
「さて、みんな注目!」
全員の視線が俺へと向いた。
そこへ俺は宣言する。
「もうすぐ最後の〈クラス対抗戦〉だ! 目指すは優勝以外にありえない! 絶対勝つぞ!」
「「「おー!」」」
「では、これから周囲の確認をしつつ具体的な作戦の指示を出す」
そうして俺はこの〈五つ山隔て山〉での動きをクラスメイトたちに伝えていくのだった。




