#531 〈45組〉〈99組〉〈116組〉の密談。
ところ変わってアリーナの中央付近には3つの拠点がところどころに点在していた。
中央付近には巨大な山と山脈が南と東に立ち、その間は渓谷となっていた。
その渓谷に拠点を構えるのが高位職クラスの一角、〈45組〉。
残り2つの拠点は東の大山脈を背に、東と南に分かれている。
東に位置するのが〈99組〉。中位職のクラス。
南に位置するのが〈116組〉。低位職のクラスだった。
大山脈はかなり特殊な形をしており、上から見るとかなり歪みが多く、拠点を目立たないように隠すにはうってつけの地形だった。
〈99組〉と〈116組〉のクラスはこのブロックでは食われる側。山々を背にし、外敵から見つからないように拠点を構えることに注力していた。
しかし、すでに両クラスは〈45組〉に見つかっており、攻め入ることをしない代わりに軍門に下れと、現在交渉の只中にあった。
「協力体制、ということか? 同盟を組むと?」
とある大山脈の一角で話し合いが行なわれていた。
〈116組〉のリーダーが、交渉を持ちかけてきた〈45組〉のリーダーへと聞き返す。
「同盟まではいかない。あくまでも手を組むだけだ。また、指揮権は〈45組〉が貰う。〈99組〉、〈116組〉には陽動、索敵、伝令などの支援をしてもらう」
「そ、そんなのただの使いっ走りじゃねえか!?」
「別に断ってもいい。その時は俺たちも玉砕覚悟で点を取らせてもらうまでだ」
〈45組〉のリーダー。巌のような四角い顔をした男子、ギンの言葉に〈99組〉のリーダーが不満を漏らす。
この場にいるのは各クラスのリーダーと、その護衛1人ずつを合わせた計6人。
交渉、というよりもほとんど一方的な通達だった。
当たり前だが、高位職と低位職では戦力に違いがありすぎる。ぶつかれば低位職に近い〈99組〉なんて木の葉のごとく散らされてしまうだろう。
まだ、〈45組〉の言うことを受け入れたほうが救いがあった。
この〈クラス対抗戦〉〈拠点落とし〉ではブロック内で順位制が採用されている。
順位のつけ方は基本ポイントだが、拠点が落とされればその時点で負け。
拠点を落とされた順に最下位から埋まっていくルールで、つまり最初に拠点が落とされれば最下位、次に落とされれば7位、という順に順位が決まる。
ポイントで順位が決まるのはタイムアップ時、生き残っていた拠点同士での話だ。
また高順位なら、それだけで良い景品が学園からクラスへと贈呈される。
1位だけではなく7位までは何かしら貰えるのが〈クラス対抗戦〉だ。なお、最下位8位は残念賞が送られる。
〈116組〉は、最初から勝ち抜きを考える気はなかった。
いや、勝ち抜けると思うほうがどうかしているという心境だった。
何しろこのブロック、〈1組〉と〈2組〉がいるほか、高位職クラスがあと3クラスもあるのだ。どう頑張っても漁夫の利を狙おうとも無理なものは無理だった。現実を見て、なるべく高順位に入りたいという程度だ。
例年ならまだ低位職クラスによるどんでん返しはあった。高位職クラスが多くて7クラスまでしかいなかったからだ。しかし、今年は約7倍の50クラス、低位職クラスには辛い状況だった。
故に〈116組〉は最初から1位は目指さず、最低でも最下位だけは入らないを目標にしていたため、〈45組〉の話は受け入れやすかった。
「わかった。これより〈116組〉は〈45組〉の指揮下に入る。クラスのみなにもそう伝える」
「話が早いな。よろしく頼むぞ」
「お、おい本気かよ〈116組〉の!? こいつは俺たちを使いっ走りと肉壁くらいにしか思ってないぞ!」
「失礼な。これでもだいぶ譲歩しているのだぞ」
「だな。〈99組〉のリーダー。もし〈45組〉が本気ならばこうして交渉の席を用意するまでもなかったはずだ」
「……くっ」
一方的な通達に荒れていた〈99組〉リーダーだったが、暗に力ずくで言うことを聞かすこともできると言われて歯を食いしばる。
「時間は無い。〈99組〉よ、今ここで答えを聞かせてほしい。指揮下に入るならよし、入らないもまたよし。しかし、入らないのであれば最下位の順位は埋めさせてもらうぞ」
「けっ、ずいぶん焦っているじゃねぇの〈45組〉の。高位職クラスが何をそんなに慌ててるんだか。俺たちは中位職の底辺に近い〈99組〉だぞ? なぜそんなに手を組みたがる?」
時間も無く迫られた〈99組〉リーダーが悪態をつくが、同時にこれほど自分たちに拘る理由も見当たらず疑問を投げた。
自分たちは〈99組〉だ。言ってはなんだが下から数えたほうが早く、中位職クラスの中では底辺に近い。所属するクラスメイトも中位職、中の下のみしかいない。
しかも低位職クラス〈116組〉にも声を掛けている。この疑問ももっともだった。
問われた巌の男、――ギンは、腕を組み重い口を開いた。
「俺たち〈45組〉は、確かに高位職クラスだ。しかし、決してその力は高くない。現に我らは〈24組〉と同盟を組んではいるが、いいように使われているのが現状だ」
今現在、〈45組〉では、別働隊が〈24組〉に攻め入った〈2組〉を倒すための作戦を決行中だった。しかし指揮系統に関しては全てスタークスに持ってかれている。
〈45組〉リーダーであるはずのギンがその作戦に参加していないのがその証拠だった。このままでは〈45組〉は〈24組〉にいいように使われるだけで終わるだろう。
おそらくこれで〈2組〉の力はかなり削ぐことができるだろう。悔しいが、〈24組〉のリーダースタークスは優秀な男だった。
〈45組〉と同盟を結んだとたん作戦に協力せよとほとんど有無を言わさず決定事項を告げられ、作戦に参加していた。
成果が上がるのは実にいいことだ。スタークスの力と戦力が揃えば、ブロックを勝ち抜くことは十分可能だと思われる。
しかし、それではダメだ。
「〈24組〉とは知恵合戦でも、戦力のぶつけ合いでもおそらくうちのクラス単独は勝てはしない。我らが勝つにはさらに協力者と戦力が必要だ」
「つまり、本当の狙いは〈24組〉か? そのための戦力として俺たちが必要だと?」
「そうだ。もし〈2組〉を下せばブロックを勝ち進むのは〈1組〉と〈24組〉になる可能性が高い、このままでは〈45組〉に勝利の目はない」
「ずいぶんぶっちゃけてくれるじゃん。俺たちが裏切るとか考えないのか?」
「その時はその時だ。言っただろうこのままでは〈45組〉に勝利の目はない。ならば、足掻くだけだ」
「俺たちは協力して他のクラスと戦い、最後は3クラスで〈24組〉を打倒する? 荷が勝ちすぎるぜ」
「成功報酬は上位の順位だ。どのみちそちらはこのままでは最下位に近い順位しかなれないだろう。協力したほうが得だと思うが」
「それをお前が言うなよ〈45組〉の! けっ、しかし確かにこのままじゃまじぃことは確かだ。わかったよ、俺たち〈99組〉も協力してやる。その代わり、やるなら勝てよ?」
「善処する」
巌の男ギンの言葉に〈99組〉のリーダー、ちょっとチャライ系男子が堅ぇという顔をする。
しかし、手を組むことはできた。
少しずつ戦況が動いていく。
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