#462 やってきました〈海ダン〉の日! さあ出発だ!
「ゼフィルス、ハンナ。相変わらず早いわね」
「おはようシエラ。もう待ちきれなくってな、早く来すぎちまった」
「シエラさん、おはようございます」
とうとうやって来た〈海ダン〉の日。
ギルド部屋で朝一番にハンナと共にやってきて待機していたらシエラが現れた。
さすが、シエラ。彼女も十分早い。
まだ出発まで2時間ほどある。
しかし、責任感の強いシエラだ。
サブマスターであり、まとめ役でもあるため早めに来た様子だ。
「ちょうどよかったわ。ちょっとゼフィルスに聞きたいことがあったのよ」
「お、なんだ?」
「このスケジュールにある夜のモンスターハントって何かしら? どこで何をするかと、目的がよく分からないのよ」
おおう。ちょっとドキッとした。
さすがシエラ。そこに引っかかっちゃったか。
そう、これは俺がモンスターハントと言っているだけで内容は、例のシエラが苦手な肝試し的なアレである。
やっぱり夏で学生で小旅行といったら肝試しは必須だろ! 日帰りだけど!
シエラの目を欺くために〈夜のモンスターハント〉と命名しておいたが、さすが、察しのいい。
俺は適当な理由をつけて誤魔化すことにした。
「ああ。今まで夜にダンジョンってあまり経験したことがなかっただろ? せっかくメンバーが全員参加で揃っているんだ、今後は泊り込みのダンジョン攻略もするだろうし、夜のハントにも慣れておいた方がいいと判断したんだ」
「それって前回の合宿でそれなりにやらなかったかしら?」
「ラ、ラナたちが不参加だったからな。そ、それに前回の合宿は夜はほとんどテントだっただろ? 今回は本格的さ。楽しめるイベント風に仕上げておいたぜ」
「ふーん」
ドキドキ、シエラの目がジトっていない。まだ誤魔化せるはずだ。
それから俺は口八丁でなんとか誤魔化すことに成功する。
シエラは、なんか納得していない感じだったがとりあえずは了解してくれた。
ふう。
時間が進むとぞくぞくとメンバーが集まって来た。
今回はレグラム以外全員参加だからな。合宿の時より多いぞ。
ラナはこぼれるほどの笑顔だ。
前回は合宿にいけなかったからな。楽しみなんだろうな。
「ゼフィルス。今日は楽しみにしておきなさい! 今マリーからとってもいい物貰ってきたんだから!」
うむ。昨日帰還した王女組も無事水着を入手できたらしいな。
「楽しみだなぁ」
「……なんだかそう言われたらちょっと恥ずかしくなってきたわ」
楽しみにしておけと言うから呟いたらラナが頬を染めて身をよじった。
その反応、なんか言葉にできないがいいぞ!
全員が揃ったところを見計らい、セレスタンが声を掛けてくる。
「全員集まり、準備も完了しました」
「おう! みんな、〈海ダン〉へ出発だ!」
「「「「おー!」」」」
わいわいがやがやと〈エデン〉〈アークアルカディア〉メンバーたちで〈海ダン〉へ向かう。
ずいぶん大所帯になってしまった、結構学生からの注目を集めている様子だ。
「ねえ。あれって」
「やっぱり〈エデン〉だよな! ちょ、全員いるんじゃないか!?」
「こんな戦力で、どこへ行くつもりなの? アリーナ?」
「いえ、この方向はエクストラダンジョンじゃないかしら。確か先日もメンバー大勢で〈食ダン〉で合宿をしてたって騒がれていたじゃない?」
「もしかしたら今回も、ってこと!?」
「なんてことなの。付いていったらだめかしら?」
「QPに余裕はあるのか?」
「くっ!」
「付いていったらおそらく〈秩序風紀委員会〉のお世話になってたと思うわよ」
「それにしても女子が多い。男子は前にいる3人しか見えないが」
「男子なんかどうでもいいぜ。俺は女子がいればいい」
「誰か! この不適切な発言者をしょっ引いて!」
「ギルティ」
「うわっ!? 何をする――やめっ――!?」
「これでまた1つ、悪が消えた」
「あ、あれが王女親衛隊の力!? 一瞬だったぞ!?」
なんだか周りが騒がしいような。
気のせいか?
しかし、騒がしさならうちのギルドも負けてはいない。
みんなこれからの事を思い浮かべはしゃいでいた。
「海か~。どんなところなのかしら」
「ん。ラナ、海は、しょっぱい、すごく」
「確かに、塩辛いとリーナも言っていたが、カルアは一旦食べることから離れよう。ラナ殿下はおそらく景色などの雰囲気を聞いたのだと思うぞ」
相変わらずカルアの注目するところは食のようだ。リカが冷静に教えてあげている。
するとカルアが腕を組んで困った顔をした。
「ん? ん~、キレイな、とこ?」
「なぜ疑問系なのだ?」
そういえばカルアも傭兵団で移動したときに海を見たことがあると言っていたな。
しかし、カルアは海のことを食べ物関係しか憶えていないようだ。
さすが食いしん坊。
後でシーフードカレーでもご馳走してあげよう。
「リーナさん、海では気をつけることは何でしょうか?」
「そうですわね。やはり水難事故が怖いので深いところに行かないことですわ。みなさん水着も初めて着たとおっしゃっていましたし泳ぎも初めてなのですから、最初は腿より深いところは行かない方がよろしいでしょう」
こちらでは、領地に海があり経験豊富なリーナがアイギス先輩を始めとする面々の質問に答えていた。
「たはは~、私も泳げなくってさ。前に湖で水浴びしたとき溺れかけたことがあるんだよ。その時は途中で足がつくことに気が付いて難を逃れたけどさ、やっぱりしばらくは水が怖くなっちゃったしね。後で調べてみたら溺れないコツは深いところに行かないことと、冷静に足がつくってことを思い出すことなんだって」
「なるほど、ミサトさんの話も尤もですね。気をつけましょう。ですが、そうなるとルルはどうしましょう? ルルの身長では本当に波打ち際でしか遊ばせられません」
「そ、そこまで過保護じゃなくてもいいんじゃないかなシェリアちゃん? 浮き輪だってあるんだし、波打ち際って……」
「そうですわね。ルルさんが小さくても浮き輪を使い、誰かがいるところでなら少し深いところでも大丈夫ですわ。ただ、完全に足がつかない場所は近づかない方がよろしいかもしれません」
「あい! 分かったのです!」
みんな来るべき海に注意事項を確認しているみたいだ。
なるほど、そうか。リアルでは溺れるという事がありうるのか。ゲーム〈ダン活〉に溺れるという現象はなかった。
〈ダン活〉では水の中で戦闘をするようにできてはいないのだ。
リアルになったから溺れる心配があるのか。
溺れる心配をまったくしていなかったので通達し忘れていた。今度は気をつけよう。リーナには感謝だ。
さて、やっと〈海ダン〉の門に到着だ。
ゆっくり手を伸ばして門の中に入れていき、いざ、出発だ!




