#431 夏休みと言えば海! なのに水着が売ってない件
〈助っ人〉を依頼して管理と経理を外部委託する話は概ね賛成ということで可決した。
一部、外部に任せて大丈夫か、という意見もあったが、守秘義務というものもあるので問題は無いだろう。もし正当な理由なく秘密を漏らせば、その学生の未来は明るくないものとなってしまう。就職は絶望的だろう。
その辺についても学園は厳しい。
じゃあ、〈助っ人〉制度なんて誰もやらないんじゃないかと思われるがそんなことは無い。
学生にとっても十分なメリットになりうるのだ。
まずはQP。つまり依頼料でありお給料だ。
次に内申点。仕事が評価されれば学園だって就職先を推薦しやすい。
学生自身の成長もある。様々な分野を体験することで、その経験を将来に活かせるかもしれない。失敗できるのも学生のうちだけだ。
また、この〈助っ人〉はあくまで学園の制度のため、学園が面倒を見てくれるというのも大きい。トラブルや大きな失敗があっても学園が間に立ってくれる。つまり保険があるのだ。
要は守秘義務を破ったり、犯罪を起こさない限りメリットの方が大きいのである。
自分を磨きたい学生はこの〈助っ人〉制度をよく利用しているらしい。
故に〈エデン〉の大きすぎる秘密が外部に漏れる心配はほとんど無い。
そう言ってメンバーに〈助っ人〉制度を利用することを納得してもらった。
まあ全部任せるのはさすがに問題があるので、セレスタンやシエラを筆頭に現場監督的なことをしてもらう予定だけどな。
また経理担当の件は、新しいメンバーを加えてもいいのでは? QPが掛からないメリットがあるし、外部委託では人材が抜けた時に人材不足になるデメリットがある。という意見もあったが、まず人件費はそれほどお高くない。というより〈エデン〉の今の稼ぎから見てまったく痛くないので問題なかったりする。かなり稼いだからな。
それに上級ダンジョンに突入すれば、もっと稼ぎが増える。
そうなればメンバーはお給料をアップするし、メンバーに加えたほうが出費は増える。との意見も上がり、外部委託したほうが出費を抑える事が出来るため、その案もボツとなる。
デメリットもスキルがあるので問題なし。基本はセレスタンが管理するし、素材等の数の管理をスキル持ちに任せる形にするからだ。【ワーカー】系や【商人】系ならその辺得意分野だからな。
あとの細かいところはセレスタンに任せる。
「この〈助っ人〉に関してオススメの人材がいたら教えてくれ、もしいなければ掲示板で募集する。一応最低3人くらい雇う予定だ」
「ならここは私の番だよね!」
そう名乗りを上げたのは我らが頼れるスカウトガールのミサトだ。
どうやら人材について心当たりがある様子だ。
さすがである。
しかし、ミサトにはやってもらう仕事がもうひとつある。
「ミサトにもう1つ頼みがあるんだが」
「ん、何かな?」
「下部組織の昇格試験を行なうから、〈アークアルカディア〉のメンバーを補充したいんだ」
「ああ~。そうだよね。うん、任せてよ! 期限とかある?」
「これから帰省の時期だからな。夏休み明けを予定している。準備を頼めるか?」
「オーケー!」
「メルトも例の人材の確保、よろしく頼む」
「ああ。任された」
今回の昇格試験で〈アークアルカディア〉のメンバーは減る。
そのための補充だ。それをミサトとメルトに頼んでおく。
前回は急な面接だったため「伯爵」や「侯爵」のカテゴリー持ちなどの人材が集まらなかったが、今回は1ヶ月以上の時間がある。なんとしてもメンバーに加えたいね。
「また夏休み中の話だが、ギルドで第二回慰労会を予定している」
「慰労会! また食材ダンジョンに行くの!?」
俺の発言に一番に反応を示したのはハンナだった。
いや、〈エデン〉のメンバーの多くが注目していた。
前回、〈エデン〉は慰労を目的としてエクストラダンジョン、〈食材と畜産ダンジョン〉に行ったことがある。食材を大量にゲットしまくってみんなで盛大に騒いだのだ。
あれは楽しかったなぁ。
ということで、第二回目も決定です。
しかし、場所は前回と違うよ。
「〈食ダン〉もいいが、今回は別のダンジョンに遊びに行くぞ」
「どこよゼフィルス。もったいぶらずに早く言いなさいよ!」
わくわく顔のラナが急かすので手で落ち着くようジェスチャーしつつ答える。
「今回予定しているのは海が広がるエクストラダンジョン、〈魚材の海辺ダンジョン〉、通称:〈海ダン〉を予定している」
「「海!」」
ラナとハンナがハモる。
他のメンバーもざわざわする。
「私、海って見たことないのよ」
「私もだわ」
「わたくしは領地の近くに海がありますので何度か。とても迫力がありますわよ」
「へ~楽しみ!」
ラナやシエラでも海は見たことが無いらしい。この辺に海は無いからな。ハンナなんか村から出たことないし、当然見たことがない。
しかし、遠い領地に住んでいたリーナは海が近くにある場所に住んでいたらしい。
他のみんなはほとんどの人が本物の海を見たことがないようだ。
みんなが興味深げに質問する。
「海ってしょっぱいと言うけど、本当なの?」
「あれはしょっぱいを超える何かですわ。塩分が高すぎて、飲めないのです」
「そんな場所に入っても大丈夫なのかしら?」
「ええ。入る分には問題ないようですわ。領民も冬以外は海に飛び込んでいますから」
「飛び込むの!?」
「海に入るときは専用の装備に着替える必要があると聴いたわ。本当なのかしら?」
「おっしゃるとおりですわ。水着といって――」
リーナがとても人気者になった。
ラナやシエラを初めとして質問攻めにあっている。
みんな海に興味が尽きないのも分かるが俺の話も聞いて?
「皆さま、水着を着るときはスタイルを特に気にするべき、と忠告させていただきますわ、異性にアピールする、とっておきの場なのです」
「「ごくり」」
「それでリーナ、その水着はどこへ行けば手に入るのかしら?」
「え? ここは水着は市販されていないのですか?」
「うん、見たことないかも」
しかし、話は厄介な方向へ進む。こっちではあまり水着は売ってないらしい。
シエラの問いにリーナが驚き、ミサトが頷く。
え? 夏で海と言ったら水着だろ? 売って無いの?
ヤバイ。これは、水着はこちらで用意しないとダメな感じだ。〈海ダン〉に行くのは早まったか?
いやしかし、夏と言えば海に行くのは当然にして必然。
ゲーム〈ダン活〉時代は時間を気にしてあまり行かなかったが、そんなことはどうでもいい。
俺は海でみんなと遊びたい!
しかし、水着がないとかナンセンス。
ここは作戦会議だ!
「セレスタン、メルト、レグラム、カモン!」
すでに会議的なものは弛緩しつつあったのでとりあえず放置して、男同士で作戦タイムに移る。
俺の気迫になんだなんだと集まる男子諸君。
早速議題を繰り出した。
「〈魚材の海辺ダンジョン〉は海に入って遊ぶことが可能なんだ。ここは水着装備を揃えておきたい」
「揃えればいいじゃないか」
まったく危機感の無い態度でそう言うメルト。
くっ、男子たちも水着の良さが分かっていない様子だ。見た事がなければそれは当然かもしれない。
レグラムもメルトに同意見とばかりに頷いている。
まあいい。賛同してくれるなら話は早い。
「よし。じゃあ水着を揃えるぞ。問題なのは水着装備の素材である魚素材がエクストラダンジョンにある、という点だな」
〈ダン活〉では魚モンスターはほとんど登場しない。
水に入って戦闘することが無いためである。
しかし、ここ〈魚材の海辺ダンジョン〉では魚モンスターが登場する。なぜか空中を泳いでいたり、脚が生えていて水陸両用だったりするので陸での戦闘が可能なのだ。魚モンスターが本当に魚に分類されるのかは分からない。
そしてドロップする素材は加工すると水着防具になる。
なるのだが、そうなると二回ダンジョンに行かなくちゃいけないんだよな。
攻略に一回、装備を整えて水着回に一回。QPが……。
おのれ開発陣め。水着回をしたければQPを払えだと!?
(※QPとは学園からのご褒美です)
とりあえず、水着防具を揃えるためにも動く必要があると分かった。
危なかった。ここで言っておいて正解だったな。
もしかしたら水着の無い海回になるところだった。セーフ。
その後、エクストラダンジョンに行く日取りを決めた。
なんとかこの日までにはみんな学園に帰ってきてみんなで海に行こう! という計画だ。
よって夏休みの終わりごろに慰労会は設定されたのだった。
もちろん慰労会の前に俺は水着素材を揃えに旅立つことも予定に入れておく。
腕が鳴るぜ。
全員に通達すべきことは大体通達し終わったので、これにて解散する。
レビューいただきました!
応援ありがとうございます!
設定とその表現にはとても力を入れているので、読みやすい、好感がもてると言っていただきとても嬉しいです。
キャラも頑張って力を入れているため気に入っていただけて良かったです!
これからも頑張って書いていきます。
今後も〈ダン活〉をよろしくお願いいたします!




