#392 やっとこの時が来たか〈金猫の小判〉発動!
「来たか!」
「〈金箱〉なのです! キラキラなのです!」
〈猫キング〉の消えた後に残った金色に輝く2つの宝箱。
それを見た瞬間俺とルルは叫んだ。
〈幸猫様〉、ありがとうございます!
〈猫キング〉はレアボスではないので宝箱2個は〈幸猫様〉の恩恵だ。
それと、やっと〈小判〉が仕事をしたようだな。
おお、〈金箱〉様〈金箱〉様、お待ち申し上げておりました!
いつ見ても神々しい美しさです!
「ゼフィルス、来た」
「待たせたなゼフィルス。さっきは遅れをとった」
そこへやって来たのはお供を相手にしていたカルアとリカだ。
〈猫キング〉が消えたことで自然とお供も消えたらしいな。
お供はボスより弱いはずだが、どうも倒しきれなかったようだ。
1体は倒したようだが、もう1体は倒す前に終了してしまったらしい。
ここの猫型モンスターは強いからな。〈白猫〉も〈黒猫〉も猫の中の精鋭だ。
タンクとアタッカー1人じゃ倒すのに時間が掛かりすぎるか。
〈猫キング〉の方は実質アタッカー2人、いや、俺もチョコチョコ攻撃していたから3人で削っていたことになる。
そりゃ倒す時間に差が付くだろう。
次からはお供は引き離すだけで無理に倒さず、ボスを4人で攻める戦法に変えるか?
そんなことを考えるが、まずは労いの言葉だな。
「お疲れ様。カルアもリカもよく頑張ったな。リカはそんなに落ち込まなくてもいいぞ、相性が悪かったんだ」
「うむ、分かってはいるが、ゼフィルスのタンクを見ているとな……。精進いたそう」
「あまり気負いすぎないようにな。よし、反省はここまでだ! 見ろリカ、カルア! あの宝箱が目に入らぬか! イベントの始まりだ!」
「ん、〈金箱〉。2つ。ゼフィルス、テンション高い」
「ゼフィルスはいつもあれを見るとこうなるな」
カルアとリカが俺を見て妙なことを呟くがスルーする。
〈猫ダン〉に来て初めての〈金箱〉だぞ? 中級中位初めての〈金箱〉だぞ? テンション上がるだろう!
「話は聞かせてもらったわ!」
「聞かせてもらったよゼフィルス君!」
とそこへラナ登場! ついでにハンナも登場する。
な、なん、だと!?
「どっから現れた!?」
「もちろん門が開いたからそこからに決まってるでしょ!」
「シェリアさんがおいでってしてくれたんだよ」
「さいで!」
後衛のシェリアは一番門に近い位置にいたからだろう。
さっきからこっちに来ないと思っていたが、ラナたちを呼び寄せていたらしい。
「綺麗な〈金箱〉ね」
〈金箱〉を見つめるラナとハンナの目が怪しい。
「開けちゃダメだぞ?」
「あ、開けないわよ!?」
ならなぜつっかえる?
俺はラナに疑いの眼差しを向ける。
「な、何よその目は、失礼しちゃうわ。み、見るだけよ。本当よ? ね、ハンナ」
「も、もちろんだよゼフィルス君。見るだけだから、〈金箱〉から何が出たのかだけ見させて?」
「うむ」
まあ、さすがに〈金箱〉を横取りはしないよな。どうやら疑心暗鬼になっていたらしい。俺は疑いの眼差しをやめる。
そこへ続々とメンバーが集まってきた。
〈金箱〉が出たという話が広まったのか、みんな興味津々で〈金箱〉を見つめている。
中級中位ダンジョンの〈金箱〉だ。それはもう注目の的だろう。
全員が集まったところで俺は宣言した。
「さて、今回の〈金箱〉だが、〈エデン〉を代表し、俺が開けようと思う!」
せっかくの記念すべき初めての中級中位ダンジョン産〈金箱〉だ。
ここはギルドマスターである俺が開けるべきだろう。
前回中級下位の時に物申してきたラナとハンナはむむむと言わんばかりの顔だ。
先ほど見るだけと言ってしまったからな。ラナとハンナは参加できないのだ。ふはは!
と、勝ちを確信していたところ(何に勝ったのかは不明)意外なところから手が上がる。
「ルルも一緒に開けたいのです!」
なんということだ。小さい手を精一杯上げてアピールするのはルルである。
まさかの展開だ。純粋さが眩しすぎて溶けてしまいそうだ。
俺はハッとしてシエラのほうを向く。
前回、記念すべき中級下位初の〈金箱〉の時は結局ラナとハンナ、そして俺で大いに揉め、最終的にシエラの雷が落っこちたのだ。あれは恐ろしかった。
シエラは今でこそ様子見しているが、俺がここでルルを突っぱねれば再び雷を落とされかねない!
ふう。俺は学んだのだ。
みんなで開けよう宝箱。シエラの雷、恐ろしい。
あの時のように同じ轍は踏まないのだ。
幸い、宝箱は2つある。
しかし、ルルの一緒はそういう意味では無かった。
「ゼフィルスお兄様と一緒に開けるのです!」
「じゃあ一緒に開けるか!」
「開けさせません!」
「あっれぇ!?」
共同作業の申し込みに物申したのはシェリア。その腕はすでにルルを捕まえ、絶対にあなたには渡さないと言わんばかりだ。
「ルル、開けたいのなら私と開けましょう?」
まさかの伏兵。
ルルが手を挙げたらシェリアが俺のポジションを奪いに来た。
しかし、
「シェリアお姉ちゃんとは隠し扉の時に一緒に開けたのです! 今回はゼフィルスお兄様と一緒に開けたいのです!」
「そんな!?」
ルルのセリフによってシェリアは撃沈した。
ということで今回、宝箱を開けるのは俺とルルの共同作業に決まった。
もう一つの宝箱がシェリアとなる。
ルルに手を引かれて宝箱の前へ移動する。
「ゼフィルスお兄様、ここ、ここに屈んでください!」
「お、おお。ここ?」
「そしてルルはここなのです!」
ルルによって誘導され宝箱の正面に屈むと、俺の腕の中にすっぽり入る形でルルが入ってきた。
まるで俺がルルを背中から抱きしめているかのような構図だ。ルルはこの形で宝箱を開けたいらしい。
ルルがスーパー幼女だからこそできる共同作業だった。
あれ? でもこれ傍から見たらやばくない?
チラリとみんなの方を向くとワナワナとしたラナと目があった。
「ちょっとゼフィルス、あとで覚えてなさい?」
「ゼフィルス殿、後で話があります」
「…………」
ラナとシェリアの目がマジだった。ついでにシエラはジト目だ。
俺はサッと目を逸らし、目の前の宝箱に集中する。
後のことは未来の俺に任せればいいのだ。
頑張れ、未来の俺。
「ゼフィルスお兄様、せーので開けるのですよ?」
「そうだな」
ルルと一緒に宝箱に手を添える。
ルルの身体が小さいので難なく後ろから手を回して宝箱を掴めた。
準備は万端だ。ルルのほうも小さな手で宝箱の両側に手を添えている。
「「せーの!」」
二人の声が重なり、宝箱を開いた。
みんなで中を覗きこむ。
中から出てきたのは、白と黒を基調とし、中心に金の王冠の意匠が輝くオカリナだった。
「〈オカリナ〉キターー!」
それは〈レアモンの笛〉シリーズ、正式名称〈レアモンのオカリナ〉という、レアモンスターを呼び寄せる〈笛〉アイテムだった。




