#284 ゼフィルス敗北。カルアとリカが尊い。
「エステル、大丈夫だったか?」
「はい。ダメージはすぐにラナ様に回復していただきましたから。しかし、不覚を取りました」
「ま、たまにこういうこともある。防御力もある程度育てている理由だな。たとえあれが直撃してもやられはしなかっただろうが」
「はい。ラナ様とリカ様にはお礼を申し上げてきます」
すぐにフォローをしてくれた2人にエステルが礼を言いに向かうので付いて行く。
とりあえず無事で何よりだ。
〈ダン活〉では属性によって状態異常がたまに誘発する場合がある。
火属性なら〈火傷〉、氷属性なら〈氷結〉、雷属性なら〈麻痺〉だ。
さらに言えば、光属性なら〈盲目〉、闇属性なら〈恐怖〉、聖属性なら〈混乱〉を低確率で貰う場合がある。
今回のエステルの〈麻痺〉は運が悪かったな。
だが、それもあの神フォローで帳消しだ。
「ラナ様、リカ様、ありがとうございました」
「気にしなくていいわよエステル、当然のことをしたまでだわ!」
「うむ。フォローが間に合って何よりだった」
「リカのフォローはマジ神がかってたぞ。あそこでユニーク決めて仕留めるとか超かっこよかったぜ!」
「そ、そうか? ゼフィルスにそう言われると照れるな」
「ちょっとゼフィルス、私も褒めなさいよ! ゼフィルスはもっと王女を褒めるべきだわ!」
「はいはい。ラナも浄化ありがとうな」
「すごく雑じゃないのよ!」
いや、さすがに活躍に差がありすぎるからこれは仕方ないだろう。
「ん、みんな〈銀箱〉出てる。2つ」
「マジで!? よっしゃ2つ〈銀箱〉だ!」
カルアに教えてもらいギュインという擬音がしそうなほど勢いよく振り向くと、〈デンキツネ〉のエフェクトが消えた地点に銀色に輝く〈銀箱〉が2つ鎮座していた。
瞬間、勢いよくダッシュ!
「待ちなさいよゼフィルス! 先に選ぶのは私のはずでしょ!」
ラナが何か言っているがそんな約束した覚えがない。
宝箱2つは〈幸猫様〉の恩恵。
つまりあの〈銀箱〉には〈幸猫様〉の『幸運』が働いているのだ。
絶対良い物が入っているに違いないのでダッシュで取りに行く。
ふはは!
ラナも負けじと追いかけてくるがもう遅い。
俺にAGIで勝てるはずないのだ!
「〈銀箱〉取ったどー!」
「そうはさせない」
「な、何ぃ!?」
一瞬で見極め、〈銀箱〉の一つに狙いを定めて確保する(?)直前、〈銀箱〉の前に割り込んできた者がいた。
〈エデン〉でトップのAGIを誇るカルアだ。
俺が〈銀箱〉に手が届く直前、インターセプトする形でペチっと手を叩かれる。
「むふぅ。ゼフィルスも選んだものなら間違いない。これは大物の予感がする」
宝箱の前でフンスするカルア。
カルアも『直感』持ちだったな!?
俺と同じくこの宝箱が気になった様子だ。マジかよ、先を越されただと!?
「くっ、ならばもう一つを――」
「残念だったわねゼフィルス! これは私が頂いたわ!」
「な、バカな…」
見れば追いかけていたラナがもう一つの〈銀箱〉にたどり着いていた。
確保される2つの〈銀箱〉。俺の手には無い2つの〈銀箱〉。
誰がどう見ても形勢は明らかだった。
がっくりと膝を付く。
「オーマイゴッド!」
思わず口から出た。
マジかよ。こんなことが…。
俺の〈銀箱〉は手からすり抜け、儚く散ったのだった。
「エステル、あの3人は何をやっているのだ?」
「いつもの遊びでしょう。ラナ様が楽しそうで嬉しいです」
「そ、そうか。……あれは私も参加したほうが良いのだろうか?」
「そうですね。いつかはリカ様も参加されるかもしれませんね」
「そう、なのか? う、うーむ。郷に入れば郷に従えとは言うが、私にあのテンションは自信が無いな…」
「そのうち慣れますよ。シエラ様だってクールに介入していらっしゃいましたから」
「あのシエラがか!? そうか、人は見かけによらないな…」
何かエステルが吹き込み、リカがこちらを向いて目をパチパチさせて驚いている様子だが、今の俺にそれを気にする余裕は無かった。
「さ、開けるわよ! カルアも〈幸猫様〉に祈るのよ!」
「ヤー。〈幸猫様〉、良い物お願いします」
「良い物ください! 〈幸猫様〉よろしくお願いします!」
カルアとラナが〈幸猫様〉に祈りを捧げるのに合わせて俺も心の中で祈った。
今回は譲ろう。しかし、次は譲るとは限らない!
そして祈りを済ませたラナがまずパカリと〈銀箱〉を開いた。
「これは、〈強化球〉ね!」
「何ぃ!?」
ラナが宝箱から取り出したのは〈二段スキル強化球〉が3つ。
アイテムや装備の〈スキルLV〉を2つ上げてくれる非常に重要なアイテムだった。
それが3つ、合計LV6上げられる。素晴らしい。
これだけでも大当たりといえるレベルだ。
俺の中で、早速候補となるアイテムや装備を思い浮かべる。何のLVを上げようかなぁ。
「ん、次、開ける」
続いてはカルアの番だ。
俺とカルアの『直感』持ち2人が良い物と判断した宝箱なのだ。期待が膨らむ。
「ん。長い…短剣?」
「お! これは短剣じゃなくて小太刀だな! しかも雷属性の付いた小太刀、〈六雷刀・獣封〉だ!」
「刀!」
俺の説明を聞いて、カルアが珍しく飛び上がるほど喜んだ。
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〈六雷刀・獣封:攻撃力52、防御力:18、雷属性〉
〈『ビーストキラーLV6』〉。
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詳細は、やはり〈銀箱〉産装備と言うことで〈金箱〉装備には劣る。
しかし、属性の付いた刀と言うのは非常に珍しい。
〈ダン活〉では刀を装備できる職業が少なかった関係で、〈刀〉の種類自体が比較的少なかった。
属性を使えると言うだけで非常にレアな武器なのだ。
一応リカは三段階目ツリーで属性攻撃の出来るスキルを使えるようにはなっているが、三段階目ツリーのスキルは高コストだ。ザコモンスター相手に連発はしたくない。
それに、カルアは〈デブブ〉の時自分だけ属性武器を貸与されたことを未だに気にしているようだった。もし属性武器の刀が出た場合はリカに貸してあげて欲しいと言っていたのを覚えている。
これは、カルアにとって一番欲しいものだったのかもしれないな。
「ん、リカ、これ使って欲しい」
「良いのか?」
「ああ。それはリカが使ってくれ。反りが入っているからパメラは使わないだろうしな」
「そうか。ではありがたく受け取らせてもらおう。カルア、ありがとう」
「ん」
カルアが渡してきた刀を左手に装備するリカ、確か左手の受けに使う方の刀は主装備と違い間に合わせだって以前聞いたことがあった。
〈姫職〉装備の〈剛刀ムラサキ〉を右手に〈六雷刀・獣封〉を左手に持つリカはかなり凛々しく、格好良かった。
「どうだろうか?」
「ん、リカ、すごくいい。似合ってる」
「ああ。格好良いぞリカ」
「ふふ、ありがとう。より一層精進いたそう」
新しい武器にリカも喜んでいる様子だ。
これは、俺が〈銀箱〉を開けないでよかったのかもしれないな。
ギュっとリカにハグされるカルアを見ながらそう思った。




