#281 やっと出発。そして到着20層!
〈六森の雷木ダンジョン〉の1層で思わぬ時間を食ってしまったが、女性陣が楽しそうだったので良しとしよう。
「さて、時間も無いからとっとと行こう。〈馬車〉を使うぞ。エステル」
「はい! 〈サンダージャベリン号〉を召喚します!」
なかなか珍しいテンションのエステルが「召喚!」と言いながら〈空間収納鞄〉から〈サンダージャベリン号〉を取り出した。
それ召喚じゃねぇというツッコミは野暮というものだろう。
なぜか先ほどのラナの伐採を手伝ってからエステルのテンションが高い。
普段なら絶対しないのに、珍しい光景だ。
「今回の目標は最下層の〈ビリビリクマリス〉の素材各種だが、さすがに1層ずつ攻略していたら間に合わない。そこで〈サンダージャベリン号〉を使い、一気に最下層まで降りる。あ、ただし20層の守護型フィールドボスは倒すぞ。明日は転移陣を利用したいからな。邪魔するようなら徘徊型も蹴散らす」
「了解だ。私に異論はない」
「ん、おけ」
「今日はボス戦のみなのね! 少し残念だけど」
「ま、普通のモンスターと戦うならまたの機会だな。隠し扉を開けに再探索するかもしれないし」
今日の方針を改めて伝えるとリカ、カルア、ラナの順番で了解を得た。
ラナの言うとおり、ザコモンスター全カットではあるが、時間があるときにでもまた再探索する気だ。その時はラナも誘おうと思う。
今回は〈ビリビリクマリス〉の素材の卸値がむちゃくちゃ高い。リーナが張り切りすぎたからな。
最終的にミールではなくQPでの引き渡しになったが、逆にQPは貯めづらいため非常にウェルカムであった。
正直QPは今後いろんなところで使う予定のためできるだけ多く欲しい。稼げるときに稼がないといかんのだ!
リーナには改めて礼を言っておかないとな。
まあ、さすがに卸しすぎれば次の機会などに響くので加減はするつもりだ。
良い感じに加減するためにもそれなりの量が必要となる。「取ってきた物全部買い取って」よりも「これだけあるんですが、どれだけ買い取れます?」の方が良心的だからだ。
余ったらこっちで使えばいいからな。(学園長が頭抱えそうだけど多分大丈夫)
さて、早速〈サンダージャベリン号〉に乗り込み、出発した。
いつも通り、運転席にはエステル、助手席には俺が座って道を示す。ラナたちは馬車内だ。
「中級のモンスターはやはり強いですね。一撃で屠れないことがあります」
「あんまりそういうことが続くとトレイン状態になるからな。そしたら『オーバードライブ』で撒くんだぞ」
「はい。気をつけております。あとゼフィルス殿、そろそろ」
「あいよ『オーラヒール』!」
「ありがとうございます」
「おう。あ、次の道を左だ」
道を示しつつダメージを受けたエステルを回復する。
ここのモンスターたちはほとんどが雷系モンスターで構成されているが、その内の1種、〈ビリビリス〉というリス型モンスターはHPが低く、倒されると電撃を撒き散らすのだ。所謂、退場時発動スキルだな。
また罠もある。電撃トラップやら飛来系やらだ。これらは〈サンダージャベリン号〉が速いので発動する頃には走り去っていてダメージを食らわない事も多いが、それでもいくつかは入る。
これらによってエステルは少なくないダメージを負っていた。ということで俺が横で回復している。
〈馬車〉は強いが、こういう弱点もあるので要注意な。
無視して走らせると装備者が戦闘不能になるうえ、HPのバリアの効力外に置かれてしまう。ゲーム時にはただ復帰させればよかっただけだが、リアルではへたをすれば〈馬車〉が壊れるかもしれない。馬車内だってどうなるか分からない。ちゃんと気をつけておこう。
まあ、そんなヘマはしないが。
そんなフォローもしつつ〈馬車〉を走らせながら、10層に到着した。
「ゼフィルス殿、ここのボスはスルーしてしまっていいのですよね?」
「ああ。転移陣は20層が開放できていれば良い。ここはまたの機会に来よう。突っ走ってくれ」
「わかりました!」
エステルに指示を出し、11層の入口門へ最短距離を走らせる。
門が見えてきたと同時に、それの付近にいた10層を守護するボスモンスター、テン型ボスの〈テイデンテン〉が現れ、側面から襲い掛からんとした。
「エステル! オバドラ発動!」
「『オーバードライブ』!」
〈乗り物〉系スキルの『オーバードライブ』は超スピードダッシュで突っ走るスキル。
基本的に攻撃よりもこうしてモンスターのトレインを撒くことによく使われるスキルだ。
これによりスピードがグンっと上がり、〈テイデンテン〉を引き離す。
「ニュオォォォ!」
「また今度遊んでやるからな~、じゃあなぁ~」
引き離されていく〈テイデンテン〉に手を振って、俺たちは11層に入った。
階層が変われば守護型ボスは付いては来られない。
「上手く撒けましたね」
「ああ。次は20層だな。ここの守護型は倒す必要があるから情報共有しておこうか」
車内にも聞こえるように窓を開け、ボスの特徴と作戦を打ち合わせする。
「20層のフィールドボスは〈プラマイデンキツネ〉だ。通称:〈デンキツネ〉と呼ばれている。電撃を繰り出してくるキツネだが大きさは2mほどもある。尻尾が6本生えていてその先端から電撃を放ってくるんだ。真後ろを取っても尻尾の電撃でやられることもあるから立ち位置には注意する必要がある」
「遠距離攻撃か…」
俺の話を聞いてリカが微妙な顔をする。
リカは遠距離攻撃が苦手だからな。いや不得手か?
防御勝ちによるパリィやカウンターが取れないので遠距離攻撃はあまり得意ではない。
「リカは少し離れたところで弾いてヘイトを稼いでくれ。モンスターの電撃は目に見える速度だから対応できるはずだ」
銃の時もそうだったが、〈ダン活〉はゲームなので電撃も目に見える速度でしか飛ばない。
俺の『シャインライトニング』だって見てから回避することも可能な速度なのだ。まあ可能なだけであって難しいものは難しいのだけどな。
しかし、撃つタイミングはさすがにわからないため、少し離れて相殺を狙って欲しいとリカに言う。リカの防御スキルは相殺以上でヘイトを大きく稼ぐことができるからだ。
逆に近いと電撃を無防備に食らう可能性が高まる。
「また、リカが遠距離にいるとボスは遠距離攻撃ばかりしてくるようになる。近接メンバーの攻撃がやりやすくなるから上手く引きつけて欲しい」
「承った」
「ゼフィルス、私は? 後ろ回っちゃダメならどこから攻撃、狙えば良い?」
「カルアは側面からヒットアンドアウェイだな。電撃に気をつけながら攻撃の境を狙ってくれ」
「ん、らじゃ」
「エステルもカルアと反対側からを意識して頼む」
「承りました」
近接アタッカー組はヒットアンドアウェイ戦法だ。
側面からの攻撃がメインになってくるが、俺のように盾持ちなら正面からでもある程度受けられるだろう。なので俺は正面寄りを担当する。
「ゼフィルス私は!」
「ラナは今回『聖守の障壁』で援護を頼む。誰かビリっとされそうなら守ってやって欲しい。後はいつも通りだ」
「まっかせてよ!」
自信満々に任されたラナが頼もしい。
先ほどより肌が艶々しているようにも見える。生気に満ちているな。
さて、話をしているうちに20層に到達である。1層を出発してからここまでほぼ1時間で到着だ。さすが、〈サンダージャベリン号〉は速い。
伊達に雷の槍と名前が付いてない。雷の森を槍のように突き進むのだ!
まあ、名付け親のルルはそんな事考えていなかったと思うが。
20層の出口門が見えてきた辺りで馬車を止め、俺たちは準備万端でフィールドボスの下へ向かうのだった。




