#268 ついにこの時が来た! 対決〈天下一大星〉!
「ふはははは! ついにこの時が来たな! 貴様が上に立っていられるのも今日までだ!」
「ふふ、ですね。明日からはこの僕がクラスを引っ張って行ってあげますよ。安心して僕たちの下に付いてください」
「何を言ってやがる。俺こそがトップに立つのだ! すべて俺に任せておけ」
「俺様を忘れるなよ! 全ての者を引っ張っていくのはこの俺様だ!」
相変わらず、こいつらは仲が良いのか悪いのか分からんな。
すでに勝った気でいやがる。なんか見覚えのある光景だ。
今日は木曜日、昨日は放課後ラナたちを呼んで練習ギルドバトルの打ち合わせを行ったり、リーナに色々指揮役の引き継ぎをしたり、クエストの準備を纏めたり、ハンナに錬金を頼んだりしたり、と忙しく準備に奔走したが、多いので割愛。
あっという間に練習ギルドバトルの当日となった。ちょっと楽しみにしすぎた。
彼らを見ていると浮かれているのは俺だけではないようで安心する。
現在、放課後、第7アリーナ。
スポーツマンシップに乗っ取り、向かい合って挨拶をしているところだ。
俺の横にはラナ、シズ、リカ、カルアが並び、
向かいにはサターン君、ジーロン君、トマ君、ヘルク君、そして見覚えのある「兎人」の女子がいる。
俺はサターン君たちの身内争いよりも彼女の方が気になったため、彼らをスルーして話しかけることにした。
「君は同じクラスの確かミサトさん…?」
「そだよ! 気軽にミサトって呼び捨てで呼んでねゼフィルス君!」
テンション高くそう答えたのは同じクラスの女子の1人。
「獣人」「兎人」のカテゴリー持ちで、頭には白いモコモコした兎耳が生えていてとても可愛らしい。思わず視線が行ってしまう。
白の髪を腰まで伸ばしており、人懐っこそうなアメジストの目をこちらに向けている。
クラスでも誰隔てなく話しかける良い子で、他のクラスにも顔が広いらしい。
俺は何度か挨拶くらいは交わした事があるが、ちゃんと話すのは今日が初めてだ。
「ミサトな。今日はよろしく。それにしてもちょっと意外だったな」
「ん、何が?」
「いや、うちのクラスから〈天下一大星〉に入る学生がいると思わなかったからさ」
「うぉいゼフィルス! それはどういう意味だ!?」
サターン君が横から叫ぶが、俺はミサトと話しているところなのでスルーする。
クラスには今のところ男子が11人在籍しているが、〈エデン〉に2人、〈マッチョーズ〉に5人、〈天下一大星〉に4人が加入しているため残りは女子しかいない。
自己紹介なんかで派手にやらかした彼らはそんなクラスの彼女たちから〈プラよん〉なんて呼ばれており、正直言って彼らのギルドに加入したいなんて女子がいるとは、ちょっと思わなかった。
てっきり別のクラスの男子でも引っ張ってきたのかと思ってたんだ。
それを聞いてミサトも苦笑いする。
「あ〜。たはは。うちも頼まれまくってさ。上級生からの勧誘合戦にも辟易していたところだったし、ちょっと思うところがあってね。お試しで入ってみることにしたんだよ」
やっぱり何か事情があったらしい。
そうだよな。事情がなくちゃわざわざ〈天下一大星〉に入らないよな。
俺がうんうんと納得していると、サターン君たちの方から「え? お試しだったのか?」なんて声が聞こえてきたが、もちろんスルーした。
後で聞いた話だが、ミサトは多くの上位ランクギルドから勧誘にあっていたらしく、かなりしつこく付き纏われていたらしい。
何しろ彼女が付いている職業はゲーム〈ダン活〉時代の人気職業の1つ、【セージ】だ。
回復と状態異常解除、それと結界に高い適性を持つ純ヒーラーである。
そりゃ上位ギルドは喉から手が出るほど欲しい人材だろう。
それに彼女は腕も良く、昨日と今日の実地授業での立ち回りは見事なものだった。
俺だって〈エデン〉に欲しい。
ただ、ミサト的にはそんな上位ギルドに魅力を感じなかったらしい。
どうもピリピリしているギルドばっかりで、たとえ加入しても嫌気が差すのが目に見えていたとの事。
実はその時期は最上級生がご卒業なさってギルドバトルが活性化しており、どこもギルドランクの維持やリベンジに燃えていた。
ついでに言えばミサトは、1年生の多くが高位職になり、優秀な人材が溢れる中、1組に選ばれた一握りのエリートでもあったために多くのギルドが彼女に目をつけたものと思われる。
つまり今までは高位職というだけでチヤホヤされていたが、これからは高位職からさらに頭一つ飛び出た人材が求められる時代。ミサトはそんなどこのギルドも求める条件にピタリと嵌ってしまったのだ。
故に多くの勧誘がミサトに押し寄せ、彼女はかなり辟易としてしまったらしい。
そんな折知ったのが、勧誘合戦されまくっていた俺がギルドを結成したことにより勧誘が鳴りを潜めたという情報。
そして偶然にもそんな時にサターン君たちからギルドを結成したいので加入して欲しいと誘われたらしい。サターン君たちのところはヒーラー不足だったからなぁ。
そんなわけで、上級生のギルドに苦手意識が芽生え始めていたこともあり、お試しでいつでも好きなときに脱退できることを条件に〈天下一大星〉へ加入したらしい。
「そこ! いい加減我らを無視するんじゃない!」
「ふふ、僕たちを無視するとは、許せませんね」
おっと、スルーしていたのが彼の癇に障ってしまったらしい。
しかし、こちらにもギルドバトルが待てない人物がいた。
「もう! 良いから早く始めましょうよ! ゼフィルス、遅いわ! 早くしてよ」
まあ、いわずもがなラナである。早くやりたくて仕方なさそうである。
その顔には、早く彼らをけっちょんけっちょんにしてやりたいと書いてあった。
ま、お手柔らかにな?
待っている人もいるので挨拶もそこそこにルールの確認をする。
「今一度ルールの確認をするぞ。今回は練習のギルドバトルだがルール的には本番とさほど変わりなし。ただ本拠地への攻撃は無しだな。また今回のギルドバトルは〈城取り〉〈5人戦〉〈菱形〉フィールドで行う。ここまでで質問はあるか?」
ちなみに本拠地への攻撃が無しなのは主にLV差のせいである。
本拠地への攻撃を俺とラナが行ったらあっという間に片が付いてしまうのでこれは当然の処置だな。練習ギルドバトルではよくあるルールである。
俺の確認に誰も異議を出さなかったためこれにて確認と挨拶は終了。
両ギルドはそれぞれの本拠地へ向かい、始まりの合図を待つ。
ちなみに今回アリーナで審判、操作してくれるのはEランク試験でもお世話になったムカイ先生だ。実はこのムカイ先生、1組の副担任の一人である。1組は副担任が二人居るのだ。ムカイ先生は裏方担当らしい。
本拠地へ向かうと近くの観客席にはリーナが居た。
これも勉強の一環なので見に来るようにと言っておいたのだ。
軽く手を振るとリーナも照れた様子で振り返してくれる。
「ゼフィルス! これから始まるって言うのに緊張感が無いわ! しゃきっとしなさい!」
そんなことをしていたらラナに突っかかられた。
お、おう。そんなに楽しみだったのか。よし、と俺も気を引き締める。
ムカイ先生が操作してくださり上空のスクリーンにカウントダウンが表示された。
そして開始のブザーが鳴り響く。




