#1859 3日で30層到達!レイドボス・連型の猫の恐怖。
〈トラボス猫〉を無事撃破すると、エフェクトのあとには〈金箱〉が残されていた。
「おっしゃ〈金箱〉だー!」
「やったのですー!」
「ん!」
イエス〈金箱〉!
〈ネコミミクマ〉から連続で〈金箱〉とか、〈幸猫様〉バンザイ!!
ルルとカルアと〈金箱〉を取り囲んでバンザイした。
しかし、そんな〈金箱〉に夢中な俺たちの気を引く者が現れたんだ。
「お楽しみのところ悪いんだけどゼフィルス君、ちょっとすぐに見てほしいことがあるんだよ!」
「おお? どうしたんだフラーミナ」
それはフラーミナ。
はて、〈金箱〉よりも優先されることとはなんだろう?
〈幸猫様〉への感謝くらいしか思い浮かばない。
「見てよこのフィールド! 明らかにさっきより大きくなってるでしょ?」
「お?」
そう言われて辺りを見渡す。
するとどうしたことだろう、さっきまでちょっとした広場程度で、ボスと戦うにはちょっと狭い場所といったフィールドが、今では〈樹界ダン〉のエリアボスフィールドのように大きく広がっていたんだ。さっきまで居たはずのキャットタワーもいつの間にか結構離れた位置に建っている。
俺はすぐにこの現象の正体に思い至ったが、ルルたち前衛メンバーたちは違った。
「ほわ! なんだかすっごく大きな広場になっているのです!」
「ん。気が付かなかった」
「これはいったい? ――ゼフィルスは何か分かるか?」
ルルとカルアが辺りを改めて見渡してびっくりし、リカが驚愕を顕わにしながら俺に問うてきた。
戦い始めた時と戦いが終わった時でパーソナルフィールドの大きさが変わっている不思議。
これを突き止めるには、そうだな、客観的な視点が必要だな。
「フラーミナ、外から見ていてどうだった?」
「うん! 実は――」
「ゼフィルスさんたちが戦っている最中、どんどんフィールドが大きくなっていったのですわ! 私、すごく驚きました。下がっても下がっても迫ってくるフィールド。結界を張ってもすぐに壊されてしまい、私たちも必死に離れたのです」
「なんかカタリナに横から取られたんだけど!?」
フラーミナに聞いたら横から出てきたカタリナが全部語ってくれた。
さっきから言いたそうにしていたもんね。フラーミナが抗議の意味で脇腹を杖でツンツンしているが、カタリナは動じない。
「ゼフィルスさん、私、怖かったです」
「そうだったのか。頑張ったなカタリナ」
「騙されてるよゼフィルス君、カタリナは平気でゼフィルス君の戦いを観戦してたもん」
「ええ、フィールドが大きくなる程度のことでカタリナが怖がるはずがありません」
カタリナが両手の指を絡ませる祈りのポーズで目を潤ませて見つめてくる。
俺が慰めていると、フラーミナとロゼッタが小声でこそこそ2人で喋っていたんだ。
なぜかカタリナよりもそっちの方が気になるんだぜ。
「他に、戦っている最中フィールドが大きくなっていることに気付いた人?」
「あ、私も気付きましたよ! 最初と後半で走るのがだいぶ楽になりましたから」
「……ん」
「アルテは騎乗しているから実感しやすかったみたいだな。どうやら〈猫界ダン〉ではエリアボスのパーソナルフィールドは時間経過で大きくなるらしい」
なお、アルテのセリフにコクコクと頷くカルアはちょっと実感してたか怪しい。
そう、〈樹界ダン〉ではまず出現と同時に階層をぶち抜くくらい巨大なパーソナルフィールドを展開していたが、〈猫界ダン〉ではエリアボスとエンカウント後、徐々にパーソナルフィールドが広がって行くという仕様だった。
猫道でエンカウントした場合でも徐々にフィールドが広がって行き、ボスと戦闘ができるくらい広くなるのである。
なお、最初は狭いので下手をすれば全滅もあり得るので注意。
そういうときは最初は防御に徹し、十分フィールドが大きくなってから本格的に戦闘を開始するというのがセオリーだったな。
故に、これはかなり重要な情報だ。
ここでリーナから通信が入る。
「『ゼフィルスさん、リーナですわ。そっちの状況はどうですの?』」
「おう。ちょうど良いタイミングだぜリーナ。〈猫界ダン〉のエリアボス初撃破だ。被害無し、それと今分かったことなんだが」
どうやらボス戦が終わって一段落したと判断し、『ギルドコネクト』を繋いでくれたようだ。俺はリーナにさっきの話をして警戒するよう言っておく。
「というわけで、狭い場所で戦うことになったとしても大丈夫だ。まずは防御に徹し、フィールドが十分大きくなるのを待ってから攻勢に出るのが肝になるだろうな」
「『なるほど……。了解ですわ。あとで集まったときにみなさんに周知しますわね』」
「頼む」
通信を終えると、いよいよ〈金箱〉タイムだ。
難しいこと分かんないという顔をしたカルアがさっきから〈金箱〉の前を陣取っている。
最終的にクジ引きで決め、カルアとリカが共同作業で開けることになった。
当たったのはリカだったんだ。
「ん? 猫の……尻尾?」
「また猫のコスプレ系装備だと!?」
「本当にネコ尻尾が当たりました!?」
「これは、私に猫になれということに違いありませんわ!」
「誰もそんなこと言ってないよカタリナ!?」
なにが起こったのか。今回当たったのは猫の尻尾だった。
まさかのフラグ成立!? カタリナが背筋を伸ばしたのを感じた。
なんということだ。このままどんどん猫コスチューム装備(金箱級)が当たりまくってしまうのか!? スクショが留まるところを見失ってしまうぞ!
ルルに〈幼若竜〉で『解析』してもらうと、これの性能が明らかになった。
「め、名称は〈吹き飛ばしのネコ尻尾〉。装備していると、ノックバック判定に補正が掛かる、だと……!?」
リカがその性能を見ておののいていた。
効果は吹き飛ばし、ノックバックの強化だ。
それはまさにさっきのボス猫がやってたあれ。ついでに言えばノックバック中に強い攻撃を当てればダウンする。ダウンを取りやすくなる装備と言ってもいいものだったのだ。
これには先陣を切り、タンクですらダウンさせるリカも震えが起きる。
「リカ、着ける? ネコミミとセットで」
「い、いや!? その、なんだ。け、検討させてほしい」
「ん」
なにやらカルアとリカの間で妙な駆け引きがあった様子だ。なお、リカが俺の方をチラチラ見ている気がするのは、多分気のせいではない。
以前、俺はリカが猫のコスチュームを着て猫になっている姿を見てしまったからな。あれは忘れられない出来事として記憶に焼き付いているんだ。
またあれが見られたら嬉しい。
なお、例のネコミミはリカが装備しても意味ないので、別のネコミミが欲しいところだ。一方、
「あ~、ノックバック強化ならカタリナには必要無いね」
「私専用のネコ尻尾じゃないですって?」
「むしろ私の装備に良いかもしれません。こう列車的に」
「聞きましたかフラウ! ロゼが猫のコスチュームを着ながら列車で突撃戦法を計画していますわ! そんなのでゼフィルスさんに突撃されたら、さすがのゼフィルスさんだって……!」
「多分吹っ飛ぶだけだと思うよ? カタリナ、正気に戻れい!」
「はうん!?」
向こうではドヤ顔のロゼッタにハラハラしたカタリナが、なぜかフラーミナからデコピンを受けていた。やられて目をバッテンにしたカタリナがなんか可愛い。
こうして6層も突破。
例の話はみんなにも周知し、7層からは細い道でエリアボスと戦うことになっても戦法を確立することができた。
エリアボスは基本、ルート猫道を通っているとエンカウントしやすいので、細い道のりでエンカウントすることが何度もあったのだ。
その度にフィールドが広がるのを待ち、十分広がったところで戦うという戦法で、無事勝利を掴みまくったのだった。
だが途中18層で〈スペード・デス・大熊猫〉が出た時はちょっとヤバかった。お前、大熊猫は猫じゃないんだぞ!?
おかげでキャットタワーの一本橋を渡っている最中に「あ」って足を踏み外してな、戦闘開始直後に「グマーーーーー」と叫びながら落ちていったんだ。俺の腹筋がぶっ壊されかけたよ。あれはマジ危なかった。
そうして俺たちは3日掛けて浅層を突破。
ついに30層へと到達した。
「あるわね」
「あったわね!」
「ありますわね」
もちろん奥には禍々しく、10と書かれた巨大な門が立っていた。
説明するまでもない。〈樹界ダン〉と全く同じものだからな。
そう、30.5層に通じる――レイドボス部屋への階層門だ。
「よーし! ちょうどティーの効果が切れるころだ。料理バフをかけ直したら突入しようか!」
ちなみに料理アイテムの〈最強アイスティー〉は最近では最上級ダンジョン攻略には欠かせないアイテムとなっている。ボス戦だけではなく、普通に道中でも使っているからな。パワーアップしすぎて安全もバッチリだ。
「おっけーよ! いったいどんなボスが待ち受けているのかしら?」
「〈樹界ダン〉では、30.5層は連型だったわね」
「!! それはまさか、ここも連型だということですかシエラさん?」
「可能性の話よ。でも、私たちはたくさんの猫が襲う光景を、知っているわ」
「あい! 猫津波なのです!」
「ん。あれに飲まれて戦闘不能にならずに帰って来た者はいない」
「も、もしレイドボス・連型で、尚且つ猫津波を操るボスだったらと考えると、これは強敵……いや、これまでに戦ったことのないほどの相手かもしれない」
お?
なぜか俺が話を誘導するまでもなくレイドボス・連型の考察が進められている。これは良い傾向。
リカが震えているな。果たしてあの震えは武者震いなのか、はたまた……。
とりあえず、もし猫津波が相手だったとしても自ら呑まれるようなことはしないよう言い含めておいた。
「ゼフィルス、みんな料理バフのかけ直しが終わったわ」
「いつでも行けるわよ!」
料理バフが一旦切れ、かけ直したところで準備完了。
「よし、いくぞ!」
「「「「おおー!」」」」
俺たちは30.5層に入ダンした。
そしてそこには――大量の猫が待っていたんだ。




