#1856 ネコミミを被れば猫の仲間。5層守護型ボス現る
「あれが、〈猫界ダン〉の5層守護型ボスね」
「猫?」
「ネコミミはありますが、それ以外はクマっぽくないですか?」
「『看破』です! 分かりました。あれは〈なりきったネコミミクマ〉だそうです!」
「ただのクマじゃんか!」
「ぶはっっ!?」
そこに居たのは猫? と思わせてネコミミカチューシャ的なものを被ったクマだった。
ゼルレカの鋭すぎるツッコミに俺は一瞬で腹筋が持っていかれたよ。やべぇ。
「やる気のあるのは良いことでやがります。――ゼフィルス先輩、どうかこのボスは私にやらしてくださいでやがります」
「お、おう。行ってこい!」
「階層門とアイコンには2と書いてありますわ。これは〈樹界ダン〉の5層守護型ボスと同じですわね。モニカさんのいる9班ともう1つ、8班お願いいたしますわ!」
「まっかせちゃってよ!」
「猫かクマか分からないけど、本気出しちゃうよ~」
「あれ、本当は〈ネコミミを被ったクマ〉って名前だったりしない?」
8班はいつも通りサチ、エミ、ユウカのいる班だ。〈樹界ダン〉ではここにエリサとフィナが一緒だったが、今回はシュミネとナキキが加わっている形。
「ナキキ、相手は破壊力がありそうな見た目をしています。どっちが強いか勝負ですね」
「な、なんか楽しんでないっすか!? というか破壊力? 見た目のことっすかね!?」
おお、ナキキも良いツッコミしてるじゃないか。
確かに、見た目の破壊力もあるよね。
「え? 〈猫界ダン〉初のボス戦にぼくを行かせるのかい?」
「大丈夫だよニーコ先輩。モニカが付いてるからな!」
「いや、そうじゃないんだよゼルレカ君。ぼくは慣れてきた感じのボスを相手にするものであって初見の、何をしてくるか分からないボスの相手はだね!?」
「安心しろニーコ。何かあっても俺が止める」
「たはは~。初見のボスだし、緊張するね!」
「そんな言葉では安心できないのだよ!?」
9班はモニカに加え、ベテランのニーコ、そしてゼルレカ、メルト、ミサトという配置だ。
モニカはまだ〈エデン〉では知り合いも少ないからな。まずは同じ【大罪】職であるゼルレカやコミュニケーション強者であるミサトのいる班に入ってもらった形だ。モニカはしゃべり方からもなんとなく感じていたが、ゼルレカとは相性が良いのだ。
「ゼルレカ、一発かましてやるでやがりますよ!」
「おうよ! 一発どころかそのまま倒してやんぜ!」
うーむ。良き。こういう人材は〈エデン〉では希少だからな。
ノリが青春ドラマっぽくて新鮮だ。
「ミサト先輩も、よろしくでやがります」
「こちらこそだよモニカちゃん!」
「うっ、ちゃん付けはやめねぇですか? ちょっとむず痒いでやがります」
「そこは慣れてね!」
モニカとミサトとの仲も順調の様子だ。
やはり、オプションをフュージョンさせた時に会わせておいたのが良かったようだな。
「ふう、それじゃあ行くでやがります!」
「相手は見た目物理攻撃っぽいが、遠距離攻撃が来る可能性も常に視野に入れておいてくれ!」
「了解でやがります!」
アドバイスを送りつつ、8班と9班を見送る。
すると〈樹界ダン〉の時同様、結界が張られたようで他のメンバーは中に入れなくなった。
「ニャークマー!」
「こいつニャークマーって言ったぞ!?」
「この姿で猫のつもりでやがりますか!」
「ぶはっ!?」
なのにボスの先制攻撃がなぜか結界の外にいる俺に直撃した。知ってたはずなのに、ゼルレカとモニカのツッコミが効きすぎたんだ!
この2人を組ませて正解だったと確信する。
「くるっすよ!」
「! あたしが防ぎやがります! 『必中受け』!」
「ニャークマー!」
ナキキの警告からすぐ、なんと前脚を地面に着けて身体を固定した〈なりきったネコミミクマ〉、通称〈ネコミミクマ〉がブレスを吐いてきたのだ。
いやいやいや、猫はブレスなんか吐かねぇよ!? クマも吐かないけどさ!
しかし、モニカはしっかりとそれを盾で受けきってみせたのだ。
「あっぶねぇ予想外の攻撃でやがりました。ゼフィルス先輩からアドバイスを受けてなかったらやばかったでやがります」
うむ。開幕ブレスは〈ネコミミクマ〉の常套手段。
あのネコミミに騙されてブレスの直撃を受ける者は多いのだ。そりゃあの格好で初手ブレスは予想外だろうさ。
「次はこっちの番っす! 『脛打ち』! からの『足の小指打ち』っす!」
「ニャークマー!?」
「痛そう」
いつの間にか俺の隣に来ていた1班のミジュがポツリと呟く。
うむ、相変わらずナキキのヘイト稼ぎは痛そうだよな。
どうやらナキキとシュミネが頑張る姿を見て、自分だけ参加していないミジュがちょっと寂しそうにしていた。今回ミジュは、俺と同じ1班担当だからな。
「ニャークマー!」
「『強欲ドロードレインシールド』! こっちにもくるでやがりますよ!」
「モニカのドロー系スキルは本当に2タンクの時に真価を発揮するな」
挑発(物理)を受けてお怒りの〈ネコミミクマ〉がナキキに反撃のパンチを放とうと飛び掛かるが、いつの間にか接近したモニカがそれをドローし、まるで吸い寄せられるようにして〈ネコミミクマ〉が真後ろのモニカを殴りつけた。
シエラの『完全魅了盾』にも通じる強力なドロー系だな。とはいえ単発しか引き寄せられないので、〈ネコミミクマ〉はまたもナキキに振り向いて攻撃の態勢に入る。
モニカは【強欲】のドロー系スキルにより攻撃を自分に向かわせることが可能なので、2タンクしているとこのように、攻撃を引き寄せ、もう1人のタンクへの攻撃を逸らせて休憩させることが可能なのだ。
その隙に回復が入れば一度傾いた流れをリセットすることもできる。
モニカもオプション装備を入れることで得た『近距離攻撃ダメージ25%カット』という破格のスキルのおかげでダメージは少ない。
何度かそれを繰り返すと、コツを掴んだナキキが、モニカが引きつけた瞬間に攻めに出た。
「『グロリアス・ロールオーバー』っす!」
「ニャークマー!?」
それは横転スキル。
攻撃の溜が大きく、タンクをしているとおいそれと決めることのできない強力な横転を取るスキルだ。
モニカに攻撃がいっている間にナキキはこれを溜め、見事に〈ネコミミクマ〉を転倒させてダウンを奪ったのである。
「総攻撃だ! 『アポカリプス』!」
「たは! 私も行くよ! 『ミラーピアー』! 『サンライト』!」
「こういう時は個人の攻撃の方が強いんだからね! 『神宝剣・テンペルトソニックブレイド』! 『神宝剣・神の一太刀』!」
「攻撃連打だよー『神宝本・終末のディストラクション』! 『神本・フルバースト』!」
「連射なら任せてくれ――『神宝弓・フルパワーダートストリーム』! 『神宝弓・スピリチュアルハンディング』!
「大チャンスじゃないか! 『ファーストドロー』! 『トレジャーショット』! 『激射』! はははははー! ぼくの銃撃をくらえー」
「私も微力ながら攻撃に参加します――『マジックバースト』! 『ネイチャーバースト』!」
「私はタンクだけど、攻撃も行けるんっす! 『破壊王の鉄槌』! 『巨神の一撃』!」
「がっつりデバフを与えてやるよ! 『怠慢と堕落の剣』! 『惰性と堕弱の一撃』! 『脆弱と漫然の一閃』!」
ズドドドドドドドドドドドンと総攻撃が突き刺さる。
それまでゼルレカやミサトのデバフを喰らっていたので結構なダメージだな。
だが、本番はここからだ。
ダウンから復帰すると、〈ネコミミクマ〉が真上に向かって遠吠えのように叫ぶ。
「ニャークマー!」
「ニャー!」
「仲間呼びでやがりますか!」
なんと〈ネコミミクマ〉が猫たちを呼んだのだ。
これは仲間呼び。猫たちが仲間を守るために助けに来たのだ!
なんて泣かせてくれる光景!
でもちょっと待ってほしい!
よく見て猫たち! それネコミミ被ってるだけのクマだから!
「そいつは良い手では無いでやがりますね――『心身強奪』!」
「ニャ!?」
「ニャー!?」
あ、早速モニカが仲間を心変わりさせて襲わせている!
なんてこった。猫たちは偽者に呼び出されたあげく、心変わりさせられ、さらには同士討ちをさせられてしまった! まさに踏んだり蹴ったり!
「ナキキは引き続きボスのタンクを任せる! モニカ、猫の方を頼めるか?」
「了解っすメルト先輩!」
「おまかせやがれです! 『強欲の手』! こっちの猫たちは私が抑えやがりますよ!」
「よし、ミサトはモニカの回復、シュミネはナキキを回復してくれ、アタッカーはボスへ攻撃だ!」
「「「「おおー!」」」」
メルトの指揮が唸り、良い感じに流れがこちら側に傾いていく。
モニカもあのサターンたちを操っていたので指揮能力は高いはずだが、今回はメルトに譲っているな。
そしてモニカは自分がすべき役割をしっかりこなし、猫たちを強欲の手で捕まえて動きを封じてしまった。
反撃を受けようがお構いなし、その辺はミサトが回復して良い感じだ。
味方に頼るところは頼る。〈天下一パイレーツ〉をほとんど1人で回してきたようなモニカだったが、ちゃんとパーティ戦の連携もできていた。素晴らしい人材だと再確認させられたよ。
「今だゼルレカ!」
「うおおおりゃあああ! 『ライフフォース・アトミック』! っしゃダウンだ!」
「ラスアタはもらったよ! 『トレジャー・エクス・アドベントバレット』!」
「ク、クマ~!?」
「こいつ、最後はニャーって言わなかったぞ!?」
「ネコミミが落っこちたっす!?」
「あ! 解放された猫たちが逃げていきやがりますよ!」
「あの子たちも仲間と思っていたボスがまさかクマだったと知って、さぞ驚いたことでしょう」
「いやいやいや、見て分からなかったんっすかね!? というか、猫はネコミミで同族を判断してたっすか!?」
最後はゼルレカがダウンを取ってニーコがトドメを刺して終了。
なかなか腹筋が鍛えられるボス、〈ネコミミクマ〉のHPはゼロになり、膨大なエフェクトの海に沈んで消えていったのだった。
モニカが捕まえていた猫たちなんか、「ク、クマ~!?」の鳴き声にびっくりして確認、ネコミミが落っこちたクマを見てとんでもなく驚き、逃げていったからな。もしかしたら、本当にシュミネが言った理由だったのかもしれない。
そうしてエフェクトが晴れると、そこには〈金箱〉が2つ残っていたんだ。
「うひょー!」
早速ニーコが飛びついた!




