#1855 猫の道は険しすぎる。というか本当に道なの?
とうとう〈猫界ダン〉の攻略が本格的にスタートした。
周りにいる猫たちはこっちに興味津々の様子だが、その多くが襲ってくることはなく傍観者。
これは今までの〈猫ダン〉や〈猫猫ダン〉でも見られた光景だな。
時折「う~、もう我慢できないニャ!」「あ! ズルいニャ!」という感じに襲ってくる猫もいるが。
そして俺たちは、まず1つのルートを10パーティで突き進むことにした。どんな猫道が出てきても誰かが対処して乗りきれるように、だな。
「なによこれ、階段じゃなくて壁じゃないの!」
「ここを登るのが道のようですね」
「それ絶対道じゃないデース!」
「いえパメラ。あなたならばこれも道でしょう? 猫を見習いなさい」
「見習うべきはそこなのデース!?」
ラナ、エステル、パメラ、シズが驚きの声を上げるように、まず立ちはだかったのは壁。カイリが示した安全ルートには、この3メートルほどの壁を登ることがルートとして示されていたんだ。
うむ、ナビがぶっ壊れているな。
「猫はなぜこんな壁をあの体格で登り切れるのでしょう?」
「ルルだって登り切れるのです! 見てるのですよ――とう!」
「わぁ! ルルお姉ちゃん凄いです~!」
「えっへん! ざっとこんなもんなのです!」
まず最初に登ったのはルル。
いつもクルクル回りながらジャンプしているからな。これくらいの高さ、ただのジャンプで余裕の様子だ。ドヤ顔が眩し――「ゼフィルス様」――分かってるよ。パシャパシャ。
「俺たちもSTRとAGIが育ってるからこれくらいは跳べるし登れるだろうな。よっと」
そう言ってジャンプすれば俺も2メートルは跳べた。凄い。
全力で跳ぼうと思えば多分5メートルくらいは垂直跳びができると思われる。
「うう~ん、でも私たちは」
「は、はい。ちょっとジャンプ力には自信無いです」
しかし、中にはノエルやラクリッテのようにどちらか、あるいは両方が低いステータスの子もいる。
垂直ジャンプは主に力を司るSTRと速度を司るAGIの数値を参照しているようで、どっちかが低いと不思議と高さが出ないのだ。
結果、50人の内20人くらいは問題無く乗り越えられたが、30人近くは拒否。
「はっ! 今思いついたんだけど、ゼフィルス君にお姫様抱っこで運んでもらうのはどうかな!?」
「め、名案です!」
「お姫様になりたい!」
「サチっち!? いつの間に!?」
「さっき上ったはずなのに!?」
ノエルからなんか凄い提案が飛び出していたんだ。
そんな方法、俺も考えつかなかったぜ、いいだろう。勇者の助けが必要か!?
「いいよねシエラさん!?」
「…………ダメよ」
しかしノエルの提案は却下されたんだ。
「揺れた?」
「揺れたね」
「確実に揺れた」
サチたち仲良し3人娘がなにか囁いていたけど、俺には聞こえなかったんだ。
それよりも盾で顔を隠すシエラの方が気になります。
ちなみにオリヒメさんだけはレグラムからのお姫様抱っこで上に運ばれていたんだ。う、羨ましい!
「もう、仕方ないわね――エステル!」
「はい! 〈イブキ〉――召喚です!」
「私たちは〈イブキ〉で上がるわ!」
まあね、〈乗り物〉あるもんね。でもそれ、もっと調査が進んでから出そうと思っていたんだが……。
〈エデン〉はスカート装備の女子が多いのだ。
普段から跳んだり跳ねたりする前衛はスカートの中にドロワーズ風のズボンなどを履いていたりするので問題無いが、他は色々問題ありということで最初の関門から〈イブキ〉が採用されることになってしまった。
「ただの3メートルの壁が女子には脅威、か。これは盲点過ぎたぞ」
さて報告書にはどう書こう? 女子目線でのアドバイスも書き込まなきゃいけないっぽいなこれは。
壁登りは、シズがクラス対抗戦で使ったアンカーロープや、ドワーフのワルドドルガがやってたみたいに階段を作ったりと、色々やり方はあるだろうが。
ゲーム時代、正直に言えばここは〈乗り物〉一択だった。次点で【方舟姫】の『足場結界大展開』などが有効。
〈魔法使いの箒杖〉や〈クマエンジェル・バワード〉などの飛行系で突破しようとすると、漏れなく狩人が飛び掛かってくるので要注意。猫世界では空が安全とは限らない……!
地面すれすれを浮遊する〈イブキ〉まではセーフである。
なお、「お猫様に飛び掛かってもらいたいの!」という方は例外だ。
「えっと、それではいきましょうか!」
「そ、そうだね! うん! 今度はこの壁の上を進むルートだよ!」
なお、ちゃっかり〈イブキ〉に乗り込んでいたリーナとカイリ。何かを誤魔化すように俺たちに指示を出していたんだ。
「ここを進むの?」
「ずいぶんと細い道ですね。エンカウントすれば終わりですよここ」
とりあえず、壁はクリアした。だが続いての関門。ここは壁や階段というより、むしろ塀の上だった。猫はどうして塀の上を進むのだろうか? ここは道じゃないと教えてあげないといけないのではなかろうか?
そう。俺たちも、身体の横幅、多分60センチ前後くらいの道幅を歩くことになったのだ。
ちょっと足を踏み外せば落ちるというような道だ。しかも手すりは無し。
とはいえ、今更こんなところでバランスを崩すようなメンバーは〈エデン〉にはいない。
エンカウントもすることもなく、俺たちは無事――もっと大きな壁にたどり着いた。
「なんで猫は壁に向かって歩くのかしら!」
「壁を道の一部だと勘違いしているデース!」
ほんとラナとパメラのそれよ。
今度の壁は10メートル級。
いや、これを登るのなんて猫でも無理だろう。つまり、実は抜け道があるのだ。
「えっと、ここの穴から進むみたい」
「今度はしゃがんでここを通るの!?」
カイリが指さしたところには、人が1人通れそうな穴が空いていた。
ここをリアルで通るのかぁ、マジ猫になった気分。
「ここも、通っている最中にエンカウントしないのでしょうか?」
「そ、そこは大丈夫。これは『安全ルート探知』で導き出したルートだし、エンカウントはほとんどしないはずだよ」
「私の『気配察知』と『索敵』にも引っかからないデース!」
安全の代わり明らかに猫専用の裏道みたいなルートだけどな。
そう、なんか攻略に向いてないというか集団行動ができなさそうなルートが続いているが、このルート、裏の道、近道みたいなものなのだ。
エンカウントしない代わりにやたらとアスレチックじみているルートである。
「あ、ちなみに上から乗り越えることも可能だよ?」
「わたくしたちはそちらでいきましょうか」
「マジか。じゃあ穴を潜るのは――俺がしないとかぁ」
またも採用される〈イブキ〉。
乗り込んだカイリやリーナは一足先に壁を乗り越えていってしまったよ。
俺は報告書を事細かに書かないといけないからな。
グッと飲み込んで穴を通った。
ルルも付いてきてくれたのでバンザイ。
「なんだか猫さんになった気分なのです!」
穴の中でもほっこりした。
〈イブキ〉に乗ったメンバーズと合流してさらに進む。
「で、今度は道が無いんだけど?」
「ジャンプして進むルートみたい……」
「今度は道ですらなくなったデース!」
シエラがジト目を向ける先には、対岸が広がっていた。なお、進むための橋は無い模様。
幅2メートルくらいの谷が横切っており、人が進むには橋か何かが掛けられていなくちゃいけないだろう立地。そこになぜか20センチほど飛び出たジャンプ台みたいなものがあって、猫はここからジャンプして対岸に渡っている模様だ。
道なき道、ここに極まれりである。
「とはいえ、これくらいの幅ならば飛び越えられる人は多いだろう――なっと」
「ルルもいくのです! とう!」
「アリスもいくの~」
「ダメです! アリスは〈イブキ〉に乗って! ――ゼルレカもほら、ジャンプしようとしない!」
「ええ!? また〈イブキ〉で行くのか!?」
俺やルルなど、普通にジャンプして対岸に渡る人は多数。
これくらいのジャンプはステータスが育っている前衛からすれば朝飯前なのだ。
もちろんアリス、君はダメだ。おとなしくキキョウに回収されてください。
なお、猫人のゼルレカも巻き込まれて抗議の声を上げたが、キキョウには受け入れてもらえなかった様子だ。
こんな感じで猫が進むルートを体験した俺たちは、エンカウント無しでついに2層への階層門へと到着したんだ。
「ねぇ。次は普通のルートを模索しないかしら? 今来た道は、何かを間違えていると思うのよ」
「おう。そうだな」
そういうことになった。シエラなんか全関門を〈イブキ〉で突破したからな。
ジト目が俺に向かって向けられていてテンションが急上昇してしまいそうだよ!(急上昇中です)
こうして2層からは、予定していたとおり3・3・4パーティに分かれて、各自ルートで階層門を目指したんだ。
そして3層への階層門前で合流。
「やっぱり1層のルートはおかしかったのよ。猫が通る道も、結構平坦で開けた場所が多かったわ」
「私もそれ思ったわ! エンカウントも多かったけれど、裏道使うよりこっちの方がいいわね!」
「裏道ルート班はエンカウント1回したけれど、それは開けた場所だったよ!」
「は、はい! 狭い道では猫さんとエンカウントしませんでした! あと純粋に近道で到着が1番早かったです!」
シエラとラナが率いる班は別のルートを担当していたが、表の道の方が良かったらしい。エンカウントは結構した様子だが。
一方ノエルやラクリッテには2層でも裏ルートを体験してもらったのだが、途中開けた場所でエンカウントが発生したようだ。それでも無事撃破し、こうして合流地点に到着している。エンカウントもほとんど無く近道だったため、かなり早く到着できたようだ。
〈エデン〉的には遠回りでも表ルートの方が良さそうな様子だな。
こうして俺たちはいくつかのパターンを繰り返しながら、ついに5層へと到着した。
「カイリ、エリアボスは?」
「『エリアボス探知』! う~ん、まだ動かないよ。多分ここでもどこかの建物内にいるみたい」
「了解だ」
また、カイリには例の〈超ボス探知アンテナ〉(アホ毛)を使ってもらっている。
ビビビッと真っ直ぐ上に伸びたアホ毛がちょっと光っているのが面白い。
〈竜の箱庭〉には、とある建物内に大きな大きな猫がいる様子が映っていたが、動く気配は無いな。
ということで、〈猫界ダン〉最初のボスは、守護型ボスに決めたのだった。




