#1853 〈猫界ダン〉に潜む罠。気が付けば2時間経過
「きゃあああ! 猫がいっぱいだよ!」
「思わずきゃーが出ちゃうお猫様~!」
「この大量の猫だらけ感、まさに猫の世界に迷い込んだようだよ……!」
サチ、エミ、ユウカがまさにここに居る女子の声を代弁しているな。
俺は思わずそのフィールドに意識を持っていかれたが、女子にとっては猫に意識を持っていかれた模様だ。
なにせ、そこら中に猫がいっぱいなのだ。
ここは人間を度外視した猫の世界。猫が暮らす理想郷。
当然のようにそこら中を猫が闊歩している。
ランク1の〈樹界ダン〉では発見即エンカウント、だったのにもかかわらず、ここの猫はのんびりだ。
「怠惰」
あ、そうだなカルア。でも、怠惰な猫、良いと思うんだ。
「ああ、またここに入ダンできるなんて、夢のようだよ~」
「クイナダはあの時、本当にチラッと見るだけだったものね」
「俺たちも、あの時はまさかクイナダとここを攻略することができるとは思わなかったぜ」
クイナダが〈第Ⅱ分校〉に帰る前日、お別れ会のあとにみんなでここに訪れた。
時間が無かったので本当にここから見るだけだったが、今度は足を踏み入れることができるのだ。クイナダもじーんときている気がするな。
「でも本当に凄いところだよねここ、猫のための世界だってのが一目で分かるもん」
「はい。人工物、いえここでは猫工物、とでも言うのでしょうか? 猫世界ですし、全てが猫のための建造物みたいです」
ノエルが見渡し、ラクリッテがうんうんと頷いているな。
本当にその通りで、この世界、人間ではなく猫目線で作られているのですんごい形をしている。
階段っぽいところはあるけど、階段というよりむしろ壁段だし、高いところも平気で橋っぽいものが掛かっているけれど手すりなんてものはないし。
猫が好きそうな箱がそこら中に散らばっていて猫が中に入ってるんだもん。
まさに猫のための世界だ。
「ここで見ているだけで癒されます」
「はい。〈竜の箱庭〉なんて見ている場合ではありませんわ」
「絶対見なくちゃいけない場合だとは思うんだけど、リーナさんの言うこと、とてもよく分かる!」
見ろ、リーナやカイリも〈竜の箱庭〉を見ている場合じゃないと猫に集中しているぞ。
俺たち男性陣はそっとしておくのが吉である。
「ゼフィルス、どうする? これは数時間は続きそうな勢いだぞ?」
メルトが相談しに来たので「仕方なし」と返しておいた。
実は俺も猫の様子を見るのが楽しいので、もうちょっと見ておきたいところ。
「あれが全部、モンスターなのか?」
「あの大群、レイドボスに匹敵するのではないだろうか?」
「猫だから、強いでありますよね? あの大群に攻められたら、我が城も陥落しそうなのでありますが……」
「むしろヴァンの城は占拠されたのち、猫の城になりそうだな。もちろん城主はぽいっちょして」
「自分、捨てられるでありますか!?」
レグラム、ラウ、ヴァン、俺と、男子たちの会話はこんな感じだ。
猫を脅威のモンスターと認識、あの大群とやり合ったらやべぇという感想しか出てこない。
「さて具体案だ。あの猫はどう対処すれば良いと思うでしょう?」
「勇者君。猫を撃ってはダメかい? ぼくはもうドロップが気になって仕方ないんだ」
おっとニーコがとんでもない案を持ってきたぞ! 欲望120%じゃねぇか!
案の定、それはリーナたちの耳にも入って。
「ダメに決まっているでしょうニーコさん!?」
「とんでもないことなんだよ! こっち来て! 教育をし直さないといけないんだよ!」
「あ、カイリ君、何をするんだね!?」
ニーコは連れて行かれてしまった。
「あれが猫を倒そうと提案した異端者の末路、か」
「たは!」
メルトがなんだか悟りを開いたみたいなセリフで黄昏れているな。ミサトがそんなメルトをどうからかおうかと探っている気がするんだぜ。
うん、とりあえず女子が落ち着くまで見学タイムだな。
「あ、見てアリス。あの猫たち仲良く箱に入ってる!」
「かわいい~」
「あ! なんか1匹別の猫が近寄って来たぞ!? あんなぎゅうぎゅう詰めのところに入る気か!? あ、入りやがった!」
「窮屈そうになってしまいました!」
「でも、ちょっとかわいい~!」
「ちょっと待て、もう1匹近寄って、いや無理だろう!? 定員オーバーだって!」
キキョウ、アリス、ゼルレカの方も盛り上がってるな~。
どうやら2匹でいっぱいだった箱にもう1匹猫がやって来て無理矢理入ったらしい。
そこで先住猫を追い出さずに一緒に入ろうとするところが猫である。
さらにはあろうことか、もう1匹入りに来て、混沌状態になってる! 楽しそう。
あ、そうだ、スクショ撮っとこ。パシャパシャ。
「あ、あっちに猫じゃらしがあるですの!」
「たくさん生えてるんじゃなくて、1本1本生えてるんだ!」
「1本1本が1匹1匹の猫たちに対応してフリフリしてる。なにあの自動猫じゃらし!?」
「でも追いかける猫が可愛いですの!」
「あ、見てあの猫、猫じゃらしを捕まえたよ! すっごく気に入っているみたいって――あ!?」
「お気に入りの猫じゃらしが折れた!?」
「すっごい絶望的な顔をしてますの!?」
サーシャ、カグヤ、クイナダのツッコミグループの方も盛り上がっている。
なんとそっちにあったのは全自動猫じゃらし、とでも表現したらいいのだろうか。床から1本1本生えた猫じゃらしが自動でフリフリして猫を遊ばせていたんだ。
なお、猫が激しく絡むと折れる模様。あれは実は罠である。罠も人間に対してではなく、猫に対して発動してらっしゃる! 折れた猫じゃらしを前に「あああ!?」って顔をしている猫が面白いのでオーケー。
そんな光景を見ながら2時間ほど、本当にずっと猫たちを鑑賞していたが、ようやくリーナが重い腰を上げたのだ。
「こ、こほん。そろそろ調査に入りましょうか」
「そ、そうだね! 調査は大事だもんね!」
「『フルマッピング』ですわ!」
「『立体地図レーダー完備』!」
まだ『フルマッピング』すらしていなかった事実よ……。
だが、猫って見てるだけで面白いもんね。仕方なかったよ。
こうしてようやく〈竜の箱庭〉に立体的な地図が浮かび上がったところで、何人かが〈竜の箱庭〉の周りに集まり出す。
「あれ? シエラは?」
「シエラ女史はまだあっちだ。そっとしておいてやろう」
「お、おう。そうだな」
こういう時真っ先に俺の横に来てくれるシエラがまだ猫に夢中だった。シエラはクールに見えてとっても可愛い物好きなのだと、俺は知っている。
メルトの言う通り、そっとしておくのが吉だろう。
「改めて、凄いダンジョンですわね。これはどうやって進めば良いんですの? 『階層門発見』ですわ!」
「『安全ルート探知』! えっと、ルート自体はいくつかあるみたいだね。だけど……」
「普通に平坦に続く道が、無いな」
調べれば調べるほど猫工物。
猫ってなんでこんなに上下に動くの? これ本当に道なの? っていう道のようで道ではない妙な通路がそこら中にあった。アスレチックかな?
「ここまで段差の激しいダンジョンは過去にありませんでしたわね」
「まあ、そりゃハメができちゃうからな」
「ハメ?」
おっと失言!
ハメとは、ゲーム用語で言うハメ技のことだ。
つまり高所を陣取って、モンスターの攻撃が届かない位置から一方的に攻撃することなんかを言う用語だな。
今までモンスターが侵入できないような高所などがなく、平坦な道が多かったのは、このハメ技をさせないようにする措置だ。
だが、猫などのようにジャンプでどこでもいけるモンスターのダンジョンではそれも解禁。こうして高所を移動する地形が現れるわけである。
ここも、立体的オープンダンジョンだな。
「それじゃあ、まずはモンスターとの戦闘からだな。見たところ数は300を超えている。しかしボスではないが、万が一に備えて出入り口門から撤退できるよう救済場所で待機していてくれ」
「了解ですわ」
まずは猫との戦闘からだ。ルートなんかの話はその後だな。
いきなりこの見えている300の猫たちが一斉に襲ってくるということは無いのだが、万が一に備えて出入り口門に近いところでエンカウントの実験だ。
調査開始!
あとがき失礼いたします。カウントダウン!
〈ダン活〉小説14巻の発売まで――あと1日です!




