#1851 罪深き◯玉――オプション・フュージョン!!
「マリー先輩いるか~」
「いるで~」
「【大罪】職専用武具のオプションが完成したというのは本当ですか!」
「ふっふっふ、モチモチのモチッコや! さあ、専用武具を並べて待ちな! 最後の仕上げ、『オプションフュージョン』を敢行するでぇ!」
「「「「おおおー!!」」」」
――『オプションフュージョン』。
それはオプションと専用武具をフュージョンしてしまう素晴らしいスキル。【コーディネイター】の六段階目ツリーだ!
「メイリー、カモン!!」
「Zzz」
「て、寝てる場合やないでぇ!!」
「ふが!? ね、寝てないよ?」
「おお~」
毎度お馴染みのコントに拍手を送る。
今日、この時のために呼ばれたメイリー先輩は、いつも通り立ったまま寝てた。
マリー先輩がハリセンのようなもので叩き起こすのも見慣れたツッコミだ。
あのハリセン、流行ってるのかな?
ちなみにここはマリー先輩のお店。
俺と【大罪】職持ちの6人は、1週間ぶりにマリー先輩の店を訪れていたんだ。
「えっと?」
「だ、大丈夫なんでしょうかゼフィルス先輩?」
「大丈夫だ。あれはいつものノリ、というかお客さんを和ませて笑いを届ける、マリー先輩たちにとっての使命みたいなものだから」
「別に使命やないで?」
フラーミナやキキョウが立ったまま寝ているメイリー先輩に不安を掻き立てられていたので安心させる。
ちょっと誇張してしまった気がしなくもないが、大きく外れてはいないだろう。多分。
「こほん、ほらメイリー、仕事や」
「うん。それじゃあまず大剣から」
「ええ!? あたいからか!?」
メイリー先輩のご指名、まずゼルレカの〈放蕩獣鉄剣〉からだ。
思い切り不安そうなゼルレカだったが、恐る恐る〈放蕩獣鉄剣〉を台の上に置く。
「これ使えなくなったりしたらあたいの人生も終わるんだが、マジ大丈夫なんだよな?」
「なぁに、その時は俺が責任とって新しい上級職、高の上に就かせてやるさ!」
「そういう問題なのか!? いや責任の取り方としてはあってるのか? なんか分かんなくなってきた」
「それに、見ろ。大丈夫だ。メイリー先輩は確かに昼間はああしてウトウトしていることが多いが、それは夜遅くまでスキルを使い続け、生産に心血を注いでいるからなんだ。つまり、腕前は良い。これから使う『オプションフュージョン』だって六段階目ツリーなんだぜ?」
「そ、そうなのか!?」
メイリー先輩が眠たげなのは寝る間を惜しんで徹夜して生産を繰り返しているからだ。まあ、昼間は寝てるんだがそれはともかくだ。
メイリー先輩がどれだけ生産に力を入れているのか、これでみんなも分かったと思う。ゼルレカの不安も晴れた様子だ。
メイリー先輩も最近ようやく六段階目ツリーを開放できたらしい。
俺がオプション装備の作製をここまで延ばしていたのも、メイリー先輩の成長を待っていたためだったりする。
その成果がいよいよ現れようとしているな。
「それじゃあ、兄さん、あれだしてや」
「おう、『オプションフュージョン』に使う触媒だな。ちゃーんと採ってきてあるぜ。えっと、マリー先輩、ここにひっくり返していいか? 多分、また山になるが」
「ええわけないやろ! どんだけ採ってきてんねん!」
「ふ、1週間も時間があったんだぜ? 〈エデン〉に掛かれば大量の素材持ち込みはむしろ当然だろう?」
大きめの台に〈空間収納鞄〉をひっくり返そうとしたらマリー先輩から待ったが掛かった。
でもどのみちこれは全部マリー先輩の店でしか売れないのでひっくり返すけどな! どばー!
「わー! またこんなに採ってきてからにー!」
「はーっはっはっはっはー!」
「ゼフィルス先輩、楽しそうでやがりますね」
「うんうん。私は結構見慣れた光景です」
無事マリー先輩の下に1週間で採ってきたボス素材たちを納品できた俺は、中から触媒素材となりうるものを取りだして〈放蕩獣鉄剣〉の横にポトリと置いた。
「これで、用意するものはオプションだけだ」
「うん。私が預かってる。これが〈放蕩獣鉄剣〉のオプション――〈罪深き猫玉〉」
「見た目がもう罪深い……!」
メイリー先輩が出してきたのは猫の顔が描かれた黒い球。
大きさはハンドボールより小さく、ソフトボールよりも大きいくらい。男でも片手で掴むのが少し大変な大きさだ。
7つの罪深き玉を集めても願いは叶えられないので注意だぜ。
「こいつが、オプション?」
「これを〈放蕩獣鉄剣〉に合わせると」
「って、なぁ!? 穴! あたいの〈放蕩獣鉄剣〉に穴! 貫通した!!」
「大丈夫、外すと元に戻ってる」
「マジで信じられないよな。融合と名前がついてしまうのも分かる光景だぜ」
メイリー先輩が見本を見せるように〈罪深き猫玉〉を〈放蕩獣鉄剣〉の横腹に接触させると、そのままなんの抵抗も無く横腹にめり込んだんだ。反対側に貫通していて、完全に穴が空いている。ゼルレカが悲鳴を上げていたよ。
だが安心してほしい。これ、玉を取り上げると横腹を貫通されたはずの〈放蕩獣鉄剣〉も、元に戻ってたんだ。
「ほ、本当に元に戻ってる? 壊れてないよな? 穴空いてないよな?」
「大丈夫ですゼルレカ。能力値も元のままです。だから私に抱きつくのは止めてください」
「身体が勝手に抱きついて離れないんだ!」
なお、ゼルレカはそのショックからかは分からないが、キキョウに抱きついて離れなくなっていた。これはこれで尊い光景なので傍から見ていると良し。あ、スクショ撮っておこう。パシャパシャ。
「こんな感じで、オプションは素人でも取り外しが可能。くっつくし、取れる。取っても元の専用装備に影響は無い」
「どう見ても貫通してたけど!?」
「取り外すと元に戻るから問題は無い」
「ゼルレカ、もうそう言うものだと思ってくれ。見ての通りオプションを取り付けても取り外しても影響は無いってメイリー先輩が見せただけだから」
「お、おう」
「でも意外。一番強靱そうな子だと思ったのに、ここまでびっくりするとは」
「あたいを最初に指名したのは心が強靱そうだからかよ!?」
「うん。最初はびっくりすると思うし」
「確かにびっくりしたよ! キキョウを抱きしめてねぇと剣を持って逃走しちまいそうだ!」
どうやらキキョウが癒やしの様子だ。キキョウがんばれ。がんばってゼルレカを癒してくれ。
「見てもらった通り今のはパフォーマンス。素人でもできるけど強化としてはいまいち。私がこれからするのはスキルを使った本格的なフュージョン。取り外せなくなるほど融合させて力を一体化させ、能力を最大まで引き上げる。見た目は今までの剣の形と変わらない。いや、ちょっとだけ大きくなるかも?」
「お、おう。なんか聞いていると強そうに思えるぜ」
どうやらゼルレカも復活してきたのでメイリー先輩が早速実行に移さんとする。
ちなみにマリー先輩は俺が山にしてしまった素材を捌くのに忙しそうだ。
「本格的なフュージョンには触媒が必要。それも最上級ダンジョンのレイドボス級の素材が必要。でも私たちには〈エデン〉が居るから安心。素材も揃った。あとはスキルを使うだけ」
「ちなみに言っておくと、このオプションはこれでも六段階目ツリーを開放しているアルルとタネテちゃんの合作で、かなり強力で等級も高いオプションだからな。これらだけでも揃えるのすげぇ大変なんだぜ?」
「聞いているだけでちょっと腰が引けそうだよ」
メイリー先輩と俺の説明、それととんでもなさそうなお値段に腰が引けるフラーミナ。
大丈夫だ。昔の〈上級転職チケット〉と同じくらいの値段だしな! まあ、ゲームの時の値段だけど。
「それじゃあ始める。――『オプションフュージョン』!」
「「「おお!」」」
いよいよフュージョン開始。
やや唐突に始まったメイリー先輩のスキルが発動すると、〈罪深き猫玉〉と触媒の素材、そして〈放蕩獣鉄剣〉が合わさり、一瞬だけぐにゃりとその形を変えたかと思うと――シャキンといつもの〈放蕩獣鉄剣〉の姿に戻っていたんだ。
いや、微妙にオーラ的なものが出ているな。紫色の炎にも似たオーラが刃からちょっとだけ揺らめいて見えていたんだ。かっこいい。
「これが、あたいの新しい〈放蕩獣鉄剣〉?」
「『解析』! こ、これ凄いよゼルレカちゃん! こんなに能力値が上がってるよ!」
「お、おお!? なんだこりゃ!? 倍近くになってんじゃん!?」
ミサトが〈解るクン〉で『解析』を掛けると、その数値に度肝を抜かれた様子。
今までの能力値、攻撃力の数値が倍近くまで上がっていたのだ。
しかし、そうじゃなくちゃこまる。この装備は、最上級ダンジョンのランク5の攻略まで使う予定なのだ。これくらいの数値じゃなくちゃいけない。
「スキルも一個増えてる。『怠惰な耐性』? 全属性耐性低下を追加!?」
「属性弱体化付きですか! いいじゃないですかゼルレカ!」
「それが〈罪深き猫玉〉の効果。弱体化の数値を大きくするのに苦労したと聞いている。また、専用武具にオプションを付けたことで強化玉を+2、新たに付けられるようになった」
「え? それはすげぇことじゃねぇでやがりませんか!? つまり、あたしの〈無限欲望盾〉も強化玉で+10にまでできるってことでやがりますよね!?」
「イエス。【大罪】専用武具は今まで+8が限界だったけど、オプション着けると+10まで強化できるようになるみたい」
「「「おおー!」」」
メイリー先輩の言葉に、6人全員が歓声を上げたな。
上級装備は最大強化が+8まで、そして最上級装備なら+10まで強化が可能なのが〈ダン活〉の装備だ。
つまり、オプションを着けた【大罪】専用武具は、最上級装備と分類されるという意味になるな。
「いやマジか。これ、すげぇ強いぞ!」
バッとキキョウを抱きしめるのを止めたゼルレカが〈放蕩獣鉄剣〉を持ち上げて、キラキラした目で見つめていた。
「持った感想はどうだゼルレカ?」
「ああ、前と変わらなさそうな感じ? だと思うぜ! これ、すげぇ手に馴染む!」
「よかった。ちなみに私は微調整みたいなのできないから、そういうのはアルルにお願いしてね」
「おう! ありがとうメイリー先輩! さっきはちょっと疑って悪かった!」
「どういたしまして。私は実力派、訝しむ視線は実力で黙らせる。だから別にいい」
「か、かっこいい……!」
おお~、なんだかさっきとは打って変わり、ゼルレカのメイリー先輩を見る視線がキラキラしてる。
なんだか舎弟にしてくれとでも言いだしそうな雰囲気だ。
よし、話を変えよう。次に行こう!
「メイリー先輩、次も頼むぜ!」
「おけ。続いては――〈罪深き犬玉〉」
「わ、私か!」
続いてはフラーミナの番。
こうして次々と【大罪】職のみんなはオプションをフュージョンしていったのだった。




