#1848 クイナダの再び〈エデン〉加入を祝って―乾杯
クイナダがギルドハウスに到着する少し前。
クイナダが学園都市に到着した。
そう学園長の秘書兼メイドのコレットさんから連絡を受けた俺は、放課後にギルドの前でハンナと待ち合わせしてクイナダを待つことにした。
呼び出したハンナがギルドの前まで駆けてくると合流。
「ゼフィルス君! クイナダさんが到着したって本当!?」
「本当だぞハンナ! 午前中には学園都市に着いていたらしい。まだギルドハウスには来てないが、きっと真っ先に顔を出しに来るに違いない。ここで待っていればすぐに会えるだろうさ」
「わぁ! クイナダさん、元気にしてるかな?」
ハンナが満面の笑みでクイナダの学園都市到着を喜んでいた。
別れていたのは2ヶ月、長いようで短い期間。
下手をすれば一生の別れになってもおかしくはないさよならだったのだ。そんなクイナダが戻ってくる、また一緒にギルドメンバーとして活動できるというのだからハンナの喜びようも分かる。本当に嬉しそうだった。
元気、元気かぁ。
少し心配なのはクイナダの心境。
俺たちは約2ヶ月前、盛大にお祝いして見送った。むしろ今後〈第Ⅱ分校〉を引っ張っていくだろうクイナダ、その門出を祝ってとんでもないお土産も持たせたりもした。
ちょっと戻って来づらいんじゃない? と思わなくもない。
あと、〈第Ⅱ分校〉でトップの実力だったクイナダだ。
〈第Ⅱ分校〉から期待されまくり、きっとクイナダが分校に戻って来た暁には、その類い希なる才能で分校生を引っ張っていってくれるに違いないと期待されていたクイナダ。
それがあまりに強くなりすぎて「あの、クイナダさん、もうちょっと手加減を……」「え、ええ? これでも結構手加減してるんだけど……」という、あまりの実力の開きにクイナダの強みが全く活かされない事態になってしまったらしい。
これなら五段階目ツリーを開放した他の留学生たちで十分で、クイナダの出番はその留学生たちの指導で分校生がある程度成長してから、という話となった。
そうなるとクイナダはその間どうすればいいの? という状態で、うん。あまりに強くなりすぎて空回りしちゃってる!
結果として期待されていたことができなかったのだ。
クイナダの心境が少し心配でもある。落ち込んでいたら励まさないと! ハンナにはそのために来てもらったのだ。
場合によっては俺はドロンして、クイナダとハンナの2人きりにしてあげる所存。
ギルドメンバーと会うのは、クイナダが色々吐きだしてから、にする予定だったのだが、実際会ったクイナダは、微塵も落ち込んでいない、さよならしたときそのままの姿だった。
「クイナダさん!」
「ハンナちゃん! ゼフィルスも!」
「おう! 思ったよりも元気そうだな!」
クイナダは、なんと俺たちがさよならの時に渡した最上級ダンジョンレジェンド装備の全てを装備していたのだ。
やる気満々じゃないか! これならみんなと会わせても問題は無い!
むしろ今すぐ〈猫界ダン〉に行くべきじゃないか? クイナダのこのやる気を鎮火させるわけにはいかない気がするぞ!(気のせいです)
俺はすぐにギルドハウスの扉を開けて中に居るメンバーに宣言した。
「みんな! クイナダが帰ってきたぞ! これで〈猫界ダン〉に挑めるな! 見ろ、クイナダもフル装備、やる気満々だ!! さぁ、早速最上級ダンジョンに行こうか!!」
「落ち着きなさいゼフィルス」
「――はふん!?」
しかし俺の意気込みは、シエラのツッコミと脇腹ツンによって止められることになった。
な、なんだって!?
「クイナダ。良く戻って来たわね。みんな待ってたのよ」
「あ……うん!」
「さ、クイナダさん、入って入って!」
そして俺を差し置いてクイナダが中に入ると、ギルドメンバーがわいわいと集まって来た。
「本当にクイナダちゃんだー!」
「お、お久しぶりです!」
「みんな待ってたんだよー!」
「戻って来てくれてみんな嬉しいって!」
「また〈エデン〉に参加するんでしょ? 枠はクイナダちゃんのために空けてあるよ」
「わわわ」
ノエル、ラクリッテ、サチ、エミ、ユウカの猛攻。否、歓迎にクイナダもタジタジだ。
「クイナダお姉ちゃん~、げんきしてた?」
「元気は大事ですよ。元気が無かったら〈エデン〉でたっぷり補給していってくださいね」
「またクイナダ先輩とパーティ組めるの、あたいは楽しみにしてたんだ! 一緒にパーティ組もうぜ!」
「あ、アリスちゃん、キキョウちゃん、ゼルレカ!」
どんどん集まってくるメンバーズと次々歓迎される言葉に、ようやくクイナダがいつもの調子に戻ってくる。いや、多分元気を分けてもらっているのだろう。
だんだんと〈エデン〉の思い出が身体に馴染んでいっている様子だ。
「はいはい。そこまで、そんなにいっぺんに言ったらクイナダもパンクしちゃうわよ。――クイナダからも何か言いたいこととかもあるでしょう?」
そうシエラがストッパーになったことでみんなが少し静まり、クイナダが少し照れた様子で口を開いた。
「う、嬉しいよ! みんなただいま! 歓迎してくれて、ありがとう! 私、あんなに盛大に見送ってもらったのに戻ってくることになって、ちょっと恥ずかしかったんだけど、元気出たよ!」
「「「わぁ!」」」
「私たちも嬉しいよ!」
「また一緒にダンジョン行こうね!」
まさに大歓迎。
やっぱり少し恥ずかしかった様子のクイナダだが、すぐに〈エデン〉に受け入れられて万事解決だ。
〈猫界ダン〉に行く雰囲気ではなくなってしまったが、まあいい。
時間はまだまだあるのだ!
おっとそうだ、これだけは確認しておかなければ。
「クイナダ!」
「あ、なにゼフィルス!」
「1つ確認させてほしい。クイナダは、また〈エデン〉に加入するんだよな?」
俺がそう言うと周りは一気に静かになった。
まさにみんな、固唾を呑んでクイナダの言葉を待っている。
クイナダは俺の方に向き直り、姿勢をピシッと正してから言った。
「ゼフィルス、お願いします。私をまた、〈エデン〉に加入させてください!」
「もちろんだ! 〈エデン〉のギルドマスターとしてクイナダの加入を歓迎するぞ!」
「「「「「わぁ!!」」」」」
確認大事。
クイナダの意思と俺の承認を経て、改めてクイナダが〈エデン〉に戻ってくることが今決まった。
瞬間、ギルドハウスは大盛り上がりになったよ。
もうこうなったら仕方がない、仕方がないから宴に突入する!
「宴を開催するぞ! クイナダの歓迎会だ!」
「「「おおー!」」」
「ああ、このノリ、なんだか本当に帰って来た気がするよ!」
クイナダが戻って来たので乾杯だ。
〈エデン〉のギルドは一気に宴に突入したんだ。
わいわい騒いで大歓迎。
クイナダと積もりに積もった話もあるだろう。
クイナダの周りはずっと盛り上がってたよ。
「ええ!? 新しい下部組織を作って、もうAランク!? しかも新しく入ってきた1年生ももう全員上級職になってるの!? まだ入学式から1ヶ月でしょ!?」
「そうなんだよ。最初は私もビックリしたけど、ほら、ゼフィルス君だから」
「ゼフィルス君だから、じゃないよハンナちゃん!? 普通創立から1ヶ月でAランクギルドに昇格とか絶対に無理だからね!? というか〈上級転職チケット〉何枚使ったの!? それ分校では今でもすんごい貴重だったやつなんだけど!?」
「えっと、ほら、あの子たちだよ。今は2年生合わせて24人しかいないけど、近々また大面接で募集を掛けるんだって。目標は今年中にSランクギルド、ってゼフィルス君が言ってたよ。〈上級転職チケット〉は、多分今後もいっぱい使うんじゃないかな?」
「あ、相変わらずなんだねここは~。〈第Ⅱ分校〉との時間の流れの差を改めて感じたよ~」
クイナダも自分の居なかった2ヶ月の間に大きく変わった〈エデン〉にびっくりしていた。
自分が居たときにはまだ無かったはずの〈エースシャングリラ〉がもうAランクギルドになっていると知っておののいていたんだぜ。同時に気になることも呟いている。
「あ、そうそう! 〈第Ⅱ分校〉で何があったの!? 最初戻ってくるって聞いた時びっくりしたと同時にそれがすごく気になったんだよ!」
「あ、あ~、うん。実は――」
クイナダが話した内容は俺が知っていること、ほぼそのままだった。
ちょっと、クイナダを強くしすぎてしまったのかもしれない。
「でもそれで〈エデン〉に戻って来られたんだからむしろラッキーだったかも。向こうで友達だった子たちも、1年も離れちゃうと結構関係が薄れちゃうと言うか、むしろここの関係が濃すぎて印象が段違いだったというかね」
どうやら交友関係の深さ部門では〈エデン〉が圧勝したらしい。ちょっと誇らしいな。
「あ、やっぱりモニカを入れたんだね。ということは〈エデン〉の空きって後1つだったの? あ、あっぶな~」
「クイナダさん合わせて〈エデン〉は50人ですよ~。これでメンバーはフルですね!」
ハンナがこの2ヶ月で変わった〈エデン〉の内情を伝えているな。
とはいえ、〈猫界ダン〉にも潜ってないし、〈エースシャングリラ〉に掛かりきりだったからそれほど変わっていない。モニカが新しく〈エデン〉に加入したくらいだ。
もう1人良い人が居たら、クイナダは〈エデン〉に戻って来られなかった。それを考えてちょっと震えたらしい。
しかし、ハンナの言うとおりこれで〈エデン〉はフルメンバー。
今まで49人という、ちょっと中途半端な人数だったがこれで完全体だ!
これでダンジョンに集中できるな! ふははははは!




