#1845 〈学園春風大戦〉が終わって後日談!
慌ただしかった〈学園春風大戦〉が終わると、俺たちも中断していた〈エデン〉のレベル上げに乗り出した。
〈学園春風大戦〉まで時間が無かったので〈エースシャングリラ〉の強化に掛かりきりだったからな。今度は〈エデン〉のターンだ。
もちろん〈エースシャングリラ〉の強化も継続して行なうが、〈エデン〉のレベル上げも重要。
次に〈エデン〉が目標とするのは最上級ダンジョンのランク2――〈猫界ダン〉だ。
そのためには、まず全員がランク1〈樹界ダン〉のLV上限である上級職LV75まで育成しておくのが安全。
ということで、モニカの試運転も兼ねてLV75まで育成することになった。
実はモニカは〈エデン〉に正式に加入する前、つまり先月から〈エデン〉のメンバーとは一緒にパーティを組み、俺が〈エースシャングリラ〉を強化する傍らモニカも上級上位ダンジョンの攻略者の証集めをしていた。おかげですでに最上級ダンジョンへの入ダン条件達成まであと1つまできていたりする。
1ヶ月以上あったからな。〈教会ダン〉まで攻略済みだ。今日から〈竜ダン〉攻略に入る。
「モニカ、今日から俺も入る。今まで共に参加出来ず悪かったな」
「問題ねぇでやがります。ゼフィルス先輩が〈エースシャングリラ〉をこの短期間にAランクギルドにするつもりって聞いた時は耳を疑いやがりましたが、ゼフィルス先輩は見事に有言実行してみせやがりました。Aランクギルドのギルドマスターを実際やったことがあるから分かります。こんなの他に何かしながら両立なんてできねぇでやがりますよ。あたしはゼフィルス先輩の実力が本物と知れただけで十分でやがります」
色々思いが詰まっていたのか、結構な長文でモニカが述べた。
その目は尊敬の眼差しだ。もちろん俺に向けられている。
どうやら自分はほとんど半年掛かりで〈天下一パイレーツ〉をAランクギルドにしたのに、1ヶ月足らずで〈エースシャングリラ〉をAランクギルドにしてしまった俺を強く尊敬してくれているようだ。嬉しいことである。
俺、そのモニカが育ててくれた〈天下一パイレーツ〉を踏み台にしちゃったんだけど?
そう聞いてみても。
「それは100%あいつらが悪いのでお気になさらねぇでやがりください」
とのことで、全く気にしていないらしい。むしろ胸がスッとしたと言っていたよ。
サターンたちとモニカの関係は複雑な模様だ。
ということで、〈竜ダン〉へと入ダン。
もちろん目的はモニカの攻略者の証と――ついでに〈竜の試練〉を突破し、〈エースシャングリラ〉用の〈竜の箱庭〉を入手することだ。
〈エンテレ〉でモニカを最奥まで連れていってまず最奥のボス撃破。攻略者の証をゲット、これでモニカはついに最上級ダンジョン入ダンの資格を手に入れたな!
そのままやりきった表情のモニカを連れて〈竜の試練〉に突入した時は少しモニカがやけっぱちになっていたが、その日のうちに試練も突破だ。
しかし、ここで妖怪が発動! 〈竜の箱庭〉が手に入らなかったから大変だ。
結局、5日間かけて5周も〈竜の試練〉をクリアすることになっちまったぜ。
「あたしは、まだまだまだまだ〈エデン〉を見くびっていたんでやがりますね。ちょっと入ったことを後悔しそうになったでやがります」
「なんだって! それはいけない。大丈夫だ。明日からは最上級ダンジョン突入だ! きっと楽しいことになるぞ!」
「認識の誤差が致命的にアウトでやがります!? なにが大丈夫なんでやがりますか!」
まあ、そんなあれこれがあったり無かったりしたが、シエラたちのフォローもあってなんとかなり、無事〈竜の箱庭〉ゲット。なんか2個も来た。おのれ妖怪め! モニカが荒れたのは妖怪の仕業に違いないぞ!
なお、その日からモニカを最上級ダンジョンに連れていき、攻略法を伝授しつつ〈エンテレ〉で最奥へ飛んで、最奥ボスの周回を開始した。
モニカのLVも65に上がったよ。喜んでたと思う!(ゼフィルスの主観です)
5月に入った。
今日は運命の日。
2年前は高位職になれない人が結構おり、この最終日にはかなりの人が中位職や低位職になって膝から崩れ落ちていたが、今年はそんな学生が非常に少なかった。
「ゼフィルス君のおかげで多くの学生が自分にあった職業に就くことができている。高位職の発現率は、なんと7割を超えた!」
「おめでとうございますミストン所長!」
そう俺に直接お礼を言いに来たのは、自称〈研究所で一番の男前〉のミストン所長だった。
俺も祝いの言葉を贈り、共に大いに盛り上がったのだ。
「もちろんまだまだ道半ばということも分かっている。我々はまだまだこれからも職業発現の研究を続け、誰もが迷わず、自分の好きな職業へ就くことができるよう頑張る所存だ!」
そう宣言するミストン所長は、凄まじく輝いていたんだ。
ほんと、20歳くらい若返ってない? 自称じゃなくて、本当に男前になってるんだけど。一番かは知らないが。
ミストン所長や研究所の頑張りは大きく実り、現在は409ある下級職のうち、実に245の職業の発現条件を突き止めているという。約6割だ。凄い。
このまま行けば、本当に全ての職業の発現条件を突き止めることができそうな予感だ。
まあ、上級職についてはまだまだ1割未満、これかららしいけどな。
がんばってほしい。
こうして1年生では〈戦闘課〉に関しては実に9割が高位職に覚職。
中位職は他の生産職など、高位職が存在しない系統の職業に就いているとのことで、学園全体では実に7割強の学生が高位職に就くことができたとのことだ。素晴らしいな!
さらに次の登校日、5月4日月曜日は1年生のクラス発表。
ここで軽い事件が起こった。
「聞いてくださいゼフィルス先輩! 私たち、みんなそろって〈1組〉になったのです!」
「褒めてください」
「みんなおめでとう! よく頑張ったな!」
1年生代表でクラとフェンラがそう言ってきたのだ。
〈エースシャングリラ〉の1年生10人、なんとその全員が〈戦闘課1年1組〉に名を連ねることになったのである。
なにせ〈学園春風大戦〉でAランク戦の部優勝ギルドのメンバーだ。しかも出場者である。
加えて〈エデン〉メンバーから英才教育を受けている6人。さらに大面接でセレスタンが「合格」と見込むほど勉強ができる4人。そして全員が漏れなく上級職。
〈1組〉入りはほぼ確定と言って良かった。
結果に大満足である。
「それともう1つ! ニュースがあるのです! ユナ、パースです!」
「パス、受け取りました。これを見てくださいゼフィルス先輩」
「お?」
クラからパスを受け取ったユナが、何やら教科書の1ページをめくって見せてきたのである。
そこに載っていたのは――俺の写真だった。
「ユナが見つけました。ゼフィルス先輩が教科書に載っていたのです」
「な、なんだってーーー!!」
「なんですってーーーー!?」
思わず大きい声で反応してしまっても仕方がないだろう。
なぜかラナも反応していたが。
教科書を見ると、そこには先々月、俺たち〈エデン〉が最上級ダンジョンに初入ダンし、〈世界樹の杖〉を持ち帰り、さらに学園長へ寄贈した時の写真とその内容が歴史の教科書に載っていたんだ。
1年生の歴史の教科書に載っちゃったよ!!
この写真は誰かがスクショで撮ったのかな? 良く撮れているじゃないか!
「教科書の内容を読みましたが、ゼフィルス先輩たち、こんなことをされてたんですね」
「そうよ! あの〈金箱〉を見つけたのはニーコなんだからね!」
「宝箱を開けたのはゼフィルス殿でした」
「わ、わー! 当事者の生の声が聞けてますよフェンラ!」
「もっと詳しく聞きたいです先輩方」
1年生の歴史の教科書を見ながら盛り上がる。
しかも載っているのは自分の話題、なんだろうこの気持ち。
なんだかすっごく楽しいんだけど!
ラナやエステルなどの当事者が語る歴史の教科書に書かれていない内容にクラやフェンラたちは大盛り上がりだ。
特にフェンラは普段のクールな表情を崩して頬が高揚している。いいね。
まさかこんなサプライズを用意してくださるとは。
学園長、グッジョブです!
◇
また、俺個人へだが、学園長からまたも申し出があった。
「ゼフィルス君、できれば今年も頼みたいのじゃが……」
「もちろん構いませんよ! 金曜日の選択授業、そこで上級ダンジョンと最上級ダンジョンの攻略法をお教えしましょう! とりあえず、ここに〈樹界ダン〉の報告書を用意してきました!」
「はひ―――っ!?」
「ああ学園長おかわりですね。今お注ぎいたします」
「…………(学園長、心中お察しいたします……!)」
俺が完成したてホヤホヤの最上級ダンジョン〈樹界ダン〉の報告書を持ち込んだところ、学園長が仰け反った! ふっふっふ、どうぞ驚いていってください。
学園長はちょっとお茶を飲んで休憩が必要らしい。その間、少しだけカイエン先輩とも話をすることができた。学園長室で仕事とは、さすがはカイエン先輩だぜ!
少しすると、視界の端でビクンッとした学園長が復活してきた。
「コ、コレット君、次は冷たいお茶を」
「はい。どうぞ」
「ふ、ふ~~~」
どうやら一息入れられたらしい。
学園長にとって、最上級ダンジョンは刺激が強かったらしいな。
読んだらもっと凄いぞ? この報告書、自信作だ。
というわけで3年生でも臨時教師に就任することに決まった。
あと、これも聞いたのだが、俺が1年生の時にしていた〈育成論〉の授業。
あれは選択授業ではなく、今期から正式に必修科目になったそうだ。
必修科目! 素晴らしい!
ということは、これで国語、数学、歴史、育成論が必修科目になったということか! おお~。なんだか、おお~っとため息が出てしまったよ!
「そ、それでゼフィルス君、今はレベル上げに努めておるようじゃが、もしかしてランク2のダンジョンに挑むつもりかのぉ?」
「はい! お察しの通りです学園長! 〈エデン〉は、そろそろ最上級ダンジョンのランク2、〈欲望の猫界ダンジョン〉へと挑みます!!」
「つ、ついにこの時が来てしまったのか……」
「…………(最上級ダンジョンの報告書?? あ、公式ギルド用のね。良かった、俺もそんな高難度ダンジョンに行くことにならないで本当に良かった)」
「カイエン君、ではこの報告書のことを頼むぞい」
「え? あ、はい! このカイエンにお任せください学園長!(ま、丸投げされたーーーーー!?)」
ここで俺は宣言した。まだ〈樹界ダン〉の最奥に再度到着したばかりでレベル上げはこれから。だが、それが終わり次第、〈エデン〉は〈猫界ダン〉へ挑む予定だ!
それを聞いた学園長がまたビクンと震えた気がしたが、きっと気のせいだろう。
なぜか報告書を受け取ったカイエン先輩も震えていた気がしたが、こちらはやる気に満ちているので武者震いに違いない。
そして、俺はここで学園長からビッグニュースを伝えられることになる。
「そ、そのことなんじゃがゼフィルス君、その攻略、少しだけ待ってもらいたいんじゃ。いや、他の公式ギルドが最上級ダンジョン入りするまで待ってほしいというわけじゃないんじゃが」
「ほう? というと?」
「ふむ。実はの、約2ヶ月前に〈第Ⅱ分校〉へ戻ったクイナダ君なのじゃが、そのあまりの実力差に色々あっての。紆余曲折を経て本校に転入することが決まったのじゃ。今こっちに向かっておる。クイナダ君は、確か〈エデン〉のメンバーじゃったじゃろう?」
それはまさにビッグニュース。
留学生であり、2ヶ月前に元いた学園に帰ったクイナダが、こっちに向かっているというニュースだったんだ。
第四十一章 ―完―




