#1839 ついに来たる。〈学園春風大戦〉――開幕!
一方サターンたちは。
「お、おのれ~」
「ふふ、まさか、僕たちが、この六段階目ツリーを開放した僕たちがCランク落ちですって?」
「モニカも戻らなかったな。というか、誰1人として対人戦出来なかったんだが?」
「俺様が活躍するはずがーーーー!! 俺様を忘れないでーーーーー!!」
全ての巨城を取られ、ほぼ負け確状態の〈天下一パイレーツ〉は――そのまま負けてしまった。
そしてCランクに落ちた。
Aランクギルドハウスを引っ越し、Bランクギルドハウスに行くはずが、彼らの引っ越し先はCランクギルドハウスだった。そのギルドハウスのあまりの小ささに彼らから不満が漏れる。
他の六段階目ツリー開放者たちはみんなAランクギルドで華々しい活躍をしているのになぜ自分たちだけCランクギルドに落ちているのかと。
ありえん、あってはならん! でもこれが現実なのだ。なんの不思議もない。
「こうなったら、またやり直しだ!」
「サターン?」
「何度でも、何度でも這い上がってやる! 我らは一度はAランクギルドになった猛者である! また返り咲いてやる!」
「おお! 俺ちょっとサターンを見直したぞ!」
「まずは人材育成だ! やはり人手が足りない! 我らだけではさすがに限界がある! 人材育成からやり直し、ギルドランクを上げるのだ!」
「ふふ、そうですね。僕たちは強くなりました。ならば、できないことではありません」
「俺も付いて行くぞ! 再びAランクギルドに、いや、次の〈SSランクギルドカップ〉でSSランクギルド、学園の頂点に立ってやるんだ!」
「俺様を忘れてもらっては困るぞ! 俺様がいなければ始まらないだろう。学園の頂点で先頭を歩くのは、この俺様だ!」
サターンたち、やっぱり折れない。
しかも目指すはビッグにSSランクギルドの地位。
負けたばかりでここまで大きな目標を掲げられるのは、やはりこの男たちしかいない。
「やはり下部組織相手ではダメだ。ゼフィルス本人を倒さなければ俺たちは学園の頂点とは呼ばれん。故に、SSランクギルドになることを目標に人材育成を開始する!」
「「「おおー!」」」
こうして、弱体化してしまった〈天下一パイレーツ〉は、大きな目標を掲げて再スタートを切ったのだった。
そしてやる気十分でダンジョンに突入した結果――〈学園春風大戦〉Bランク戦の部にエントリーするのを忘れた。
◇
〈エースシャングリラ〉対〈天下一パイレーツ〉戦から2日が経った。
今日は4月24日金曜日。
そう、今日から〈学園春風大戦〉が行なわれる。
「みな、よく鍛え、そして集まってくれたのう。とても良い表情じゃ。これからの大戦にふさわしい実力を兼ね備えてきてくれたこと、とても嬉しく思う! では始めよう。わしはここに宣言する!! これより、〈学園春風大戦〉を開催する!」
――――わああああああああああああああ!!!!
場所は第一アリーナ。
その中央に壇上、ステージが設けられ、学園長がキリッと引き締まった表情で〈学園春風大戦〉の開催を宣言。
その瞬間、観客席が爆発したかのような大歓声に包まれた。
学園長の側にはラダベナ先生とムカイ先生、そして、なんとカイエン先輩の姿が見えた! カイエン先輩、頑張ってるなぁ。相変わらずお腹に手を当てる独特なポーズでキリッと立っている。かっこいい。
「すごい大歓声ね!」
「去年はあまり実感無かったけど、当事者だとやっぱり違う! 僕、すごくワクワクしてきたよ!」
「うん。私も。絶対負けない」
ソア、ミツル、シオンがそれぞれ観客席を見渡しながら述べる。
その迫力と歓声に、自分たちがこれからどんなところで戦うのかを意識させられたのだろう。
とても気合いが入っていた。かくいう俺も気合いが入る。
「ゼフィルス、落ち着きなさい。あなたは出られないでしょ?」
「……やっぱり仮面を被ればワンチャン」
「ダメに決まってるでしょ」
くっ、シエラのガードが堅い。
なぜSSランクギルドは参加しちゃダメなんだ! やはり、今からでもSSSランクギルドカップ、いやむしろLGランクギルドカップを作るべきなのではないか? きっと盛り上がるぞ。
「まずはSランク戦からね! 去年は〈エデン〉が勝ったけれど、今年はどこが勝つかしら?」
「今回の出場ギルドですが、〈筋肉は最強だ〉、〈氷の城塞〉、〈集え・テイマーサモナー〉、〈サクセスブレーン〉、そしてこの度〈カオスアビス〉と〈世界の熊〉が合併して出来た〈アビスの熊〉、さらについ先日〈天下一パイレーツ〉を下して新しくAランクギルド入りした〈天使の聖剣〉ですね」
「あれ? 〈獣王ガルタイガ〉は?」
「〈獣王ガルタイガ〉はエントリーしなかったみたいですよ。あそこはAランクギルドを維持したいという考えのようですし」
ラナの言葉にエステルが答える。
そう、今回Sランク戦に挑むギルドは6ギルド。勝者の席は1つ。
〈獣王ガルタイガ〉が今回参戦を見送ったことで、下馬評は凄まじく揺れ動いたそうだ。
「ゼフィルス、どこのギルドが勝つと思う?」
「そうだなぁ、〈獣王ガルタイガ〉が参加を見送ったところがヒントだな」
「え? なにそれ?」
ラナに問われて俺はニヤリと笑ってヒントを仄めかす。
実はもう、どこが優勝するか予想がついているのだ。イレギュラーがなければまず間違いなくあそこのギルドが勝つだろう。
ほとんどのところは最上級生が卒業してその強みが一時的に霞んでいる。〈サクセスブレーン〉なんか特にそうだろう。カイエン先輩抜きの〈サクセスブレーン〉がどこまでできるのかとか、正直全然分からない。
ラナも頭にハテナを浮かべていたのでもう少しヒントを出しながら答えていく。
「それじゃあ順番に並べていこう。まず半数のギルドがギルドマスターを交替している」
「ギルドマスターが変わってないのは〈筋肉は最強だ〉と〈氷の城塞〉、そして〈天使の聖剣〉ね」
「逆に世代交代したのは〈サクセスブレーン〉、〈集え・テイマーサモナー〉、〈アビスの熊〉です」
「世代交代というのは一時的にギルドが弱体化するからな。最上級生が卒業して1ヶ月半、この期間にどれだけ差を埋められたかが勝負だろう。そして、逆に予想がつきやすいとなればギルドマスターが変わっていないギルドだな。例えば〈氷の城塞〉、ここは〈筋肉は最強だ〉と相性が悪いから、近くに当たらなければ良いところまで残れるだろう」
「〈筋肉は最強だ〉は?」
「あそこはちょっと分からない。いつも予想を上回ってくるし」
あそこはイレギュラー過ぎるんだよ。とはいえだ。
「以前のSランク戦で〈筋肉は最強だ〉は〈氷の城塞〉と〈集え・テイマーサモナー〉のコンビに敗北している。複数のギルドが手を組めばあるいは、というところだろう」
こんな感じに1つ1つ戦力分析していけば、どこのギルドが勝つかが見えてくる。
「あとは、今回初参加の〈天使の聖剣〉。ここは飛翔が非常に強いギルドだが、Aランクギルドになったばかりでまだ実力が伴っていない」
「〈天下一パイレーツ〉を打ち破ってきたギルドね。【天使】職の全員が〈転職制度〉を受けたらしいから、2年生が主力という若い世代と聞くわね」
「ゼフィルス、例の鉄球は? まだ〈獣王ガルタイガ〉なの?」
「〈天使縛りの鎖鉄球〉な。一応あのあと返却してもらったが、今回は誰にも貸してない」
――〈天使縛りの鎖鉄球〉。
これは空を飛ぶことが可能な【天使】職を地面に落とすための特効アイテムだ。
〈SSランクギルドカップ〉では、空飛ぶ相手への対策に悩んだ〈獣王ガルタイガ〉から相談され、これを貸したところ、〈獣王ガルタイガ〉は対戦相手である〈天使の聖剣〉を見事に打ち破った。
だが、今回はどこからも相談されていないので渡していない。
とはいえ、他のAランクギルドには六段階目ツリー開放者がそこそこな人数居るのに対し、〈天使の聖剣〉だけは皆無。
〈城取り〉ではレベル差があっても〈天下一パイレーツ〉にしたように、やり方次第で勝つことも可能だが、対人戦がものを言う〈拠点落とし〉では、レベル差はダイレクトに響いてくる。特に今回は〈天使の聖剣〉が勝つ可能性は低い。
「さあ、ヒントはここまでだ。それじゃあここでどこが勝つかを予想するか!」
「ええー!? もうちょっと教えなさいよ!」
「それなら私は〈氷の城塞〉を支持するわ」
お、シエラは〈氷の城塞〉予想か。伯爵のよしみかな?
「うーん、私はどこにしようかしら? 大穴で〈アビスの熊〉もいいわよね!」
大穴だけに……!?
ラナが気付かずに上手いことを言っているが、なんとかスルーしていると、ついに試合時間となる。
カウントダウンが始まり、数字がゼロになると、〈学園春風大戦〉Sランク戦の部が開始された。




