#1833 〈エースシャングリラ〉14人ランクアップ!
Cランク戦が終わった翌日、次に見据えているのはBランク戦だ。
そのために、俺は〈エースシャングリラ〉のメンバーたちを集めてとある企画を発表していた。
「それではこれから、1年生みんなと、次期加入であるモニカのパーティ諸君を〈上級転職〉させたいと思います!」
「思います……。あれ? 思いますで〈上級転職〉ってできるものでしたっけ?」
「ユナ、ユナ、洗脳されてます! 普通はできないですって!」
ふふふ、良い反応をするじゃないか。
特に【姫侍】のユナと、【姫城主】のミアハ。
この2人は将来的に城に籠もって色々と画策する役目を持つので一緒に組むことが多かったのだが、かなり仲良くなっている様子だな。
ユナはもうすぐ〈エデン済〉になりそう、もうちょっと新鮮なリアクションを維持してほしいところだ。なんちゃって。
ミアハはツッコミが大変よろ……いや誰が洗脳だ!? とここは俺がツッコむべきか? ボケを内包するツッコミか。悪く無い。
ちなみにミアハはシエラと同じく金髪碧眼の姫カット女子だ。シエラに割と似ているのだが、シエラの妹では無い様子だ。ちなみにどこがとは言わないが一部がかなり大きく、ヴァンは何度もぶっ倒れているとここに記しておこう。せっかくの【城主】系の後輩ができたというのに全くヴァンは。
「ついにわしも【金剛王】か。……早いな」
「あ、サンダダさんでもそう思うんね?」
「当然だ。わしをなんだと思っておる」
「えっと、ヒゲ学生?」
「ミト、これは種族特性だ」
学生なのに立派な顎髭を持つサンダダ、いつも驚きを顔に出さないのだが、今回は別のようだ。真顔になっている。
そんなサンダダをからかってるのは【ホーリー】のネイミト。愛称はミト。
ヒーラーのため、タンクのサンダダとよく組んでいる女子だ。
オレンジ系のショートボブをしている細身の普通の女子。普通なのが割と清涼剤のようで〈エースシャングリラ〉の男子から人気がある様子だ。サンダダは知らんが。
「まだ覚職して2週間です。多分世界最速〈上級転職〉ですよフェンラ!」
「私はたまにクラが羨ましくなる時があります。特にそういう前向きな姿勢とか」
クラが目をキラキラさせている横ですまし顔をしているフェンラだが、内心ガクブルの様子だ。リーダーとして気を張っているから分かりづらいが、尻尾が下がっているのが見分けるコツである。
そんなフェンラに向かう1人の女子。
「フェンラ~。もふる~?」
「マルティ……。ではありがたく」
「もふ~♪」
彼女は「犬人」で【モフワン】に就いているマルテイナ。愛称でマルティと呼ばれている、元〈エデン店〉従業員組の1人だ。
黄緑色のとてもふわふわな髪と尻尾が自慢で、よくもふられている。むしろ自分からもふられに行っている子だ。とにかくちっちゃくて、元従業員組のマスコットでもある。
そんなマルティの髪をもふり、癒され、徐々に尻尾が立ち上がるフェンラが面白い。元気が出た様子だな。
ここに集まっているのはさっきも言ったとおり、〈エースシャングリラ〉の1年生全員に加え、モニカが連れてきてくれた【賊職】の4人も入っている。
そちらは次期〈エースシャングリラ〉加入メンバーということで、まだ加入はしていないものの、〈学園春風大戦〉まで日が無いために今日一緒に〈上級転職〉してもらおうという判断で来てもらっていた。総勢14名だ。
宣言したのち、ちょっと落ち着いたところを見計らって続きを告げていく。
「今日のアシスタントにはシエラ、リーナ、セレスタン、メルト、ミサト、シャロン、モニカに来てもらった。それぞれの担当をこれから発表するから、呼ばれたら先輩たちから最強育成論メモや〈上級転職〉に必要な物、それと説明を受けてもらいたい」
今日は人数が多いので、役割分担である。
いつも俺1人でみんなの〈上級転職〉を見てきたが、さすがに数が数だ。時間も差し迫っているので、アシスタントをしてくれるメンバーから最強育成論メモや〈宝玉〉や〈結晶〉などの〈上級転職〉に必要なものを、それぞれ受け取ってもらう方式にした。
なぜかシエラから特大のジト目を向けられたんだが……嬉しかったぜ。
モニカは【賊職】メンバー担当だが、もちろん初めてのことなので訳が分からないだろう。セレスタンをつけるので、〈エデン〉流〈上級転職〉術を身に着けていってほしい。
「ちなみにですが、〈上級転職チケット〉って」
そう手を上げて質問するユナに俺は1つ頷きみんなに視線を送る。
「もちろん用意してあるぜ、これが〈上級転職チケット〉、14枚だ!」
すると示し合わせたように〈エデン〉のみんなとモニカがペラリとそれを見せた。そう、〈上級転職チケット〉である。
じゃじゃじゃん!!
その光景にまたざわめきが生まれる。
「すごいです! あの〈上級転職チケット〉が、本当にこんなに!?」
「全員分あります!? 本当にみんな〈上級転職〉するのですか!」
「さ、さすが〈エデン〉でやがりますよね。〈リンゴとチケット交換屋〉には50回近くお世話になったでやがりますが、まだ平然とこんなに残してたでやがりますよ……」
モニカもなんか自分が手に持っている2枚のチケットを半眼で見つめているな。
ふっふっふ。〈エデン〉にはまだまだ〈上級転職チケット〉はいっぱいあるんだぜ。
とはいえ最上級ダンジョンでは〈上級転職チケット〉がドロップしなくなるため、現在減る一方なんだけどな。
あの過剰在庫、このまま全部捌けきってやるぜ! それはともかく。
「それじゃあ呼ぶぞ! シエラのところにはまずフェンラとクラ!」
「はい!」
「はいです!」
「よろしくね2人とも、まずはこのメモを読んでね」
最強育成論メモは以前から渡していたが、それはまだ下級職のものだったし、上級職バージョンは本人の希望を改めて聞いてからにしようと思っていたので渡していなかった。
今が渡すチャンスだろう。どの方向へ〈上級転職〉したいのか、こんな方法があるぜと読ませていったんだ。
14人を順番に割り振ると、希望を聞いていく。
「フェンラは決まったか?」
「はい! おすすめにあった【雷速空戦雷狼】に就きたいと思います!」
「よく決めてくれた! それはカルア並みの速度を誇る最速系職業だ。ギルドバトルで是非みんなを引っ張ってくれ!」
「頑張ります!」
元従業員組リーダーのフェンラが選んだのは、名前の通り雷速のように速く、さらにレグラムのように空も駆けることのできるようになる【雷速空戦雷狼】だ。ギルドバトルや対人戦で猛威を振るうぜ。
なにせカルアは斥候にもビルドを振っているが、こっちは純粋な戦闘力特化型なのでカルアよりも速いし強いまであるのだ。
上級職、高の中ではあるが、かなり強力な職業だな。
「クラは決めたか?」
「もーちろんです!」
そう、片手挙手する形でキリッと表情を引き締めるクラ。彼女にしては珍しい真剣な表情だった。口は△になってるが。
そして一拍溜めてから、クラは宣言する。
「私は――【暴食】希望です!」
「そう言ってくれてありがたい! クラのためにちゃーんと【暴食】専用装備―――〈悪食補吸拳〉を用意しておいたぞ! ――シエラ、渡してくれ」
「ええ。手に入れたのはルルやフィナたちだけどね。あとでお礼を言っておくといいわ」
「は、はいです! ルル先輩たちがこれを……!」
シエラを通して渡されたのは【暴食】の専用装備、〈悪食補吸拳〉。
中級上位のランク9、〈猛禽の渓谷ダンジョン〉のレアボスからドロップする武器で、名前の通り〈拳〉系の武器だ。この〈猛禽の渓谷ダンジョン〉は鳥系モンスターが主体のせいで、かなり人気の無いダンジョンのため、ルルやフィナが周回して取ってきてくれたのだ。
ルルに憧れているクラは、今まで見たことも無いほど輝いた顔でそれを受け取っていたよ。
ちなみに武器スキル『悪食』の効果はドレイン。〈攻撃したダメージの10%分回復する〉というかなりの良効果を持っているため、武器単体でも超強い。
【暴食】となって範囲攻撃を大量に覚えれば、集団戦で敵無しとなるだろう。
【大罪】職がこれでモニカも合わせれば6人に! ふはは!
「私も選びました! これです! 【モフモフ選手権世界一】になります!」
「おお!? マルティがしゃっきりしてるー!?」
さっきまでのマスコットキャラ全開みたいな癒し姿から一転、マルティは真剣な表情で1枚の最強育成論メモを掲げていた。担当のミサトが「たは!」って言ってるな。どういう意味か分からないんだぜ。
シエラにあとを任せて俺もそちらへ向かう。
「マルティはヒーラーだからな。俺も是非【モフモフ選手権世界一】に就いてほしいと思っていたんだ!」
「あ、ご主人!」
「ゼフィルス君!」
「よう。順調のようだなミサト」
ミサトのところは「犬人」のマルティと「兎人」の女子を担当だ。
兎人同士ということでそっちに集中してもらい、マルティから話を聞く。
ちなみにマルティは俺のことをご主人と呼ぶ。多分〈エデン店〉のオーナー的ポジションだからだろうな。
「ご主人、もふる~?」
「……とても魅力的な提案だが、先にそっちをやろうかな」
思わず「もふる!」と答えそうになるが、『直感』さんが「やめとけ、死ぬ気か?」と囁いてくるので俺はグッと我慢してミサトの方へ向いて頷く。
ミサトがすでに最強育成論メモについて説明していたため、俺がするのは発現条件をなんとかすることだけだ。
【モフワン】の上級職、高の中【モフモフ選手権世界一】はテイマーとヒーラーが合わさったような職業だ。
ブリーダーも可能でテイマーとして活動できるほか、そのテイムモンスターで味方を『もふもふ回復』するスキルを所持している。
つまり、テイムモンスターが常に回復してくれる環境で戦闘ができるのだ。
カグヤのカンザシに近いな。あれのテイム版だ。なにそれ強くない!? である。
もちろんモンスターに騎乗したまま動き回ることも可能だ。
ヒーラーにとってとても欲する機動力を備えた群型のヒーラー、それが【モフモフ選手権世界一】だ。
俺もマルティには是非こっち方向にいってほしかったので大変助かる。
ということで、俺はマルティの発現条件を満たしたのだった。




