#1828 1年生超爆速攻略術!〈公式裏技戦術ボス周回〉
〈エースシャングリラ〉は現在Dランクギルドだ。
Cランクギルドに上がるには、Cランク戦を仕掛ける必要がある。
だが、それには足りないものが多すぎるな。
ということで入学式から2日後、〈エースシャングリラ〉の1年生たちには、今日から〈エデン〉の秘伝を伝授することにした。
「ゼフィルス先輩、本当にやるんですか?」
「大丈夫だよフェンラ、私がいるもん!」
「いえ、クラも初めてでしょうに」
フェンラがやや恐る恐るという感じで俺に確認を取るが、間に割り込んだクラが胸を叩きながら自信満々に返していた。その自信はどこから来るのかとフェンラは困惑を隠せない様子だ。
「安心しろフェンラ、ちょっと怖いかもしれないが、これも慣れだ。ボス戦は慣れが肝心。何度もやっていれば慣れる。むしろ慣れるまでやってもらう予定だからな」
「全然安心材料がないのですが?」
そう、これからフェンラたちにやってもらうのは、ボス戦。
昨日初心者ダンジョンを攻略し、周回してLV10になった1年生たちを、懐かしき〈熱帯の森林ダンジョン〉の最奥に連れてきていた。
さすがにこの時期に1年生でここに来ている人はおらず、俺たちの貸し切り状態だ。
「それであれが噂のボスですね! あの〈エデン〉の先輩方を困惑させたという伝説のボス、〈クマアリクイ〉!」
「〈クマアリクイ〉がいつの間にか伝説扱いになってる!? 確かに困惑していたけどな」
クラがシャキンと可愛い構えで臨戦態勢を取る。
そう、クラがボス部屋を見ながら告げた相手こそ、最初のボス。
みんなもお馴染みの〈クマアリクイ〉だ! まさか伝説になっているとは思わなかったんだぜ。
「えっと、それであれはクマなんですか? アリクイなんですか?」
「動きはクマっぽいけど、あれはアリクイだよフェンラ!」
「俺より先にクラが答えた、だと?」
「えへへ、実は先輩方から何度も聞かされてたんです」
「ぬ、抜け駆けだ!」
俺が教える前に誰かがクラに教えてしまったらしい。誰だそんなことをしたのは!
まあいい。お馴染みのクマなの? アリクイなの? の道は通った。
〈エデン〉のみんなも通った道だ。きっとこの子たちも化けるに違いないな。
「みんなも同じ道を通ったからな。フェンラ、ナイス疑問。その調子で頼む」
「どうしましょうクラ、私何を頼まれたのか分かりませんでした」
「よーし、まずはボスを倒してみるよー!」
クラはマイペースだ。
軽く抱きつくフェンラを促し、パーティごとにボスへチャレンジする。
まずはボスを相手に怖がらないことが重要だ。
クラやフェンラのパーティが中に入ると、早速〈クマアリクイ〉がタゲを向けてくる。
「まずはタンクがヘイトを稼ぐのよ。大丈夫、ボスといっても最弱のボスよ。十分受け止められるわ」
「助言、ありがたくいただきますぞい」
シエラが【武装鋼ドワーフ】のドワーフ男子、サンダダに指示を出しているな。
【武装鋼ドワーフ】といえばナキキが下級職の時に就いていた職業だ。
ナキキはその後【破壊王】の道へ進んだが、このサンダダには【金剛王】へ進んでほしい。本人の希望でもあるしな!
「ぬ!?」
タンクが攻撃を受け止めるが、スキルの発動タイミングをミスり、バランスを崩して尻餅をついてしまったな。ダウンだ。
「ダウンして無防備なタンクが狙われるぞ! フォローして全力攻撃だ!」
「森のクマさんぱーんち!!」
「ガアアッ!?」
「斬らせていただきます!」
フォローにクラとユナが攻撃。
まだ〈初ツリ〉しか開放されていないので、アクティブスキルは覚えていない。
通常攻撃だな。しかし、最初は通常攻撃で十分だ。
ユナはまだ下級職の【姫侍】なので、今は一刀流でアタッカーを務めている。
サンダダはダウン状態で1発喰らってしまったが、「犬人」のヒーラー【モフワン】が『もふもふ回復』で回復したので問題無し。ダウンから復帰し、そのまま〈クマアリクイ〉をなんとか撃破するまで立ち続けた。
「勝ったわね」
「ああ、多少のトラブルは〈クマアリクイ〉戦で誰もが通る道だな。シエラは通らなかったが」
「それを言うのならあなたもでしょ? ハンナに聞いてるわよ?」
そんなことないぞ? 初めてのボス戦はなんだかんだ緊張したしな。
初勝利にみんなとハイタッチするクラと、ボス戦を振り返って色々反省点を復習するリーダーのフェンラ。いいな。
2年前を思い出すぜ。
「初の宝箱も〈銀箱〉。これもみんなが通る道だな」
「それは違うのではないかしら?」
〈銀箱〉、これは〈幸猫様〉の恩恵入っている?
実は2つ目の下部組織でも〈仔猫様〉が発動し、フェンラたちにはすでに『超幸運』スキルが付いていたりする。
人よりもかなりドロップ率が良いはずなのだ。その証拠に中身も良いのが入っている予感がする。まずはお祈りの仕方を伝授しないと!
「さあ、初の宝箱だ! みんなで祈ろうじゃないか!」
「はい!」
「これが本場のお祈りだね!」
「ああ〈幸猫様〉〈仔猫様〉〈愛猫様〉! いつもありがとうございます! どうか宝箱の中身も良いものをお願いいたします!」
「「「「「良いものをお願いいたします!」」」」」
「えっと??」
俺が宝箱の前までやって来てお祈りを捧げると、〈エデン店〉組も一緒になってお祈りを捧げていた。クラのセリフから察するに、〈エデン〉流のお祈り作法は〈エデン店〉組に知れ渡っていたようだ。
逆に他から来た4人はちょっとついて来れていない。
一緒に来たシエラにアイコンタクトを飛ばしてお願いする。
「はぁ。みんな説明するわね」
少しため息を吐いていた気がしないでもないが、きっと気のせいだろう。
シエラがお祈りの作法を伝授してくれたんだ。
「それじゃあもう一度お祈りするぞ!」
「「「「「おお!」」」」」
「ああ〈幸猫様〉〈仔猫様〉〈愛猫様〉! いつもありがとうございます! どうか宝箱の中身も良いものをお願いいたします!」
「「「「「ああ〈幸猫様〉〈仔猫様〉〈愛猫様〉! いつもありがとうございます! どうか宝箱の中身も良いものをお願いいたします!」」」」」
みんなの心が1つになった!
これで〈幸猫様〉たちにお祈りが届いたに違いない!
「…………」
お祈りをしている最中、ジトッとした目で俺を見るシエラに気を取られないようにするのが大変だったんだぜ。
「今だフェンラ!」
「はい!」
今回はリーダーのフェンラが開ける。
中に入っていたのは――〈『ゲスト』の腕輪〉だった。
「〈金箱〉よりも価値の高い〈銀箱〉産装備キターーーーーー!!」
「落ち着きなさいゼフィルス、後輩が見ているわよ」
「はっ!? ――こほん、みんな、これは素晴らしいアイテムだ。良いのが当たったな」(キリッ)
危なかった。
宝箱に入っていたのは、初級下位で〈金箱〉〈銀箱〉を通し、一番の大当たりと呼ばれていた〈『ゲスト』の腕輪〉だったのだ。
まさに〈幸猫様〉たちの恩恵に違いない!
危うくテンションが振り切れかけたが、なんとかシエラの言葉で戻って来られたんだぜ!
1年生たちがポカンとしながら注目してきている気がするが、きっと気のせいに違いない。(キリッ)
「みんな、あまり気にしないで大丈夫よ」
「はい。分かりました」
「〈エデン店〉組は慣れていそうで安心したわ」
「時々見ますから。ゼフィルス先輩の〈幸猫様〉愛」
〈エデン店〉組の俺への理解が思いのほか深い気がする。
他の4人はついてくるのがやっとの様子だ。
こほん、そろそろ2戦目に移ろうか。
むしろここからが本番だな。
「よーし、これから〈エデン〉の伝家の宝刀、〈公式裏技戦術ボス周回〉を伝授する!」
「え?」
これは極秘中の極秘だったので〈エデン店〉組もポカンとしていたよ。
シエラが説得し、誰にも言ってはいけないと説明した上で、ボスをリポップ。
その時の新メンバーたちの顔は、とっても驚愕のリアクションだったんだ。
「な、ボスが復活した!?」
「凄いです! これならいくらでもボスを倒すことができますよ!」
「その通りだ! これよりみんなにはたくさんボス戦をしてもらい、ボスに慣れると同時にたくさんの経験値を得てレベルアップもしていってもらいたい!」
これも、〈エデン〉のみんなが通る道だ。
こうして今日のうちに1年生たちはLV15へ。
ボス戦にも慣れてしまったのだった。
この調子で2日で初級下位の3つのダンジョンを攻略。
続いて初級中位へと挑む。
これも2日で攻略し、初級上位へ。この辺から2年生が最奥に居始めたので、攻略者の証だけ取ったらレベリングは〈道場〉を利用した。
そんな感じでステップアップしながらさらに1週間後、1年生たちは中級上位を攻略中だったんだ。
そして〈学園春風大戦〉を週末に控えた4月19日、日曜日。
この日、1年生たちはLV75に届いていた。




