#1815 ゼフィルスの頭の中で計画がどんどん進んでく
「1ヶ月でAランクギルドへ……?」
俺のキメ顔の呟きに、リーナが動揺した声を上げた。
だが、それも束の間、シエラが一蹴する。
「それは無理よゼフィルス。多分、身体がついてこないわ」
「なぬ?」
身体がついてこない。
予想外なことを言われて少し固まる俺、そして改めて計画を見返してみた。
Aランクギルドに上がるために必要なのはなにか?
つまりはBランクギルドになり、防衛実績を3回を得ること。
だが、防衛実績は1回ごとに1ヶ月のインターバルが掛かるため時間が掛かる。
しかし、〈学園春風大戦〉では、その防衛実績がないギルドでも出場出来るため、一足飛びでAランクギルドになれるのだ。狙うしかない。
だが、そのためにはBランクギルドになる必要がある。
Bランク戦に必要なのはCランクギルドになり防衛実績1回を得ること。
これは、まあそんなに難しくは無い。防衛実績というところがネックだが、〈学園春風大戦〉が目前に迫っているのだ。ランク戦を仕掛けてくる者は多いはず。
問題はランク戦を仕掛けることのできる、インターバル中じゃないギルドがあるか否かというところだが、まあこれは奥の手もあるし大丈夫だろう。
はて、いけると思うが?
そんな視線をシエラに投げてみると。シエラが首を横に振って俺の認識を改めてきた。
「まず1つ、新しい下部組織には〈エデン〉のメンバーを在籍させることはできても、ランク戦に参加はできないわ」
「ふむ」
2つ目の下部組織を創立するうえで、学園からいくつかルールを賜った。その1つがこれだ。
ギルドの運営のために人員を送ることはできても、ランク戦には参加することはできないというルールだ。それはそうだろう。SSランクギルドに在籍できるような学園の頂点が、Cランク戦やBランク戦なんかしたら、ハチャメチャなことになってしまう。ランクの上昇も思いのままだ。これはいけない。
なにせ、SSランクギルドの〈エデン〉がランク不動なのだ。
その気になれば、〈エデン〉のメンバーを全員2つ目の下部組織に送ってFランクギルドからまたランクアップを楽しむ。なんてことも可能になってしまう。故の措置だな。
現在、〈エデン〉のメンバーはランク戦に参加させてはいけない。
つまり新しくメンバーに加えた学生じゃないとランク戦はしてはいけないルールだ。
「新しいメンバーの育成が追いつかないという心配は〈エンテレ〉のおかげで解消できるが、シエラは身体がついてこないって言ったんだっけ? ――あ、そういうことか!」
「やっと思い出したのね」
「急激なレベルアップは身体の調子がかなり変わるもんな。確かに、その可能性があったか」
要はステータスの急激な上昇は身体の感覚を狂わせるっていうあれだ。
STRを一気にあげまくった影響で軽く掴んだつもりでドアノブをグシャってやるやつ。特にAGIなんか顕著で、ちょっとダッシュしたら速すぎて樹にぶつかっちゃったとか普通にあるのだ。
〈エデン〉でも時折あったなぁと今更になって思い出す。
少し前に育成し直したフィリス先生も、最初はステータスが大きく弱体化したことに慣れていなかったからな。とはいえ、一度は経験した道、すぐに慣れていたが。
新1年生ともなると、もちろん経験したことのない領域だ。すぐにステータスに慣れて、スキルを使いこなすのは難しいだろう。俺たちだってたくさんのモンスター撃破経験があったからこそ、すぐにステータスに馴染むことができたのだ。
「シエラの言い分は分かった。つまり、新1年生だけではAランクギルドになるのは心許ない、ということだな」
「…………そう、なるわね」
シエラの言いたいことに俺はうむと頷く。
新1年生のみのギルドではダメそうだ。
せめて新1年生が身体に慣れるまで、表立ってランク戦でCランクやBランクまでランクを上げてくれる。そんな新2年生が欲しい。
シエラはそう言っているのだ!(言ってません)
「方針は見えたな。――セレスタン!」
「ここに」
「すぐにミサトをここへ! 有望な新2年生をスカウトしにいくぞ!」
「畏まりました」
「おかしいわ。無茶だからやめようと言ったつもりだったのだけど……」
「こうなったゼフィルスさんは止まりませんものね。この調子なら、本当に1ヶ月後には〈エデン〉の下部組織がAランクギルドになっているかもしれませんわ」
◇
「たは! 呼ばれて参上、久しぶりのスカウトに胸をわくわくさせているミサトでーす!」
「よく来てくれたミサト! ではこれより、ギルド〈エースシャングリラ〉創立のための初代ギルドメンバーをスカウトしたいと思う!」
「ちょっと待ってゼフィルス。〈エースシャングリラ〉ってなに?」
「新しく発足する〈エデン〉第二下部組織の名前だ!」
―――〈シャングリラ〉。
それは理想郷であり桃源郷。楽園を意味する〈エデン〉や理想郷を意味する〈アルカディア〉とほとんど同じ意味だ。つまりは兄弟姉妹であるという意味になる。
そこに次代のギルドの〈エース〉を在籍させるという意味を込め、〈エースシャングリラ〉と名付けたのだ! そう説明する。
「ゼフィルスさんの頭の中ではどんどん話が進んでいますのね」
「〈エースシャングリラ〉! いいじゃん、いいじゃん! 私は気に入ったよ!!」
「ありがとうミサト! ――どうだシエラ、良い名前だと思わないか?」
「……確かに良い名前だわ。〈アークアルカディア〉にも名前の雰囲気が似ていて〈エデン〉の第二下部組織だと、しっかり表せているのもいいわね。でもその名前、私も今初めて聞いたのだけど?」
「それは――ははははは!」
「笑って誤魔化そうとしてもダメなんだからね?」
でも結局優しいシエラは「今度からは相談してよ?」と言うだけでそれ以上言うことは無かったんだ。
次かぁ。次もあるかな?
「さぁて、では記念すべき名前も決まったところで、〈エースシャングリラ〉の新しいメンバーを募集したいと思う! できれば後輩の新2年生で! ミサト、誰かおすすめはいないか!?」
「おすすめかぁ~。それなら色々いるよ、例えばとある双子の子爵姉弟が良い感じなんだぁ。今年ギルドも解散したはずだし、誘ってみるのは良いと思うんだよ」
「なにその話詳しく!」
「ゼフィルス君覚えてる? 去年の入学式で【ヒーロー】と【魔法幼女】に就いてた子だよ~」
「!! それならすっごく覚えている!!」
【ヒーロー】に【魔法幼女】!
両方とも「子爵」の下級職、高の中ではあるものの、とても優秀な職業だった。
しかも現在フリー!? それは是非声を掛けねばならない!!
さすがはミサト、俺が欲しかったのは、まさにそういう情報なんだ!
「それじゃ声を掛けておくね。というか、〈エデン〉の第三回大面接を待ってたみたいだし。〈エデン〉の下部組織でやっていく気は満々みたいなんだよ」
「おっと、そうだった。その話もしないとな! 学園で噂になっている〈エデン〉第三回大面接! なぜ噂になっているのかはともかく、やらない手は無いぜ! 募集は〈エースシャングリラ〉になるけどな!」
「おお! それは朗報だー! すぐに準備しちゃうよ!」
「……? リーナ、私が聞いた話では、〈エデン〉の大面接募集を待っている人たちが膨れすぎて大変なことになりそうだから、その目を逸らすために〈学園春風大戦〉の開催が宣言された、のではなかったかしら?」
「ですわ。多くのギルドが解散してフリーの人が多いですから。さっさと他のギルドに入らないと〈学園春風大戦〉には参加出来ませんわよという流れを作るためだったのではないかと思いますわ」
「……逆効果になってないかしら?」
「逆に脱退者が大量に出そうな雰囲気ですわね」
そんな2人の呟きが聞こえた気がしたが、俺はミサトと計画を練るのに夢中ですぐに反対の耳からするっと通り過ぎていってしまったのだった。




