#1814 噂が広まって大打撃?ゼフィルスまた何か企む
あの〈エデン〉が新しい下部組織を作るらしい。
その噂は、またも瞬く間に学園中に広まった。
しかもその下部組織が超特殊であり、Sランクギルドにまで成長出来ると知って学園の狙いに気付いた者も多く、多くのギルドが動揺を顕わにした。
「私、新しくギルドマスターを引き継いだばかりだけど、〈エデン〉の面接に合格したら抜けていい?」
「いいわけないでしょこのギルドマスター! 大丈夫任せて、〈エデン〉の面接には私が行ってくるから!」
「あなたじゃ無理よ。出直してきなさい」
「なにおう!?」
各地でこんな小規模な競争が発生。
取らぬ狸の皮算用だが、もし本当に〈エデン〉に採用されたら、元居たギルドが空中分解しかねない! そんなところが多数発生していたのだ。
まだ大面接も発表されていないのに、これはいけない。
ここで〈エデン〉が新しい下部組織の創立と、大面接を行なったら何か大変な事態になりそうでならなかった。
しかし、学園にとってはこの程度想定内。
〈エデン〉にそんな権限を与えたら、学園中の学生が目を据わらせて集まることは明らかだった。
故にここで学生たちの意識を分断する。
「学園長、日に日に〈エデン〉の下部組織面接の希望者が増えてきております」
「頃合いじゃの、今年の〈学園春風大戦〉の開催を宣言、布告するのじゃ! 〈エデン〉にも話を合わせるよう通達も忘れないようにの!」
「了解しました!」
今日の学園長は安心安全。
しっかり意識を保って、学園行事、大イベントの開催を宣言した。
報告してきた研究所所長のミストンも「学園長の顔色がよろしい。きっと新しく配置されたお医者様がよくしてくださっているのだろう」と思いにっこり。
学園長の後ろでは、どこか退屈そうなクールメイドのコレットと、何かのお茶に挑戦するシトラス先生の姿があった。
なお、学園長の顔色が大変良いのは、この2週間、ゼフィルスが諸々の厄介ごとを片付けていて大人しかったためである。ここ1週間ほどは蘇生茶の出番もなく、コレットは退屈そうにしていることに学園長も気付いていた、が敢えてスルーしている。
それはともかく大イベントの開催だ。
―――〈学園春風大戦〉。
これは空席となったギルドの穴埋め。
卒業により、いくつものギルドが解散するこの時期に、解散して空席になってしまったギルドランクへどこのギルドが入り込むのか、それを争う大戦を行なうというのが〈学園春風大戦〉だ。
今度はどこから新たな風が舞い込むのか、学園長もとても楽しみにしていた。
そして、ギルド〈エデン〉のあるかどうかも分からない下部組織の面接、そのカモフラージュも兼ねている。つまり、目を逸らしてないで前を見よ。目の前に新たな学園イベントが迫っておるぞ、と学生の目を覚まさせる狙いだ。
学生の溜まりに溜まったやる気を、是非〈学園春風大戦〉で発散してほしい。
また学園は忙しくなるだろう。
◇
「〈学園春風大戦〉の開催決定だとーーーー!!」
その連絡は真っ先に〈エデン〉に伝えられた。
そして連絡を見て、シャウトしたのはもちろん俺だ。
「〈学園春風大戦〉の開催ですか、今回もSランクギルドに空席ができましたからね。みなさん、とてもやる気のようです」
セレスタンの言葉に俺も何度も頷く。
もちろんその空席は〈エデン〉が居た席のことだ。〈エデン〉はSSランクギルドに昇格したためできた空席だな。
だが、俺はとても悲しいことに気付いていた。
「セレスタン! 〈エデン〉の参加は!?」
「〈エデン〉はSSランクギルドですから、出場権はありません」
「そこをなんとか!」
「この前〈エデン〉はランク戦には出場できないって納得してたじゃないの」
「シエラ!」
〈エデン〉はSSランクギルド。
通常のランク戦は挑まれない。
でも大会はまた別だろう!? 俺も大会に出たい!
そう、何とかならないかとセレスタンに訴えたら、シエラからジト目をもらった。
こんな時だが、――ひゃっほー! っは! そうじゃなかった!
「セレスタン! 〈学園春風大戦〉の優勝ギルドとSSランクギルドが夢のエキシビションマッチをする、というのはどうだ! 〈エデン〉はギルドバトルが出来てWin! 相手も〈エデン〉とギルドバトルができてWin!(?)」
「相手からしたら全然Winじゃないじゃないの。優勝するのはAランクギルドよ?」
セレスタンに振ったらシエラがジト目で答えてくれた。
〈学園春風大戦〉はSランクギルドの空席やAランクギルドの空席を賭けて戦うギルドバトル。Sランクギルドの席を狙うのは、もちろんAランクギルドだ。
AランクギルドがSSランクギルドとエキシビションマッチ! ちょっと苦しいか?
「付け加えますと、SSランクギルドは学園最強の象徴です。万が一にも負けてほしくないため、公式試合の出場はあまり学園も乗り気ではないでしょう」
「なんと!」
思い出すのはラナの兄、ユーリ先輩が所属していた〈キングアブソリュート〉。
王太子であるユーリ先輩が敗北するなんてあってはいけないため、〈キングアブソリュート〉よりも強そうな〈ギルバドヨッシャー〉とはギルドバトルさせてもらえなかったという。
今の〈エデン〉もそんな感じとのこと。俺は負けないぞ!
「〈エデン〉が新しいギルドに胸を貸す、という感じでどうか1つ!」
「一応申請だけはしてみます」
「きっと〈エデン〉はおとなしく高みの見物をしていてね、的なことを言われるでしょうね」
言外に、期待しないでねとセレスタンとリーナに言われたに等しい。
なんてこった!
ちなみに現在のギルドランクの空席は、この前の〈SSランクギルドカップ〉で〈エデン〉が昇格したためSランクギルドが1席、そして主要メンバーの卒業によって〈ミーティア〉が解散、〈世界の熊〉と〈カオスアビス〉が合併したためAランクギルドは2席空いている。
Bランクギルドになると5席、Cランクギルドは59席のギルドが解散、合併していて空席になっていた。
なぜCランクギルドがやけに多いのかというと、卒業した最上級生たちがメインを務めるギルドが多かったからだな。最上級生ともなると、Cランクギルドくらいには上がれる者が多い、ということだ。
また、この前の〈SSランクギルドカップ〉の反動も大きい様子だ。
「とても楽しみな〈学園春風大戦〉に、〈エデン〉は出場出来ないなんて……」
「去年出場したじゃないの。それよりも、今は下部組織に集中しましょう? 噂が広まりすぎて連日問い合わせが来ているわ」
「そうだった! 新1年生を中心に決めようって話だったよな!」
〈学園春風大戦〉の話に色々持っていかれたが、俺たちは新しい下部組織について話していたのだ。
だが、どこから漏れたのか、〈エデン〉の面接を待ちわびる在校生が多く、身動きが取りにくくなっていた。学園の援護射撃には感謝だな。これで在校生の気が逸れる。話を進めるには今しかない。
「それではゼフィルスさん、当初の通り進めてよろしいのですわね?」
「ああ。新1年生の加入を中心にしよう。俺たちは最上級生が多すぎる。来年を見越し、次代のメンバーを育成するんだ」
このままだと、来年俺たちが卒業を迎えたときに、〈エデン〉は戦闘メンバーが30人残らない。まさに解散の危機だ。
ゼルレカやアリスなどを路頭に迷わせるわけにはいかない。
今回、第二の下部組織という良い機会を手に入れたので、次代の〈エデン〉を担うメンバーを揃えたいところ。
当然入れるのは新1年生、もしくは新2年生が中心になる。そして。
「そうだ。セレスタン、〈学園春風大戦〉の日時は?」
「今年は2週間後ろにズラし、4月24日金曜日に行なうとのことです。去年は入学式から僅か4日後、在校生の進級から3日後、そして留学生の来る前日の日という、ハードスケジュールの日のど真ん中に行なったことで先生方から懇願されたため、とのことです」
「4月24日。なるほど、それはいいな」
「ゼフィルスさん?」
「ああ、この顔、また何か企んでいる顔だわ」
失敬な。俺がそんな顔をしていたというのかね? なんちゃって。
シエラの予想はまさに大正解。さすがはシエラだ。俺のことを、よく分かっている。
「こっちには〈エンテレ〉があるからな。〈学園春風大戦〉を上手く使えばBランク、いや、ひょっとすれば一気にAランクギルドまで上がれるかもしれないぞ」
それは、下部組織を創立から僅か1ヶ月でAランクギルドにする計画だった。




