#1807 到着90層! 最後のボスは、みんなお馴染み!?
「この見覚えのある救済場所。ついに、ここまで来てしまったのね」
「やはり90層が最奥で間違い無かったな。もし100層とかだったら間に合わないところだったぜ」
その日の夕方、俺たちはついに最奥。
〈新世の樹界ダンジョン〉の90層に到着していた。
そこは今までと同じ、1層まるごとモンスターの出ない救済場所である。
だが、そこには今までとは違うものがあった。
「ん? 最奥ボスの門が、無い?」
「その代わりにあるのが、これというわけか」
カルアとリカがそれを見て、否、見上げながら言う。
俺たちの目の前には見慣れた最奥ボスの門ではなく、30層、60層の時にも見た、レイドボス戦ボスフィールドへと通じる巨大な門が建っていたのである。
「レイドボスの門ね」
「今までの30層ごとにレイドボスが待ち構えているのを見るに、ここはレイドボスで間違い無いですわね」
「うん。『危機感知』なんかも反応してるよ!」
「ん。『直感』もレイドボスだって言ってる」
「あ、俺も俺も」
シエラ、リーナが門を見て感想を述べ、カイリとカルアがスキルによる反応を伝えてくる。え? カルアの『直感』さんも反応してるの? 俺のしてないんだけど……。なのでカルアに便乗しておいた。シエラがジト目で見てきたような気がしたが、残念ながら気のせいで辛い。
「こほん! みんなも察していると思うが、おそらくここが最奥、〈樹界ダン〉最後のボスだ! このボスを撃破すれば、〈樹界ダン〉を攻略出来るだろう!」
まずは宣言。
俺は知っているけれど、みんなは本当にここが最奥か自信が持てなさそうだったので説明も兼ねている。
なにせ、最奥ボスの門が無いんだもん。代わりに10と書かれたレイドボスの門がある。
これはつまり、最上級ダンジョンを攻略したければレイドボスを倒せ、というわけなのだ。
さすがはレイド前提のダンジョンだ。攻略者の証が欲しければ、ギルドでたくさんのキャラを育てなくてはいけないのだ。
「大丈夫だ! 俺たちはこの道中でレイドボスを倒してきた。連型、大型、それも〈竜笛〉を使って何戦も周回した! そしてその全てに勝利した! 俺たちはこれからこのレイドボスへと挑み、攻略者の証を勝ち取り、胸に着けて帰還する!! クイナダへの盛大な思い出を残してやろうぜ!!!!」
「やっぱり挑む気、というか勝って攻略者の証ゲットする気満々だよゼフィルス先輩!?」
「最上級ダンジョンがオープンから1週間で攻略されちゃうですの!?」
「やっぱり……! 本当に私が帰還する時のお土産にする気だよ……!」
「最初は冗談か本気か分からなかったけど、ゼフィルス先輩マジで有言実行する気だぞ!?」
カグヤ、サーシャ、クイナダ、ゼルレカが驚きと共にツッコんでくる。
さすがはツッコミ役の後輩たち。素晴らしい、素晴らしいぞ! 良いツッコミじゃないか。
俺は気分が良くなった。
成功した暁には――ふはは!
こりゃ、絶対に有言実行しなくちゃいけなくなったな。
「これから料理アイテムでバフするぞ! そして、最後のレイドボスのドロップを手土産に――じゃなかった。レイドボスに打ち勝つんだーーーー!!」
途中少し口が滑ったものの気にした人は居なかったようでセーフ。
早速セレスタンやシズがテーブルと椅子を出して場をセッティングしてくれて、料理アイテムの食事会となった。
「こちら、最上級ダンジョンレイドボス、〈フェアリークイーン〉でドロップしたティーレシピから作った〈最上級妖精の蜜入り紅茶〉です。どうぞ」
「ありがとうセレスタン!」
そう、レイドボスがドロップするのはなにも装備レシピだけではない。
ティーのレジェンドレシピまで落とすのだ。素晴らしい。
なお、〈邪悪寄生花・ネネネネネルジュガン〉からもドロップしているが、そっちはスルー。あれ、マイナス効果あるし。その分プラス効果も強いけどさ。
ごくりと蜜入り紅茶を飲む。
その味は極上。
まさに天上の味だ。香りが引き立つどころか勝手に鼻の奥まで蹂躙してくるヤバさ。一口ずつゆっくりと飲もうとしてもティーさんがそれを許さず、思わず一気飲み。気が付けばティーカップが空になっているという、とんでもないティーアイテムだったんだ。
でも不思議と口の中を火傷していない。
〈火傷〉を消す効果もあるみたいだ。なんだろうねこのティーさん。
「だが、バフは相変わらず強力だな!」
STRとINTが1時間だけ5割増し。5割増しである。何それやべぇ。
まあ、STRとINTなんて両方育てている人は少ないので飲む人を選ぶのだが、俺にとってはまさに福音だ。さらにスキル、『状態異常耐性』系も各種付与されているとんでもないティーである。『火傷耐性』がLV10なのは気にしないようにしないとな。
「よし、みんな準備出来たな?」
「「「「「うん!」」」」」
「よし、なら――出発だ! いくぞ〈樹界ダン〉最後のレイドボス戦へ!」
「「「「「おおー!!」」」」」
「「「いってらっしゃーい」」」
料理アイテムでバフを付与したら出発だ。
全員一丸となってレイドボス門を潜る。
モナたちの見送りに手を振って答えながら、俺たち49人は、最後のレイドボスフィールドに入っていった。
そして、そこには俺が会いたくて仕方がなかったボスが居た。
「あ!」
ラナが良い感じの声を上げるのが聞こえた。
『看破』をする前にそのモンスターのことが分かったからに違いない。
分かった? 最上級ダンジョン最奥のレイドボスを?
初めて会ったはずのレイドボス、俺以外その存在を知らないはずのレイドボス。
だが、ラナだけじゃない。みんながその存在を知っていた。
進化を重ね、すでに全長は30メートルを超えてしまった、ちょっと成長しすぎなそのボス。
俺たちがボス周回で、おそらく一番狩ったであろうそのボス。
その正体は―――〈バトルウルフ〉。
そう、初級中位ダンジョンから登場し、ゲーム〈ダン活〉のパッケージに載る1体としても人気を博しているモンスター。
そのレイドボス形態。その名も。
「『看破』! 出ました。あれの名は――〈バトルウルフ(最終形態)〉です! レイドボス・大型!」
「バルフじゃないの!!」
お馴染み深~い!!
すでにあだ名まで付けられているボスモンスター!
そう、〈樹界ダン〉は〈ウルフ〉系が登場するダンジョンだ。
ならば、そのボスにも〈ウルフ〉系が登場して然るべき。
初級、中級、上級で登場した〈ウルフ〉系も、ついに最上級で最終形態。
体色は黒く、なにより目を引くのはその頭の数。首は5つもあって横並びし、ケルベロスを超えたとんでもない〈ウルフ〉に変わっていた。
進化する度に首が増えるのはなぜなのかは未だ分かっていない。
「「「「「ウォーーーーーン!」」」」」
「来るぞ! シエラ、シャロン!」
「任せて――『四聖操盾』! 『シールド・テラ・クワトロ』!」
「うん! 『オリハルシステム排除ゴーレム召喚』!」
初手、いきなりの〈バルフ〉突撃。
30メートルの巨体の突然の突進に素早くシエラとシャロンがスキルを使って防御する。
「パーティごとに散開! 急いで側面に回り込め!」
「ええ!?」
そこでズドンと衝撃。
シエラの4つの巨大な小盾と、シャロンのオリハルコンゴーレムが〈バルフ〉とぶつかり合う。
結果、オリハルコンゴーレムが打ち倒された。
「「「「「ウォーーーーーン!!」」」」」
「! させないわ――『クイーンオブカバー』!」
続いてブレス。
〈バルフ〉の口から〈聖属性〉以外の5属性のブレスが放たれる。
瞬間、シエラが盾を飛ばしてカバーした。
シエラの小盾は4つ。だが、〈バルフ〉の首は5つあった。
「1つ抜けたわ!」
「私に任せて――『ガブリエル大加護結界』!」
ズドドドドドーン!
シエラの4つの小盾が4つのブレスを防ぎ、最後の1つはトモヨによってかき消された。
「首が5つあるというのは、厄介ね」
シエラのセリフが〈バルフ〉の力を物語る。
そう、〈バルフ〉のブレスは、シエラの小盾だけではもはや防げない領域になっていた。




