#1782 みんなで索敵、新世界を隅々まで調べ上げろ!
〈新世の樹界ダンジョン〉は正しく新世界であり、ダンジョンだ。
樹に覆われ、樹しかない世界。
いや〈ウルフ〉は出てくるけど、まあモンスター以外は樹しかない世界だ。
あ、池や滝はあるな……。
うん、まあそんな感じのダンジョンだ!
「凄いダンジョンですわねここは、本当に樹と水しかありませんわ」
「地面が樹に隠れているというか、むしろ地面が樹って言うか」
「まるで大きな1つの樹の上に居る感じでしょうか? こんな規模の樹が存在したら、まさに世界樹ですね」
「シュミネのユニークスキルよりも大きい」
「へ? あのユニークスキルも将来これくらいの大きさになるってことっすか?」
「なりませんよ。……いえ絶対とは言いませんけど」
シュミネはこのダンジョンの本質に気がつき始めているみたいだな。
さすがは【世界樹の番人】だ。
1つの世界を形成する樹、ここ〈新世の樹界ダンジョン〉の名前を入れ替えると〈新世界樹〉になる。
まあ、このことはまだ内緒だ。
だが今はなによりも調査だな。ダンジョン門の前に学園長たちを待たせているから、ちょっぱやで調査して、早めに帰らなくてはならない!
「ここはオープンダンジョンと呼ばれた上級のダンジョンとも、また違いますわね。そこら中にツルは垂れ下がってますし、下も上も樹木で覆われているので、1層の中に何個も階層がありますわ」
「〈夜ダン〉の時は地上ルートの他に、地下ルートの2階層があったんだよね、1層内に。それと同じ感じかな?」
「今回のはもっと多いですわね。5階層分くらいありますわよ」
リーナとカイリはすっかり分析術に長けてしまったな。
〈竜の箱庭〉を見て、その全容を暴き出そうとしている。素晴らしい。
しかし、ここは誰も踏み入れたことのない最上級ダンジョン、そう簡単にはいかない。
「ゼフィルスさん、意見を聞かせていただきたいですわ」
「そうだな。むしろリーナとカイリの見解を聞きたい。ここはどういうダンジョンだと思う?」
「…………」
聞き返して申し訳ないが、こういうのも俺の楽しみなのだ。
2人が〈竜の箱庭〉を見て意見交換し、故に出た結論を、是非聞いてみたい。
俺が問うと、リーナとカイリが目を合わせてアイコンタクトし、2人ともこちらを向く。
「わたくしたちは、ここを上級ダンジョンに上下の階層をプラスした、立体的オープンダンジョンであると結論付けましたわ」
「1層内が5階層に分かれているの。これは〈夜ダン〉や〈雷ダン〉と同じような作りであると思う。でも〈夜ダン〉や〈雷ダン〉の時とは違って、道じゃない。全部オープンなんだよ!」
「いいな! それで正解だと思うぞ!」
「! やりましたわ!」
「やったねリーナさん!」
そしてリーナたちは、見事にこのダンジョンの特性を見抜いていた。
満点に花丸もあげよう!
「ゼフィルスさん! では次はモンスターについてです、ここを見ていただきたいのですわ!」
「見て地面のところ、樹の中に空間があってね、ここにモンスターの巣があるっぽいの」
「ほう!」
もうそこまで見抜いたのか。さすがはリーナとカイリ。うちの地図番、エースである。しかし、〈竜の箱庭〉にはそれらしきモンスターの集団は見当たらない。
「根拠は?」
「はい。おそらくここはジャミングが掛けられていますわ。それもかなり強力な。ですがそれはモンスターを索敵するスキルのジャミングのみなのです」
「他のサーチ系は普通に届くから、中にモンスターが居るのは間違い無いと思う。私たちの予想では、〈眷属トラキ〉なんかが樹の中からモンスターを放出していた感じじゃないかと思うんだよ」
「つまり、近づくと樹の内部からモンスターが溢れて襲ってくる、ということだな?」
「ですわ」
いいな! さすがはリーナとカイリだ! 80点あげちゃう!
だが、満点にはちょっと足りないので俺も補足してあげるんだ。
「それならこの空間に道は無いか? つまりは空洞、トンネルだ。待ち構えているだけなのか、移動は出来ないのか。もし移動出来るのなら――」
「! 奇襲し放題ですわ!」
「すぐに調べてみる!」
いいなぁ。なんかダンジョンを本気で攻略しているって気がしてくる!
「ゼフィルスー! ここ素材が凄いわよー!」
「ゼフィルスさん! ここは素材の天国ですよ! 〈アルティメットエリクシール〉のレシピに書かれていた〈世界樹の葉〉がたくさん生えてるんです!」
「お! 今行く!」
おっと今度は別の場所から報告が上がる。
俺に張り上げた声を届けるのは、ラナ。そしてモナだった。
特にモナの興奮は大きいようだ。今まで最上級のレシピはいくつか入手に成功している、だが今まではあくまで代替素材でしか作れてこなかった。その正当な素材を見つけ出せたのだからモナの興奮も分かるな。
その名も〈世界樹の葉〉系。
ポーション系を作るために必要な〈薬草〉系統の最上級素材が見つかったんだ。
リーナたちが入り口付近で〈竜の箱庭〉を使い、辺りをチェックしてくれてもいるので、ラナたち他のメンバーは周辺の素材採集をしてもらったのだが、特にモナが燃えているな。
「ふおおお! ここにもあのレシピに書かれていた〈火霊葉〉が!? こ、こっちには〈氷霊葉〉に〈麻痺霊葉〉!? ああ、ここ〈世界樹の実〉のポイントです! 採集率74%! 最高値! 『竜激一魂大収穫』使います!」
「よーし許可する! やったれモナ!」
「やったーー!! 『竜激一魂大収穫』!」
〈世界樹の実〉からは〈アルティメットエリクサー〉が作れる!
その〈世界樹の実〉の大量採集ポイントを職業の力で見つけたモナが即で大技発動の許可を求めてきたので頷いたよ。
〈竜ダン〉のレアイベントで手に入れた〈竜激のスコップ〉を片手に、モナがガツンと採取ポイントを掘ると、一瞬で噴火したかのように採集物が飛び出した。
「全部〈空間収納鞄〉に入れてください! 鑑定は後です!」
「「「おお!」」」「……!」
〈採集無双〉の面々の働きが顕著すぎるぜ。モナの指揮もだいぶ板に付いてきている気がする。
他のところでも『採取』や『伐採』、探索は進んでいる。
タイムリミットは、初入ダンなので40分くらいを目安にして戻ろうということにしている。少ないかもしれないが、外で卒業生のみんなや学園長が待っているのだ。時間を忘れてがっつり調査するのは明日からでいい。
現在20分経過中だ。
探索班や採集班に分け、周囲一帯を観察中。
なお、まだモンスターは出ない。不気味なほどな。
「ゼフィルスさん、こちらに!」
「おう!」
〈竜の箱庭〉組のリーナに呼ばれて戻る。見つけたかな?
「ゼフィルス君の言う通りだった!」
「探ってみたら、このダンジョンの地面や壁、そこら中に空洞がありましたわ!」
「空洞にはジャミングが強く張られてて分かりづらかったよ。でもこれ、とんでもマズいよ!」
「はい。思えば上級ダンジョンには、何かしらの悪い環境がありました。ですが、ここにはほとんどないことに注意を向けなくてはなりませんでしたわ」
リーナが言っているのは、上級ダンジョン特有の環境帯のことだな。
上級下位ダンジョンのランク1は〈嵐ダン〉。
その突風により先に進むことが難しく、攻略難易度が高かった。
ランク2の〈霧ダン〉も同じく。
ならここ、最上級ダンジョンのランク1は?
ここはそこまで悪い環境は見当たらない。上も下も樹と樹と樹でいっぱいだが、それだけだ。寒くも暑くもなく、むしろ幻想的な光景が広がっている。
というかモンスターもまだ出てきていない。
だが、得てしてそういうときになにかが起こるものだ。
「! モンスター出現、4班の所ですわ!」
「リーナ、『ギルドコネクト』だ!」
「はい! ――『ギルドコネクト』ですわ! リカさん、そちらにモンスターが現れました。真上ですわ!」
そう、ここは1層内に階層があるダンジョン。真上、真下からの奇襲も可能なのだ。〈竜の箱庭〉を見れば、リカが率いる4班の真上にある枝が開き、〈ハイリーフウルフ〉が落ちてくるところだった。
「カルアさんが足を取られて動けない? トラップですの? え? 枝に挟まった? 抜け出せないのですか?」
「トラップの一種だな。抜け出すのではなく破壊しろと伝えてくれ」
「はい! リカさん、それはトラップですわ! 破壊してください!」
戦闘発生。だがそのトリガーとなったのは罠。
どうやらカルアが『罠突破』を試みたところ、突破出来ずに足を取られたようだ。
おそらく、地面を形成している枝と枝の間に足が挟まったというところだろう。
見た目は枝と枝の間に足がハマっただけに見えるが、それは立派なトラップなので破壊が可能だ。これはダンジョンオブジェクトは破壊できないと思い込んでいるといつまでも抜け出せない罠だな。
「クリア、4班、モンスターを撃破しましたわ!」
「ナイス!」
「やった!」
「ゼフィルスさん、どうしますか?」
「リカたちは帰投させてくれ、話を聞きたい。あと、やはりモンスターは樹の中を通り奇襲を仕掛けてくること、トラップのこともみんなに共有しよう」
「了解いたしましたわ! リカさん――」
初戦闘はこちらの勝利。
罠を張って戦闘とか、難易度の高さが伺えるな。
さあ、残念だがもうすぐ時間だ。最上級ダンジョンを攻略するのは明日から。
そろそろ帰還しなくてはならない。
だが、できればあっと驚く大きな発見をして帰りたいな。
よし、ニーコを召喚しよう! 『お宝レーダー』の出番だ!




