#1777 卒業生たちと再び顔合わせして笑顔の別れ。
卒パは盛大に行なわれた。
戦闘課の六箇所の校庭を使った立食式大規模野外パーティだ。
最初に出てきた3年1組の方々はすぐに移動し、なんと俺たちが普段使っている〈戦闘4号館〉の校庭に来てくれた。俺たち2年1組のメンバーも早々に移動して別れ、各自最後の挨拶に向かったのだ。
「ゼフィルス氏!」
「インサー先輩!」
ガシッと確かなハンドシェイクを交わす。
インサー先輩、その目には滂沱の汗が流れていた。
「うおおおおおお! もうゼフィルス氏たち〈エデン〉とギルドバトル出来ないなんて、自分は! 自分は! うおおおおおおお!!」
「インサー先輩……!」
くっ、俺もつられて目から汗を流しそうだ。
インサー先輩たち〈ギルバドヨッシャー〉の3年生の面々は、プロリーグからスカウトを受け、ほぼ全ての人材がギルドバトルのプロチームに入る予定とのことだ。
ギルドバトルのプロリーグとか、最初聞いたときは手に汗握ったよ。俺も将来そこに就職したいって、ちょっと思ったもん。
インサー先輩たちがスカウトされたのはもう当然の采配というか、そうなるだろうと全学生たちが思っていたようであまり騒がれなかったんだよなぁ。
「インサー先輩、改めてギルドバトル、楽しかったぜ」
「自分も〈エデン〉とのギルドバトルは楽しかった! 楽しすぎたぞ! できればこんな学園生活がもっと続いてほしかった!」
「分かる!」
2人でグッと拳を握って汗を封じ込める。
そうでもしないと涙腺が決壊しそうだった。
〈エデン〉と唯一と言っていいくらい良い勝負をする〈ギルバドヨッシャー〉。
その指揮を執るインサー先輩とはもう大親友と言っても過言ではなかった。ライバルと書いて友と呼ぶでもいい。
俺も、もっとギルドバトルがしたかった。
「ゼフィルス氏、自分は、昨日のギルドバトルを、生涯忘れないだろう」
「きっと俺もだ。それくらい楽しいギルドバトルだった」
「ふふ。本当ならばこのまましゃべり尽くしたいのだが、ゼフィルス氏をこのまま拘束するわけにはいかない。次の順番待ちもあるからな。だから最後に一言、言わせてほしい」
「おう」
「ゼフィルス氏、ありがとう」
「インサー先輩。お元気で」
そう言ってお互いの顔を見てフッと笑みを浮かべる俺たち。
「ふっ、さらばだゼフィルス氏。また会おう」
そう言ってクルッと背を向け、インサー先輩は去っていった。
ああ、また会おうインサー先輩。
インサー先輩との話にじんときていると、その後も泣き笑いしたような〈ギルバドヨッシャー〉の面々が次々と話しかけてきた。オサムス先輩やロード兄弟もいる。
「ゼフィルス氏、俺もまだまだ遊び足りない!」
「俺もだよオサムス先輩。だが、遊び続けるわけにもいかないだろ?」
「分かっているが。でも最後の最後で〈教会ダン〉という楽しい遊び場を紹介してもらったのに、遊び尽くせないのが悔しい!」
オサムス先輩は〈教会ダン〉が恋しいらしい。もっと時間があればあそこで遊ばせてあげられたんだが、諦めるしかないな。
「混沌!」
「ぬ! オスカー氏!」
「混沌!」
「分かっているさ。次代は君に任せる! 頑張るんだぞ!」
「混沌!」
いつの間にかいたオスカー君たち。2年生以下の〈ギルバドヨッシャー〉の面々が到着したのでこの場を譲る。
もう十分別れの挨拶は出来ただろう。
◇
次に会ったのは〈ミーティア〉のアンジェ先輩とマナエラ先輩だった。
「あ、ゼフィルスさん、ちょっと助けて!」
「アンジェ先輩にマナエラ先輩? どうしたんだ?」
「とりあえず話している振りをしてほしいのだわ」
「??」
なんだか息を荒げるアンジェ先輩とマナエラ先輩が必死に見えたので要望通りする。すると周りから男子たちの声が。
「あ、あれはまさか、勇者さん!」
「しまった出遅れた!?」
「うそだろ!? まさか、アンジェ先輩の方から告白とか……!?」
「ちょっと待ってくれよ! そんなのダメだ!」
「しかし、今これを邪魔すれば俺たちもしょっ引かれるぞ!?」
「いや、むしろ勇者ファンからは感謝されないか?」
「よし、行ってこい!」
「他人任せだし!?」
「俺、まだ告白できてないのにーーー!」
あ、なんかこれ覚えがあるわ。
俺が1年生の時の学園祭を思い出す。
あの時もアンジェ先輩の告白イベントがあって、実に15人もの男子から一斉告白を受けていたんだよな。まあ、その後アンジェ先輩が力業で全部吹き飛ばしちゃったんだけど。
さすがに卒業式では控えているのか、ここに逃げてきたらしい。さすがは3年生で一番モテると言われたアンジェ先輩だぜ。
「状況は把握したぜ」
「マナエラさんたちと一緒に居れば告白されないと思っていたのだけど、甘かったわ」
「あ、ありがとうなのだわ。ごめんなさいね。そっちも挨拶で忙しいのに」
「なに、俺もアンジェ先輩とマナエラ先輩に挨拶したかったし、構わないさ」
「ゼフィルスさん」
〈ミーティア〉とも楽しい思い出はいっぱいだ。
なにかと縁があるし、〈ミーティア〉と〈百鬼夜行〉の因縁の対決では、俺が実況させてもらったりもした。〈学園春風大戦〉では初めてシャロンが造った防壁が崩された。
振り返れば、いろんな事があったなぁ。
「ゼフィルスさんって、ほんといい男よね」
「ありがとよ」
「アンジェ?」
「いえ、分かっているわよ。私だって命が惜しいもの、ゼフィルスさんを手に入れたいなんて思わないわ」
「良かったわ。そうなったら私もちょっと、アンジェを見捨てなければいけなかったのだわ」
「混沌!」
「マナエラさんは本当に良い性格してるわね」
「??」
アンジェ先輩とマナエラ先輩がコソコソ語る。
顔の赤いアンジェ先輩がやや焦っているが、マナエラ先輩はすまし顔だった。
なに話してるんだろう? あと途中、どこからかオスカー君の声が聞こえた気がするが、気のせいだっただろうか?
「こほん。改めてゼフィルスさんには感謝を。大変お世話になりました」
「本当に。この恩は返しきれないくらいなのだわ。もし私たちで力になれることがあれば、いつでも言ってほしいわ」
「ありがとう。なんか卒業式で言うセリフが逆の気もするが、その時は遠慮無く頼らせてもらうぜ」
本来在校生が言うべきセリフを卒業生が言っているのもおかしな気分だが、アンジェ先輩とマナエラ先輩の気持ちは伝わった。
アンジェ先輩とマナエラ先輩は、この学園の先生になる。
会おうと思えば会えるため、インサー先輩たちとは違い、寂しくはない。
「それじゃあ、また学園で。その時はアンジェ先生にマナエラ先生ですね」
「敬語なんて、少し恥ずかしいわね。他に誰も居ないときはいつも通りでいいわよ」
「そうね。ゼフィルスさんに畏まられるなんて、なんだかくすぐったいもの」
そう言って笑い合い、最後に記念撮影をして俺たちは笑顔で別れた。
また会えるのだからバイバイはいらない。
しかしはて? 何か忘れているような?
「アンジェ先輩が勇者から離れたぞ!」
「うおおおおお! アンジェ先輩好きだーーー!」
「やっば! こいつら忘れてたわ!」
あ、そういえば俺を防波堤にしたかったんだっけ?
まあ、アンジェ先輩、マナエラ先輩、ドンマイだ。
◇
「やあ、ゼフィルス君。こんなところで奇遇なんだね」
「もしかしたら出会えないかもと思っていたが、杞憂だったな!」
「ロデン先輩にガロウザス先輩も!」
次に会ったのは〈カオスアビス〉と〈世界の熊〉のメンバーズ。
そしてギルドマスターのロデン先輩とガロウザス先輩だった。
「おっと、それでは僕たちは邪魔しては悪いから少し離れているよ。――みんな、こっちにきてくれ」
「悪いなキール」
ギルドメンバーとお別れ中……というわけでも無さそうだ。
インサー先輩みたいな滂沱の汗は無い。
それどころか笑い合う余裕まであるみたいだ。
「ロデン先輩やガロウザス先輩は明るいな。結構寂しそうな人が多いのにさ」
「ふふふ、僕たちは学園の〈ハンター委員会〉に所属するんだね。今までと大して変わらないんだね」
「だな! 確かに卒業はしちまうが、就職先が学園だからな! 卒業って気がしねぇぜ!」
どうやら2人とも卒業という名の進級みたいに思っているようだ。
確かに、その感覚も分からんではないな。
「おっとそうだ。昨日ギルドの合併手続きに入ったぜ」
「〈カオスアビス〉と〈世界の熊〉は吸収するよりもやはり合併することにしたんだね。その方がメンバーの気持ちも良いんだね」
「そうか。確かにそれはいいな! ちなみにギルド名はどうするんだ? 合併の時は分かりやすいようにお互いのギルドから名前を取って付けなくちゃいけないだろ?」
「おう。〈アビスの熊〉に決定したぜ」
「そこくっつけちゃったんだ。だが、分かりやすいな!」
「だね。〈ギルバドヨッシャー〉のギルドマスターが【エウレカカオス】で有名なオスカー君だからね、カオスの名は断念なんだね」
〈カオスアビス〉と〈世界の熊〉改め――〈アビスの熊〉。
卒業と同時にギルドが減ることは去年もあったが、そう聞くとちょっとしんみりくるな。
そう思っていると空気が変わった。ロデン先輩が柔らかな笑みを浮かべる。
「ゼフィルス君、ありがとうなんだね。僕たちが再び仲良くダンジョンに潜れるようになったのは、君が〈世界の熊〉を強くしてくれたからなんだね」
「俺からも礼を言わせてくれゼフィルス。何かあったら、俺は必ずゼフィルスの力になるぜ」
2人の真剣な気持ちが伝わってくるようだ。
〈カオスアビス〉と〈世界の熊〉にはかなりの隔たりがあった。
だが、ガロウザス先輩は〈エデン〉の何かを切っ掛けにして変わり、無事に〈カオスアビス〉に追いつくことが出来たのだ。だが、正直俺はそこまでのことはしていない気がするけどな。
「気にするな。と言いたいが、その時はもしかしたら助けてもらうかもしれない」
「ほほう、ゼフィルス君が助けてなんて言う日が来るのかは分からないけど、その時がくれば全力で助けるんだね」
「おう。任せておけよ! 相棒の熊も育てておくからな!」
和気藹々と約束する。
2人とも、結構真剣だったなぁ。思わず約束を受けてしまった。
だが、嬉しく思う。
俺はロデン先輩とガロウザス先輩から感謝を受け、最後に記念撮影をしたのち、また会おうと言ってその場から離れた。
お、あそこに居るのはカリン先輩やエイリン先輩たち〈集え・テイマーサモナー〉の面々。
ちょうどタイミング良く話していた人が離れた様子だ。よし、次はあそこに行くぞ!




