#1770 〈SSランクギルドカップ〉決勝戦――決着!
「むむ! ゼフィルス氏の狙いは本拠地か! よし、作戦Zいくぞ!」
「作戦Z、指示出しますよ!」
少し時は遡り、赤本拠地へ〈エデン〉が仕掛ける前。
こちら〈ギルバドヨッシャー〉の司令塔、インサーとチルミの会話。
〈ギルバドヨッシャー〉の〈巨城ちょい残し戦法〉によって〈エデン〉が赤本拠地に〈ちょい残し戦法返し〉を仕掛けてくる可能性は十分に高いと考えていた。
これまでの戦績から言って、〈エデン〉は最後、巨城をひっくり返すことより、本拠地を落として勝利を掴むことが多いと分かっているからだ。
これはゼフィルスの感性の問題。
ゼフィルスは観客も楽しませてコメントの嵐を呼び込むのが大好きなのだ。
巨城だけでは盛り上がりに欠ける、やはり本拠地を落としてこそ大フィーバーするというものだ! という考えだ。
故に赤の巨城に〈巨城ちょい残し返し〉をしてくるのではなく、赤本拠地にちょい残しに来るだろうと思われていた。その予想は大当たり!
結果、〈エデン〉の大部隊が16人というメンバーで赤本拠地へと押し寄せてきた。
「初の試みだがきっと上手くいく! いいや、やってみせるのだ! オスカー君の退場は無駄にはしないぞ!」
インサー、気合いの言葉。
きっと〈敗者のお部屋〉のオスカーも「混沌!」と相槌を打っていることだろう。
実際は混沌過剰摂取で昏倒中だ。
〈エデン〉が〈ちょい残し返し〉をしてくるのが分かっていたのだから、〈ギルバドヨッシャー〉は当然罠を用意していた。
赤本拠地を守るのは4人の【ジャイアントハンドキーパー】。
本拠地や巨城を守るのに特化したスペシャリストたち。
準決勝では〈千剣フラカル〉の攻撃部隊を見事に抑え、〈ギルバドヨッシャー〉が相手本拠地へカウンターを仕掛け勝負を決める足がかりになった自慢の部隊だ。
本来なら少しでも相手を足止めし、その間に援軍がやって来て相手部隊を追っ払うという戦法がセオリーだろう。
だが、一般人からちょっと逸脱気味の〈ギルバドヨッシャー〉はもちろんそれだけでは終わらない。
「赤本拠地をちょい残しなんてさせないぞ! むしろ〈エデン〉に落とさせる! タイミングを見計らって――〈ダークアクマーフィールド〉と〈ゴリムックエリア〉を展開する!」
「りょ! 了解の――りょ!!」
そう、〈ギルバドヨッシャー〉の狙いは――ちょい残し、するつもりがうっかり力が強すぎて落としちゃった!? という展開!
最後に巨城を6城持っていれば〈ギルバドヨッシャー〉の勝ち。そのため、すでに〈ギルバドヨッシャー〉がちょい残しした5城に加え、〈エデン〉が持っている1城をラストタイムに落とせれば〈エデン〉は逆転不可能になる。
そのため、現在4城持っている〈ギルバドヨッシャー〉は、1城でいいから〈エデン〉にあげたいのが本音だ。
巨城を守るよりも、巨城を落とす方が簡単だからである。ぶっちゃけ〈エデン〉相手に守りに入って守り切れるわけがない。〈ギルバドヨッシャー〉はラストタイムに巨城を落として勝つのが理想的なのだ。
もちろんそんなこと百も承知な〈エデン〉は赤の巨城なんか落とさないし、赤本拠地を落として4城の巨城なんて貰いたくない。故に〈ちょい残し〉がしたいのだ。
だが、〈ギルバドヨッシャー〉はその〈ちょい残し〉作戦時にうっかり事故で渡してしまおう、というのがこの作戦の肝。
そこでインサーが目を付けたのが〈ダークアクマーフィールド〉と〈ゴリムックエリア〉というアイテム。
2つとも上級中位のランク5、〈魔界ダン〉で手に入れることのできる〈木箱〉産アイテムだ。
なんでそんな低レベルのアイテムを? と思うかもしれないがこれの効果は非常に強力。
その効果は、
〈自分と相手の攻撃力と魔法力を大上昇する〉と〈自分と相手のスキル・魔法の威力を上昇する〉である。
使い捨ての消耗品で、かなりの広範囲に展開できるアイテムだが、その効果が難点。
自分だけならともかく、相手にもバフを掛けてしまうアイテムなのだ。
しかもエリア魔法なので、もし自分たちが打ち負けて下がらされたら、その場に居続ける相手だけをパワーアップさせてしまうというネタアイテム。
エリアにいるときずっとバフされるので、バフ打ち消しも効かない。消してもすぐに再度バフが掛かってしまうからだ。
故に普通の人たちからは見向きもされず、しかも〈魔界ダン〉産ということで市場に出ている数もほぼ皆無、そもそも認知度が無いに近い。
こんなマイナーで使い勝手の悪いアイテム、ゼフィルスですら知るまい。
そう〈ギルバドヨッシャー〉はほくそ笑んでいる。
しかし、このマイナーで使い勝手の悪いアイテムも使い方次第で大いに化けるのだ。
「相手の攻撃力を上げてしまうアイテム。大いに結構! さあ、これで〈エデン〉に赤本拠地を渡してやるのだ! ――〈ダークアクマーフィールド〉、〈ゴリムックエリア〉、発動!!」
普通、スキルや魔法のバフは敵対する相手に掛けることができない。
これは仕様で、同じパーティにいない相手でも、味方と認識していればバフが入るのに対し、敵対行為をしている相手にはどうしてもバフが入らないのだ。摩訶不思議。ノエルやオリヒメの歌で相手にバフが掛からないのはこのためだ。
だが、それを打ち破り、相手にバフを掛けてしまうアイテムこそ、この〈ダークアクマーフィールド〉と〈ゴリムックエリア〉。
瞬間、〈エデン〉の全メンバーに完全予想外なバフアイコンが付いた。付いてしまった。
これを不意打ちで仕掛けられた〈エデン〉は、自分に掛かったバフに力加減を間違え、赤本拠地を落としてしまっ――。
「ってうおおお!? 〈ダークアクマーフィールド〉と〈ゴリムックエリア〉じゃねぇか!? ストップストーーーップ!! 攻撃やめーーー!」
「ははははは――――ん?」
――落とさなかった。
だってそれ、ゼフィルス知ってるんだもん。
絶妙なタイミングで使用された〈ダークアクマーフィールド〉と〈ゴリムックエリア〉。まさに完璧なタイミング。〈エデン〉が赤本拠地のHPを1割で残そうとした。だが、その瞬間――ゼフィルスがストップをかけたのである。
「あれ? ゼフィルス氏知ってるの?? マジで??」
「マージで?」
「震える」
まさかである。
普通ならその使いどころも、その能力も、そして知名度も低いあのアイテムを、絶妙なタイミングの使用に対して待ったを掛けられるほど熟知してるの? うそやん。
「ええ、なにこれ!? 誰!? このタイミングでバフなんか掛けたの!」
「危うく、落としちゃうところだった」
「あっぶねぇ! マジギリギリだった! 退くぞ! ちょい残しはこれで十分だ!」
こうしてゼフィルスはギリギリで止まることに成功して引き返していった。
もちろんゼフィルス以外のメンバーは〈ダークアクマーフィールド〉と〈ゴリムックエリア〉なんて知らないので超困惑状態だったのは言うまでもない。
まさかの〈ギルバドヨッシャー〉の奥の手中の奥の手、まさに1回限りの初見殺しが破られた瞬間だった。しかもその直後。
「! インサー先輩! 混沌レーダー……じゃなくて索敵レーダーにやべぇ情報が! ネコロジーさんが退場させられたってよ!?」
「な、なんだとー!?」
ネコロジーさん。
名前から「猫人」? かと思いきや実は普通の人間だ。
そしてその職業は【ジャイアントハンドキーパー】。そう、隠された5人目の【キーパー】だったのだ。
もし、赤本拠地のちょい残し作戦が成功されてしまった場合、ネコロジーが赤本拠地のHPを回復させる手筈だった。
故に1人だけ隠しておいたのだ。だが、ゼフィルスもそれは読んでいたようで、【ジャイアントハンドキーパー】は皆殲滅。カイリがオスカーを探し当てた時のように居場所を割り出し、同時攻撃を仕掛けて討ち取っていたのだ。
これで赤本拠地は回復出来なくなったし、〈エデン〉の〈本拠地ちょい残し戦法〉はまんまと成功することになった。
「! 混沌レーダーに……じゃねぇ! 索敵レーダーにさらに反応あり! インサー先輩、こっちに〈エデン〉が囲いに来てる!」
「囲まれる前に我々も急ぎ退却だ! チルミ君、シンジ君、【道案内人】を回してくれ!」
「逃げ道探します!」
さらに次の〈エデン〉の狙いはインサー、チルミ、シンジの3人の模様。
シンジはオスカーの代わりに混沌レーダー担当としてインサーの側で索敵、チルミと共同で司令塔に欠かせない役割を担っていた。
インサーの指揮があればシンジも大いに活躍できる。
ジャミングなどを駆使しリーナの〈竜の箱庭〉から隠れていたが、ついに発見されてしまい、逃げに入る。
もちろん〈エデン〉からすれば撃破できれば最高だが、インサーは捕まらない。
上手くマスを保護期間にして逃げ切ったのだ。さすがはギルドマスター。
「くっ、これ以上の作戦は無理か! チルミ君、当初の予定通りで行くぞ!」
「はい! 作戦Aを指示します!」
最大の作戦が空ぶったため、インサーはすぐに元から練っていたプランで最後のラストタイムに挑む。
そして残り時間3分。〈エデン〉は赤本拠地に向かって進行を開始した。
「防げ防げ! ここで〈エデン〉に赤本拠地を取らせてはならない! 絶対に死守するのだ! ――チルミ君!」
「はい! 大丈夫そうです! 5城は確実に手に出来ます!」
「ならば3城の守備から手を引き、赤本拠地へ戦力を戻すのだ! 急げ!」
「! 了解!」
〈エデン〉は予想通り、ほぼ全攻撃部隊で赤本拠地へ仕掛けてきた。
ならば、現在〈ギルバドヨッシャー〉が持っている4城は狙われないと見て良い。
6城持っていれば〈ギルバドヨッシャー〉の勝ちなのだから、インサーは5城を落とし、1城に守備を置き3城からは手を引いて、赤本拠地の守りを強化した。
「絶対に死守せよ! 我が【天導師】の力をここに顕現する。環境は嵐だ―――『ハザードバトルフィールド』!」
天候を操る【天導師】は足止めに最適。
赤本拠地の周囲5マスに雨雲を作り、暴風吹き荒れる嵐を展開したのだ。
これは攻撃ではなく環境魔法。フィールド自体に効果のある環境変更の魔法だ。
シュミネの『迷いの霧』と似たようなスキルである。マスの減退も受けない。
「望むところだインサー先輩! 行くぞみんな! 後ほんの少しで赤本拠地は落ちる! まずは隣接マスを取り、守り手を排除する! 攻撃開始だ!」
「腕が鳴っちゃうよー!」
ゼフィルスの攻撃宣言に腕が鳴るエリサ。しかしその腰をガシッと確保するかのように小さな腕が回されていた。
「行きましょう姉さま」
「へ?」
「これぞ新、姉さま爆撃戦法です――『エル・バランレード・ラグナロク』!」
「にょ、にょおおわああああああああああああああああああ!?」
『エル・バランレード・ラグナロク』はフィナの強襲の一撃。距離が空いていても超速のスピードで詰めて攻撃する。ソニック系に近いスキルだ。
これぞ新しいフィナとエリサのコンボ技(?)。
なんと空からではなく、今度は地面すれすれからラグナロク(眠り姫)を持っていったのである。これぞフィナの新戦法〈新・エリサ爆撃戦法〉だ。
横から高速で行く!
「姉さま、ゴー!」
「もうちょっとお姉ちゃんを優しく扱ってーーー!?」
「しまった!? 〈眠り姫〉だ!」
「もう遅いよー! ユニークスキル――『エンドレスエンド』!」
〈睡眠〉中の相手には〈即死〉を、そうでないなら永久の〈睡眠〉を与えるユニークスキル。
〈ギルバドヨッシャー〉の〈即死〉対策は万全だった。だが、〈睡眠〉だけなら隙がある。結果、〈ギルバドヨッシャー〉の10人がここで眠ってしまったのだ。
速度をメインにしているので魔法が1発しか撃てないのが難点だが、奇襲が決まりやすいのが新戦法の強み!
「エリサが先陣を切ったぞ! 続けーーー!」
「「「おおー!」」」
ヒーラーのエリサが先陣を切った事で〈エデン〉の士気は最高潮。
そのまま一気に隣接マスを守る〈ギルバドヨッシャー〉に突っ込んだ。
「―――『ゴッドドラゴン・カンナカムイ』!」
「防御は任せなさい――『カウンター・レイ・ストリーム』!」
「今度こそ倒れなさいよね! ――『大聖光の無限宝剣』!」
「『充填』完了です――『ファウ・ウール・マーゼ・スラスト』!」
「みんな討ち取る――『エージェント・レイド・クロネコ』!」
「先陣は譲ってしまったか。ならば私も防御に入る――『制空権・神閃域』!」
「とう! ルルの必殺~~~『ヒーロー・セイバー・モーメント』!!」
「結界を破壊しておきます――『執事の極みで結界は全て破壊です』!」
「〈即死〉は対策済みですか、残念です。でしたら連射でお相手しましょう――『メイド・フォーシス・バルカン・グレート』!」
「さあ『究極忍法・多重分身の術』の私たち、いっくのデース!」
「『忍法・影分身雷竜落とし』デース!」「『忍法・炎・爆裂丸』デース!」「『忍法・影分身爆裂丸』デース!」「『巨大手裏剣の術』デース!」「『毒手裏剣』デース!」「『三属性手裏剣乱舞』デース!」「『豪炎斬波』デース!」「『氷結斬躯』デース!」「『雷斬り』デース!」「『くノ一流・一雨一度』デース!」
「動きを封じるなら任せてもらおう。全て叩き落とす――『アーカーシャ・グラビティ』!」
「たはは~デバフや状態異常は私に任せてね! 『ノットアドミッション・ベルシール』!」
「ゼニス、嵐を吹き飛ばしてしまいましょう――『神竜の業火・ファイナルエクシードブレス』!」
「クワァァァァアアアアアア!!」
「よーし、私はみんなに3倍バフをプレゼントだよ! 『アルティメットテンションエール』!!」
「最後の攻撃ならば、やはりアレだな」
「はい。お供しますわレグラム様」
「「『天海星・ウラヌスネプチューン・キャリバー』!」」
「ユニークスキル解禁だよラヴァ! 『真の力を取り戻せ』! 『溶岩大帝流・ラヴァブレイクエクスプロージョンブレス』!!」
「ゴアアアアアアアア!!」
「出発まで残り15秒です。ナキキさんとシュミネさんはお乗りになってお待ちくださいね」
「よ、よろしくっす!」
「よろしくお願いしますロゼッタ先輩。護衛は私が――『大樹の護衛』!」
「最後の戦いか! ならば俺も最後に出し尽くしてみせよう――『超進化』!」
「あっとその魔法はダメかも――『忘却の彼方』! 忘れてね~」
「おーっほっほっほ! ようやく派手な対人戦ですわ! いきますわよクラリス! 『ビッグウェーブデトネーション』ですわーー!」
「ギルドバトルなら安全ですしね。お嬢様の道は私が空けましょう――『トリリオン・レイソード・イグニッション』!」
「ついに〈竜ダン〉でテイムして進化させた君たちのお披露目です! いっけー〈雷竜〉! 〈ジェットドラゴン〉! 『ブラストエンゲージストライク』!」
「私たちもいくよ! いっけー『王狐・モミジ』!」
「『無双名将・大軍一将之真神』! ――これが最後、最後の戦い……全力全開でいくよ! 『必殺・大神抜閃・破邪銀狼華』!」
「あたいも全力だーー! くらえーー『ライフフォース・アトミック』!」
ズドドーーズドドドドドドドドドドドドーーーーーン!!!!!!
凄まじい攻撃の嵐が〈ギルバドヨッシャー〉の防衛陣に激突した。〈エデン〉流の嵐がぶっ放されたのだ。
さらにインサーの本物の嵐はゼニスのブレスによって粉砕され、雲には大きな穴が空く。
この猛攻により〈ギルバドヨッシャー〉は15秒で防衛に穴が空く。予定通り。
「今です――『暴走列車・特急城壁螺激槍』!」
トドメは〈ブオール〉に乗ったロゼッタのユニークスキル突撃。
「うおお、やらせるかー!」
ここで飛び出したのは、なんとシンジ!
〈ブオール〉の前に飛び出すなんて! あれは先にユニークスキルの突撃を自ら喰らいにいき、ユニークスキルの効果を終わらせてしまう身体を張った戦法! しかし。
「邪魔――『ビッグクマン・エンドオブドライブ』!」
「クマー」
「え? うぎゃああああああああああああああ!?」
シンジは、〈エデン〉の新〈乗り物〉装備、〈クマエンジェル・バワード〉に騎乗したミジュのドライブスキルの突撃を喰らって飛んでいってしまった。
「や、やらせんぞーー! 『セブンセルオーバーストーム』!」
「これで最後だインサー先輩!! 『天光勇者聖剣』ーーーー!!」
最後はインサーが側面から攻撃を仕掛けるが、回り込んで来たゼフィルスが迎撃。
とんでもない暴風と特大の聖剣がぶつかり合った。
「行ってこい! ロゼッタ! ナキキ!」
「はい!!」「行ってくるっす!!」
道が空いたのでそのまま赤本拠地の前に立ちはだかる防壁を〈ブオール〉がズドンしてぶっ壊す。瞬間、〈ブオール〉から飛び出すナキキ。
「ナキキさん!」
「これでトドメっすーーーー!! 『ハルマゲドン』!」
ドッッッッッッッガン!!
赤本拠地にナキキのユニークスキルがぶっ刺さった。
そして――残り時間1分41秒。赤本拠地のHPがゼロになる。
全員が自陣本拠地へと戻され――タイムアップ。
今ここに、〈SSランクギルドカップ〉の勝者が決定した。




