#1749 巨城が遠いからって狙わない理由にはならない
〈中央巨城〉が落ちると、それを皮切りにして瞬く間に戦況が傾いていく。
実況席では、その様子がよく見えていた。
「ああああっとーーー!! 〈エデン〉強し! 〈中央巨城〉をギルドマスター率いるガチの主力対決で勝ち取ったーーー!」
「さらには〈南西巨城〉と〈北東巨城〉の取り合いも決着しようとしています。数では〈集え・テイマーサモナー〉が圧倒的に勝ってますが――なっ!」
「あ、あああなんとーー! 〈中央巨城〉だけじゃなく〈南西巨城〉と〈北東巨城〉の戦いも、取ったのは〈エデン〉だーーーー! 3城の戦いは、〈エデン〉が全てを征したーーーー!」
「……輪で確認したわ。勝敗の分かれ目はやはり〈ジャストタイムアタック〉と呼ばれている〈エデン〉の戦法ね。〈エデン〉は〈ジャストタイムアタック〉の使い方が上手いのよ。〈集え・テイマーサモナー〉はモンスターを操るギルドだから、この一斉着弾攻撃は非常に難しい。真正面から取り合うと、結果はこの通りになるわね」
「〈ジャストタイムアタック〉強い! さすがは〈エデン〉! 〈ジャストタイムアタック〉の先駆者だーーー!! ここからはお互い一旦引いて自分の陣地寄りの巨城攻略に――ってあれ? あれれ!?」
「こ、これは!? ゼフィルス選手たちがそのまま南下しました! まさか……!」
「〈エデン〉が見ているのは、〈中央巨城〉のその先なのよね。次の狙いは――〈南側東巨城〉と〈南側西巨城〉よ」
「な、なんとーーーーー!? 〈エデン〉は〈中央巨城〉だけでは飽き足らず、さらに南側全ての巨城を征しようと言うのかーーー!?」
「本来であれば〈中央巨城〉〈南西巨城〉〈北東巨城〉の3城の決着が付いた時点でお互いのギルドは一旦引いて、自陣に近い巨城を確保しに走ります。ですが、〈エデン〉は……!」
「ええ。戻るなんて知らないとばかりに進んでいるわね。凄まじい展開よ。なにせゼフィルス君たちが狙っている〈南側東巨城〉と〈南側西巨城〉は、すでに〈集え・テイマーサモナー〉に隣接マスを取られているの。それを横取りしようという魂胆よ」
「普通なら絶対間に合わないはずーーーー! し、しかしこれって!? 〈集え・テイマーサモナー〉の攻撃部隊がいないーーー!? 〈集え・テイマーサモナー〉の引き返すルートが〈エデン〉によって塞がれているーーー!?」
「そうなんです。〈集え・テイマーサモナー〉は〈中央巨城〉〈南西巨城〉〈北東巨城〉の攻略に35人全員が出張ってしまった影響で――〈南側東巨城〉と〈南側西巨城〉と落とす人が居ないのです」
「〈集え・テイマーサモナー〉はセオリー通り〈中央巨城〉に向かった主力部隊と〈南西巨城〉に向かった部隊を戻すことで〈南側東巨城〉と〈南側西巨城〉を攻略しようとしていたはず。なのだけど……〈エデン〉が割り込んで来たために進路が塞がれちゃったわね」
「戻れない!! 〈集え・テイマーサモナー〉! まさかの戻れないーーー!? このままでは〈救済巨城〉である〈南側東巨城〉と〈南側西巨城〉は――ああっと〈東巨城〉がいつの間にか〈エデン〉に囲まれているーーー!!」
「ここも輪でずっと追っていたのだけど、〈エデン〉はどうやら最初から〈東巨城〉へ部隊を進ませて待機させていたみたいなのよ。〈北東巨城〉が陥落したと同時に動き出して〈東巨城〉を囲っていたわね。初動で保護期間のタイミングを見計らうなんて、こんな戦法もあったのね。ただ速く取れば良いというわけではない。勉強になるわ」
「これでは〈集え・テイマーサモナー〉、〈東巨城〉の隣接が取れません!」
「しかも〈エデン〉の〈救済巨城〉である〈北側東巨城〉と〈北側西巨城〉には、ナキキ選手が送られているわね。〈城〉特攻を持つ選手だからすぐ落とせそうよ」
「待って! ねえ待って! ということはだよ!? え? このままだと〈エデン〉がまた全部巨城を取っちゃうことになるんだけど!」
「いつものことだわ」
「うそでしょ!? 特に〈エデン〉から遠い〈南側東巨城〉と〈南側西巨城〉は狙われないんじゃなかったのーー!?」
「〈集え・テイマーサモナー〉は対応を誤ったわね。最初に〈中央巨城〉〈南西巨城〉〈北東巨城〉の3城本気で狙うとどうなるのか、身をもって学ぶことになったのだわ」
「いえ、最初に〈中央巨城〉〈南西巨城〉〈北東巨城〉の3城を狙うのはポピュラーでセオリー的な作戦のはずなのですが……」
「常識に囚われると〈エデン〉に裏をかかれるということに!? あのAランクギルドトップクラスの〈集え・テイマーサモナー〉が、ああーー!? ここで〈南側東巨城〉と〈南側西巨城〉も〈エデン〉の手に落ちたーーーー!?」
◇ ◇ ◇
大波乱。
俺は会場に巻き起こるどよめきにも似た叫びと、リーナから報告を受けてそんな言葉が思い浮かんでいた。
『もう一度、ご報告いたしますわ。〈エデン〉が9城全ての確保に、成功しましたわ!』
「マジか……!」
そりゃどよめきも起こるわ!
リーナからの報告に俺もどよめいたほどだよ!
成功、しちゃったか!!
〈エデン〉対〈集え・テイマーサモナー〉戦、〈土勢山〉フィールド。
ここは難易度は高いが非常にスタンダードなフィールドで、障害物が多いことを除けば普通のフィールドだ。
最初に中間にある3城の取り合い、その後、お互いは自陣側の3巨城を確保する。
そういうポピュラーな戦法が成立する。要はSランク戦初心者用とも呼ばれていた所だった。
なにせフィールドがデカすぎて相手側の陣地に斬り込むのに時間が掛かりすぎる。
これじゃあこちらが隣接を取る前に相手に巨城を落とされるだろう。
当初はそう考えられていた。
だが、そこは〈ダン活〉プレイヤー。気付いてしまったのだ。
「あれ? 〈中央巨城〉〈南西巨城〉〈北東巨城〉に全力を掛けるなら、その隙に相手の〈救済巨城〉をゲットすればよくない?」と。
まあ、案はあっても現実的にはかなり厳しい。
なにせ、相手側は〈中央巨城〉〈南西巨城〉〈北東巨城〉に全力で来るのに対し、こっち側は戦力を分散しなくちゃいけないのだ。普通に考えて3城を取られてしまう。だが、上手くいけば全ての巨城すら取れる作戦だ。
そして俺は、今回いけそうな気がしたのだ。
相手は〈集え・テイマーサモナー〉。速度は速いが、モンスター使いというのは〈ジャストタイムアタック〉が苦手だ。一斉攻撃みたいなものには加われるが、一斉着弾攻撃という時間ぴったりに攻撃するというものをとても苦手としている。
なにせモンスターにもレベルがあるのでほぼ毎回速度が変わるのだ。突撃系やドライブ系のスキルなんかAGIを参照しているのでモロにその影響を受ける。
テイマーに自動で付いてくるモンスターの位置を毎回その場所に合わせるというのも難易度が高く、攻撃の距離にブレが生じるのだ。距離が長ければそれだけ着弾時間も延びてしまう。
またリアルではさらに難易度は増し、モンスターへの指示出しからモンスターが動くまでにもタイムラグが発生するため、さらに時間ぴったりに攻撃することが難しくなったのだ。
故に〈集え・テイマーサモナー〉は〈ジャストタイムアタック〉が出来ないと読んだ。
なら、〈中央巨城〉〈南西巨城〉〈北東巨城〉を少ない数で〈エデン〉が先取し、さらに別働隊で〈南側東巨城〉〈南側西巨城〉〈東巨城〉も囲めるのではないかと試してみたら――大成功してしまったのだ。
特に〈土勢山〉フィールドは最初に〈南西巨城〉〈北東巨城〉を狙う際、相手は〈救済巨城〉である〈南側東巨城〉〈南側西巨城〉〈東巨城〉の隣接も確保出来てしまうため、感覚的にゲットした気になりやすいのだ。そこに油断が生じる。
「あの巨城はもう自分たちが取ったも同然だから大丈夫」という安心感が生まれてくるのである。なにせ隣接マスを取ったら2分間は保護期間で覆われているから取られる心配が無い。ちゃんと根拠がある。
だが、このフィールドの大きさがその根拠を打ち破る。
フィールドが大きすぎて隣接取ったはいいが、保護期間で守られているうちに〈南西巨城〉〈北東巨城〉を先取したとして、戻って来た時には2分はとっくに経過し、保護期間が明けているのである。全然守られてない。
この作戦は、相手が隣接を取り、保護期間が発生。その保護期間が明けてから堂々と巨城周りを踏んで囲ってしまうという戦法だ。
保護明けを待ち、堂々と囲うことから〈ダン活〉プレイヤーは〈保護明け囲いー戦法〉と名付けていたよ。
もちろん〈集え・テイマーサモナー〉も同じことを考えているとも限らないため対策も完璧。
相手側にある巨城を囲うと同時に自分たち側にある〈北側東巨城〉〈北側西巨城〉〈西巨城〉はナキキたち〈城〉特効組に取ってもらう。
これも大成功。
結果――〈エデン〉は9城先取することに成功したのだった。




