#1742 実況席の振り返りと〈サクセスブレーン〉卒業
試合終了を受け、観客席は爆発したかのように大歓声を上げ、実況席でも盛り上がっていた。
「な、なんということでしょうか! まさに激動の幕開け! 最後の最後で急激に追い上げてきた〈サクセスブレーン〉でしたが、惜しくも、惜しくも1回戦敗退ーーーー! 勝ったのは、〈エデン〉だーーーー!!」
「さすがは〈サクセスブレーン〉でした。見事な作戦で最後に巨城を一気に取ってきましたね。しかし、〈エデン〉も見事でした。まさか〈白の玉座〉をあのように使い、遠距離から巨城を回復してしまうなんて、想像もしなかった新戦法に驚きました。さらにはあの少ない時間で本拠地を落としきるとは! お互い素晴らしい戦術だったと言えるでしょう」
「良いもの見れたわね。最初7城取られた〈サクセスブレーン〉も諦めずに最後まで戦ったこと、逆転が一瞬でも見えたことに敬意を表するわ」
「ここで試合を振り返ってみましょう。最初7城を奪われた〈サクセスブレーン〉、いえ、敢えて言い直しましょう。〈エデン〉から2城も取った〈サクセスブレーン〉と!」
「それね。私の収集していた記録も見てみたけれど、〈エデン〉相手に2城以上手に入れたギルドって、ここ最近では〈ギルバドヨッシャー〉くらいしかないのよ。〈サクセスブレーン〉は大快挙と言っていいわ。良く奮闘したわよ」
「そんな〈サクセスブレーン〉も最初は厳しかったですね。初動ではフィールドの北側はぶった切られて届かず、南東側に封じ込められてしまいました。〈エデン〉の作戦が〈サクセスブレーン〉を完全に上回っていましたね」
「もうこの時点で色々ヤバいよね!? 〈エデン〉ってなんでこんなことができるの!? 作戦考えるだけじゃなくてなんかこう、実行できちゃうのが凄まじいんだけど! というか全巨城狙うかな普通!?」
「その考えにはとても同意できるわね。まず同じことを思いつかないし、思いついたとしても実行に移せないわよこんなの」
「おおっと! ユミキさんが匙を投げるほどの作戦行動!? 〈エデン〉がどれだけとんでもない作戦を繰り広げてきたのかが分かるというものだーーーー!」
「ここで南東側に封じられた〈サクセスブレーン〉は南東側のマスをほとんど取ってしまいました。普通であればこれは全く問題ありません」
「ええ。放置しておけば相手との小城ポイントの差がどんどん広がり、逆転自体出来なくなってしまう可能性もあったわ。実際、試合終了時の〈エデン〉と〈サクセスブレーン〉の小城ポイントの差は、2,910P。つまり291城も〈エデン〉が多く取っているの」
「あそこで動かなければどのみち4,000P分の小城ポイントを取られて逆転不可となっていたでしょうね」
「だけど、それも布石だった。自陣本拠地の近くを大量にマス取りしていると、最後の最後で保護期間が張れなくなって、相手の侵入を許してしまうのよ」
「〈エデン〉は最初から、赤本拠地に攻め込む気だったということかーーーー! なんという布石、なんという作戦! 〈エデン〉の作戦は全然底がしれないーーー!」
「とはいえ、赤本拠地を本気で落とす気なら、もっと早く出撃しても良かったと思うわ」
「ええ、僕もそう思います。なにせ、赤本拠地を落としたのは残り時間18秒。かなりギリギリでしたから」
「でも、ギリギリだからこそ大きく盛り上がったわ。これは憶測だけど、〈エデン〉が敢えてギリギリを狙った可能性があるわね」
「ええ!? それはまたどうしてユミキさん!? 落とせなかったら負ける可能性すらあったでしょ!?」
「エンターテイメントよ。ゼフィルス君はこういう盛り上がりそうなことをよくするのよね。ほら、中盤〈サクセスブレーン〉が対人戦を全力で回避したことであまりぶつからず、会場の盛り上がりがいまいちだったでしょ? その補填として、最後に思いっきり盛り上げた可能性があるわ」
「嘘でしょ!? 時間に余裕を持って激突しても盛り上がったと思うよ!?」
「まあ、これは憶測だけどね。でもきっと〈エデン〉は〈南西巨城〉に絶対の信頼を置いていたと思うのよ。ここだけは取られない、というね。だからこんなギリギリに赤本拠地を落としに向かったんじゃないかしら?」
「あの遠距離巨城回復ですね。まさかあのような対策があったとは。〈巨城ちょい残し戦法〉の見事な返しでした。あの本拠地から巨城を回復されては厳しいですね」
「試合時間いっぱい使って半分くらいまで削っていたはずなのに、いざ決戦を挑んだら全回復されていた。〈サクセスブレーン〉の作戦はここで大きく躓いたと言っても過言ではないわ」
「援軍も居たしね!」
「〈南西巨城〉を攻められても大丈夫だからこそ、大胆に本拠地を落としにいき、さらには成功させてしまったということですね」
改めて〈エデン〉のとんでもなさが身に染みていく会場なのだった。
だが、それと同時に〈サクセスブレーン〉のカイエンの凄さも浸透して行く。
「ですが、〈サクセスブレーン〉はよくそんな〈エデン〉を前にここまで戦いました」
「あ、それね! 私も思ったよスティーブン君! 〈エデン〉のギルドバトルを毎回実況しているから分かる! 〈サクセスブレーン〉の今回の退場者は、なんと5人しかいないんだよ!」
「これも驚異的ね。人が少なくなると必然的に小城マス取りや防衛、アタッカーなどの手が回らなくなり敗北してしまう確率が高くなる。だから退場者を少なくするのは絶対なの。でも、六段階目ツリーを開放した者はつい使ってみたくなる」
「六段階目ツリーキターーーーー!!」
「大きく盛り上がっていますね。本大会で〈サクセスブレーン〉も使っておりました六段階目ツリーのスキルや魔法、そしてまだ見ぬユニークスキルの数々!」
「ええ。最近発見された六段階目ツリーを、〈サクセスブレーン〉もしっかり開放してきていたわ。それ故につい〈エデン〉を相手に使いたくなってしまう衝動が襲ってきても不思議じゃなかった」
「それを止めていたのは紛れもなくカイエン選手ということですね」
「さすがは〈サクセスブレーン〉のギルドマスター! ギルドメンバー全員から厚い信頼と支持を受け、素晴らしい作戦であの〈エデン〉を相手に勝利まであと一歩のところまで迫った名将! 最後は自ら体を張り時間稼ぎをしようとした光景、私は思わず感動したよーーー!!」
「ええ。〈サクセスブレーン〉がここまで大きくなったのは、間違い無く彼の手腕でしょう」
「もしカイエンとゼフィルス君が同世代なら、本当に〈エデン〉に一矢報いる存在になっていたかもしれないわね。今年卒業なのが悔やまれるわ」
◇ ◇ ◇
こちらは〈サクセスブレーン〉の選手控え室。そこで今回出場した選手全員が実況を聞いていた。
『もしカイエンとゼフィルス君が同世代なら、本当に〈エデン〉に一矢報いる存在になっていたかもしれないわね。今年卒業なのが悔やまれるわ』
「(全然悔やまなくていいよ!? むしろ〈エデン〉とはこれから絶対に戦わないから! 俺はこのまま卒業するんだ!)」
当のカイエンはユミキの言葉に心の中で大きく首を横に振る。
また〈エデン〉に挑戦するとかごめんだった。ガチで。
「カイエン先輩……!」
ナギの潤んだ声が響く。
小さな声だったのに、それはこの場によく響いた。
当人だったカイエンとは裏腹に、ギルドメンバーはユミキの言うことをもっともだと思っている様子だ。みんな悔やんだ表情をしている。
「カイエンさんなら、いつか〈エデン〉にだって勝てたかもしれないのに!」
「そうです、本当に、あとちょっとでした!」
「すまんカイエン先輩! 俺たちが不甲斐ないばっかりに……!」
「ニン……!」
ギルドメンバーが次々言う。
その言葉は、惜しむ声が100%だ。カイエンの心とはなぜか正反対である。
「(うっ。だけど、そう思ってくれたのは素直に嬉しい。俺は今回もなんとか乗り切れたんだ)」
ちょっと呻くカイエン。
もう絶対〈エデン〉とは戦いたくないが、それとは別に、やりきったという充実した思いも感じていた。
〈サクセスブレーン〉のギルドマスターになって1年半以上、なんとか彼ら彼女らの信頼に応えることが出来たのだ。
いつ信頼を裏切るかとビクビクしていたが、その信頼を損ねることなく、ついに終わりを迎えようとしていた。自分はやり遂げたのだ。
そう思うと、体が軽くなる。
「ふ、惨敗だな」
「カイエン先輩?」
「みんなのせいじゃない。むしろあの〈エデン〉を相手にここまでよく善戦してくれた。実況の方が言ってくれたように、あの〈エデン〉を相手に退場者が5人なんて快挙だ」
「カイエンさん」
「ギルマス……」
「俺は、ギルドメンバーのみんなを誇りに思う」
「「「「!!」」」」
「俺の挑戦は終わった。ハッキリ言おう、とても楽しかったと。みんな、俺の挑戦に付き合ってくれて、ありがとう」
5割くらい本心だった。
全部じゃないのはご愛嬌だ。
そこで一旦止め、少し溜めてから言葉を打つ。
「――これからは、君たちの時代だ。みんな、がんばれよ」
「カイエンせんぱーーーい!」
「カイエンさーーーん!」
「ギルマスーーーーー!」
「(え? おわ!? ほぎゃあああああああ!?!?!?)」
感極まったギルドメンバーによって、カイエンは押し潰されてしまった。
こうして〈サクセスブレーン〉は初戦敗退。
だが、ギルドとしては悪い結末ではなかったようだ。




