#1740 残り3分の攻防。両陣営が仕掛けにいく!
「まさか、ナギがやられた!?」
速報で入ってきた、無事〈エデン〉の襲撃から逃げ延びた忍者3人衆からの連絡にカイエンが動揺した声を漏らす。
北側の巨城はともかく、難易度が急激に上がるだろう中央付近。だが、そこの〈巨城ちょい残し戦法〉に取りかかった瞬間排除されるとは。しかもこれは、あらかじめナギの対策をしていたのだろう。さすがは〈エデン〉と言わざるを得ない。
ナギの退場は苦しいが、こうなったら一気に巨城を削らず、少しずつ、少しずつ、慎重に巨城のHPを減らしていく形に切り替える。最終的にちょっとHPが残っているところまで削れば良いのだ。やり方はいくらでもある。
また、忍者3人衆はナギのおかげで無事生き延びたのだ。賞賛こそあれど、ナギがミスしたとは思わない。
「ここからは細かに指示を出す! まずは鬼門の〈南西巨城〉だ!」
〈南西巨城〉。白本拠地から目と鼻の先にある巨城で、一番ちょい残しが難しい。
〈エデン〉の本拠地が近いのだ。いったいなにが起こるか分からない。
故に、カイエンはすれ違いざまに攻撃し、そのままダッシュで逃げ去る戦法で周囲の巨城を削り始めた。
同時に〈東巨城〉と〈南東巨城〉の防備も固めておく。ここが最後に落とされたら、逆転不可なのだ。こちらが〈巨城ちょい残し戦法〉をするように、〈エデン〉だって〈巨城ちょい残し戦法〉を仕掛けてくる可能性は十分にあった。
故に、保護期間のマスを敷いたり牽制したりして、〈東巨城〉と〈南東巨城〉には近づけさせない。
「いいぞ、順調だ! このままヒットアンドアウェイで巨城を削れ! 『送信』!(順調? あの〈エデン〉を相手に順調? なんで? 俺には嵐の前の静けさにしか感じられないんだけど!?)」
カイエン、自分の言っていることに激しい違和感を覚える。
だって相手は〈エデン〉なんだもん。このままいけば勝てる可能性はあるけど、そもそも静かすぎる。なにかを仕掛ける前兆にしか感じられないカイエン。
だが、〈竜の箱庭〉をいくら調べても〈エデン〉は特に何か特別なことを仕掛けてきているわけではないと分かる。
そもそも対人戦を仕掛けられてもこっちは全力で回避するように指示し、リーナ得意の伏兵戦術だってさせないようフォルノの罠を使い、カイエンが全力で阻止している。ぶつかることは少ない。そこは〈サクセスブレーン〉の作戦の賜物で、〈エデン〉にとってはやりにくいだろう。
〈エデン〉は基本に忠実に動いている。初動では〈サクセスブレーン〉を南東側に押し込めるような動きで封じ込めていた〈エデン〉だが、中盤戦になると小城マス取りに集中し、対人戦も仕掛けてはきているが、基本は小城マス取りに集中しているように見える。
そして残り時間は5分を切った。
そろそろ時間だ。
「フィニッシュプランZを発動する! それぞれ配置に付け! 『送信』!」
〈サクセスブレーン〉が仕掛ける。
「全員マスをひっくり返せ! 『送信』!」
『送信』のクールタイムは短い。【ブレイン】の能力で2秒で終わる。
故にカイエンはリアルタイムで即ギルドメンバーに指示が出せるのだ。
カイエンの指示の直後、南東側にある白マスが次々と赤マスにひっくり返っていく。
白マスを残しておけば、そこから道を延ばされ、赤本拠地まで侵攻してくるかもしれない。
それを断ち切ったのだ。
さらに元々南東側の白マスが少なかったこともあり、間を置かずほぼ全ての白マスが赤マスになってしまう。
「順調だ! 残り時間2分10秒、北側の巨城を全て落とせ! 『送信』!」
残り時間2分10秒。
このタイムは結構重要。残り時間2分10秒の時点で巨城を落とせという指示。
そうすると、巨城のHPが回復し保護期間が明けたときには残り時間が10秒しかないという意味になる。普通はひっくり返すには時間が足りない。
普通のギルド相手なら残り時間2分40秒くらいで巨城を落としてもいいくらいだ。
だが、相手は〈エデン〉。必殺の〈『リ・エール』『突貫』です〉戦法がある。それを見越しての10秒だ。
さすがのノエル、セレスタンコンビでも10秒で陥落は、厳しいという判断である。
出来るだけ残り時間を多めに残して巨城を落としたいカイエンが導き出した、ギリギリのタイムだった。
ここが正念場だ。
ここまでの戦術で、〈エデン〉が獲得している各巨城のHPはかなり減っている。
北側の3城は1割以下、中央の2城も1割以下まで削ることに成功し、南側では〈南巨城〉を1割以下まで削っていた。白本拠地の目と鼻の先である〈南西巨城〉だけは5割ほどしか削れなかったが、数で掛かればなんとかなるだろう。
〈サクセスブレーン〉最後の作戦、それは北側の3城にそれぞれ人を送り、残り時間2分10秒の時点で陥落、そのまま南下し、続いて残りHPが僅かな〈中央巨城〉と〈西巨城〉の2城を陥落。更に南下し、〈南巨城〉と〈南西巨城〉の2城を陥落させる。これがアタッカー組の少数精鋭。
ディフェンス組は残りの城である〈東巨城〉と〈南東巨城〉の防衛、加えて赤本拠地も落とされないように防ぐ、という作戦だ。
普通なら巨城を落とすのに時間が掛かるが、大量に削ったおかげで時間はほとんど掛からない。2分あれば〈南西巨城〉も落とせるというのがカイエンの予想だ。
そして運命の2分10秒が迫って来た。
だが、ここで動いたのは、もちろん〈エデン〉。
『カイエンさん! 〈エデン〉が列車を持ち出した! 〈ブオール〉だ!』
『こっちは〈イブキ〉です!』
「ああ! 見えている!」
残り時間2分50秒。〈エデン〉の精鋭部隊が〈ブオール〉と〈イブキ〉で3組3ルートで発進したのが〈竜の箱庭〉に映っていた。
「全員、〈エデン〉が仕掛けてくるぞ! 絶対に抜かれるな! 時間を稼ぎ巨城と本拠地を守るのだ! 成功すれば、俺たち〈サクセスブレーン〉の勝利だ! ―――『送信』!」
さあ正念場だとカイエンもみんなを奮い立たせた。
〈エデン〉の3組は予想通り、〈東巨城〉〈南東巨城〉、そして赤本拠地を目指している模様。
第二の塔の1番目、2番目、3番目出入り口から東に侵入し、城への攻撃を目指してきたのだ。
◇
「やっぱり、〈東巨城〉は要塞化されてるよな!」
「『どうやら〈南東巨城〉ものようです、上手く隠されていました!』」
〈イブキ〉に乗ったゼフィルスがリーナと話す。
そう、〈サクセスブレーン〉にはドワーフ、【芸景回宝ハイドワーフ】のカララが居た。六段階目ツリーに至り、要塞建築とシャロンのように景色を誤魔化すスキルも獲得出来るため、〈東巨城〉と〈南東巨城〉は要塞化されて隠され、簡単に落とされないようになっていたのだ。
ここで巨城攻略をせず他の巨城へ向かえば、チャンスとばかりに野戦に出てきて挟撃を狙ってくることもできる。さすがはカイエン先輩だとゼフィルスは笑う。
だが想定内だ。
「予定通り、〈南東巨城〉へ狙いを修正――すると見せかけるぞ!」
「『はい! ――みなさん、狙いは〈南東巨城〉、一点狙いですわ!』」
ゼフィルスは挟撃が来ると知りつつ〈南東巨城〉1点に絞る動きを見せた。
〈サクセスブレーン〉はかなりギリギリだ。1つの巨城が落ちた時点で負けが確定する。
故に〈南東巨城〉でも〈東巨城〉でも、どちらでもいいから落とせば〈エデン〉の勝ちだ。
1番目から突入したロゼッタの〈ブオール〉、2番目から突入したアイギスの〈イブキ〉、3番目から東側に突入したエステルの〈イブキ〉が全て〈南東巨城〉へ向かう。
その瞬間。
「囲い込め! 『送信』!」
カイエンからの指示が飛ぶ。〈東巨城〉と赤本拠地から人が広がるようにしてゼフィルスたちを囲まんとしたのだ。
〈サクセスブレーン〉の狙いは対人戦でも殲滅でもない。――時間稼ぎだ。
残り時間も少なく、〈エデン〉は〈南東巨城〉を落とす狙いを見せ、攻撃を開始した。
それを妨害し、時間を稼ぐ狙いである。
ここで〈エデン〉の部隊を足止めしていれば、アタッカー陣が全ての巨城を確保してくれる。故に、〈サクセスブレーン〉は全力で足止めに展開した。
だが、これは〈エデン〉の――ゼフィルスの誘いだったのだ。
◇
「時間だ。作戦開始、行くぞ!」
作戦開始時刻。
〈サクセスブレーン〉のアタッカー陣は非常に順調に北側の3城を陥落させた。
「成功! 『忍法・忍者走り』!」
「次へ突っ走ります――『忍法・忍者走り』!」
「絶対成功させるニン――『忍法・忍者走り』!」
それを成したのは3人の忍者たち。
それぞれの巨城で最後の1割以下となったHPを削り切り、巨城を陥落して忍者走りで一気に南下を始める。6000Pゲット。〈エデン〉との差が大きく縮まった。
これには観客が大いに沸いた。〈サクセスブレーン〉の追い上げが始まったのだ。
続いては〈中央巨城〉と〈西巨城〉。
ここも難なく撃破。4000Pゲット。
実はここには〈サクセスブレーン〉の他のメンバーもいて、援軍がいた場合の備えとマス取りが命じられていた。
だが〈エデン〉は誰も来なかったので巨城は陥落。忍者と合流し、次に〈南巨城〉と〈南西巨城〉を目指す。ここが正念場だ。
〈南巨城〉は呆気なく陥落した。残り1割以下だ。そりゃすぐに陥落だろう。
問題は、〈南西巨城〉だ。ここは白本拠地の目と鼻の先。
しかし、〈エデン〉が〈サクセスブレーン〉の本拠地や巨城を大人数で攻めに向かった今こそ陥落の大きなチャンス。
ここまでまだユニークスキルの発動も無く温存できている。残り時間は40秒しかないが、一斉攻撃で〈エデン〉の援軍ごと確実に5割のHPを吹き飛ばす作戦だ。
そう思っていたアタッカー陣精鋭5人だが、目の前のそれを見て固まることになる。
「あ、あれ!? 〈南西巨城〉のHPが、減ってないニン!?」
そう、苦労を重ね、ヒットアンドアウェイでHPをなんとか5割まで減らしていたはずの〈南西巨城〉が、全回復していたのである。
「まさか私が〈白の玉座〉を使わせてもらうことになるなんて思わなかったよ~」
「ゼフィルスの作戦には脱帽よね。シャロンの城回復を遠距離で飛ばしちゃうなんて」
その光景を白本拠地から高みの見物している2人がいた。
シャロンとラナである。
そしてシャロンは――なぜかラナの〈白の玉座〉を装備していたのだ。
シャロンには、『防壁大回復』などの魔法がある。これ、防壁と書かれているが、要は〈城〉カテゴリーなら回復してしまう修復魔法なのだ。本拠地や巨城も〈城〉である。
加えて、このシャロンの魔法自体は〈回復〉カテゴリーに分類されている。
後は分かるだろう。
白本拠地から〈南西巨城〉までの距離は、僅か7マス。6マスで隣接が取れてしまうほど近い。
〈白の玉座〉に座れば、シャロンでも遠距離回復が出来てしまうのだ。
巨城のHP回復は〈巨城ちょい残し戦法〉に対抗する有効な戦法。
これぞゼフィルスが最大級に警戒しているカイエン先輩用に用意していた――〈巨城遠距離回復戦法〉だった。
つまりシャロンはここから、〈サクセスブレーン〉がもっともほしいだろう〈南西巨城〉を回復しているのである。さらに。
「ようやく来たのね」
「もう、待ち切れちゃうかと思ったよう~」
「トモヨさん、それを言うなら待ちくたびれたですよ。言わんとしていることはなんとなく分かりますけど。残り40秒ですからね」
〈南西巨城〉の前には、援軍がいた。
シエラと、トモヨと、フィナである。
「「「え?」」」
忍者たち、ちょっと声が萎む。
〈サクセスブレーン〉のアタッカーは少数精鋭。
その人数は、合計7人。〈南巨城〉に向かった2人が戻ってきたとして、果たしてシエラ、トモヨ、フィナを抜いて全回復した巨城を落とせるだろうか? 40秒以内に。
ちなみに巨城はHPを削っても、シャロンが回復してくる。
「「「う、うおおおおお! やってやらーーー!!」」」
しかし忍者たちは行くしかない。果たして任務を達成できるのか。




