#1733 〈エデン〉は、絶対に優勝してみせる!
―――――〈SSランクギルドカップ〉当日。朝。
「ゼフィルス君、起きてる~?」
「もちろん起きてるさ!」
「わ、元気いっぱいだよ!?」
いつものように朝起こしに来てくれたハンナに俺はキリッとした顔で返していた。
いつもならこの時間は微睡みの寝ぼけ状態だが、俺の頭は非常にすっきりしていた。
ハンナが起こすまでもなく目もしゃっきりと目覚めている。ついでに顔もキリッとしていることだろう。
「くす、ゼフィルス君ってほんとこういうイベントの時とか起きるの早いよね」
なぜだろう、早く起きただけでハンナから子どもみたいと思われている気がする。いや、きっと気のせいに違いない。
「待ちに待ったSSランク戦だからな! 俺はこの日を、とても楽しみにして準備してきたんだ!」
「うん、知ってるよ。はいこれ、〈アルティメットエリクサー〉とか、作れるだけ作っておいたから」
「おう、ありがとなハンナ!」
朝一番でハンナから〈空間収納鞄〉を受け取る。
中には大量のポーションやらなにやらが詰まっていた。
〈城取り〉なので〈空間収納鞄〉は持ち込めないが、普通のポーチなどは持ち込み可。
ポーションの持ち込みは必須だな。
「それと、朝ご飯もすぐ用意するね。今日は力のつくものいっぱい作ってきたんだよ!」
「それは楽しみだ!」
すぐにテーブルに準備してくれるハンナ。非常に手慣れている。
今日の朝食は――なんと朝からカツサンドだった。
ボリュームたっぷり! 勝つ勝つ!
「おお! こいつは大きいな」
「ゼフィルス君に勝って欲しいって、願いを込めて作ったんだよ」
なんてじんと心温まる台詞を言ってくれるんだハンナよ。
俺はこのカツサンドに幸せと愛を感じた気がした。このカツサンドには、ハンナの愛情がたっぷりこもってるんだ!
「いっただっきまーす!」
「はい。召し上がれ」
パクッとかぶりつくと、まだ出来たてほやほやの食感。
トーストはしっかり焦げ目が付くくらい焼かれていて噛んだ瞬間サクッと音がするし、中のせん切りキャベツはシャキシャキ感が残っている。
そしてソースが掛かったカツもまたサクッとフライを囓った音が脳内に浸透していったんだ。サクッ、シャキ、サクッ、のトリプルコンボ。
もちろんカツも温かく柔らかく、そしてジューシーだった。
「う、美味い! なんだこの味は、めちゃくちゃ美味いぞ!」
ソースの中になんだか深みのあるしょっぱさを感じて、食べるのに夢中になってしまう俺。前に食べた時よりも更に美味くなってる気がする! こんなの朝でもペロリと平らげられちゃうよ!
「ふふ、よかった~。この前ね、上級上位ダンジョンで塩が採れたでしょ? あれを少し使ってみたんだ。味に深みが出来てね、とっても美味しくなるんだよ」
「思わず感動で涙が出そうなくらい美味しいです」
塩、実にシンプルで美味しいチョイス。
味は俺の好みに合わせてちょっと濃いめだ。この後1日がかりで運動するので、これくらい味が濃い方がありがたい。
さすがはハンナ、よく分かってる!
「ごちそうさまでした! やる気出た!」
「お粗末様。今日はたっくさん応援するからね」
「おう! 俺たちも負けないよう全力で戦うぜ!」
「ゼフィルス君の全力。受け止める方がちょっと大変になっちゃったかも……」
俺の燃えるリアクションにハンナがちょっと苦笑気味だった。
うん、ハンナも少し元気が出てきたかな? いつも通りに見える。
昨日ミリアス先輩が〈生徒会〉を卒業していった。
帰ってきたハンナは、結構寂しそうに見えたんだが、1日で復活したらしい。
「よし、それじゃあゆっくり仕度しながら出発しよう! 少しアリーナの周りによってからいこうぜ!」
「うん」
〈SSランクギルドカップ〉の開催は8時半から。
1時間目の授業が始まる時間と同じくらいなのでそこそこ早い。
しかしアリーナの周囲には、すでにお祭り騒ぎと言わんばかりに出店がオープンしていた。
「おお~、どの出店も目移りしちゃうな~」
「もう~ゼフィルス君ったら。さっき食べたばかりなんだから食べちゃダメだよ?」
「分かってる分かってる。満腹で逆に動けなくなったら困るからな」
上級ダンジョンで多少の食材が採れるようになってきたからか、今回の出店はかなり豪華だ。そこら中で上級食材が使われた料理が売られている。
朝だというのに多くの学生たちで賑わっていたんだ。
きっと朝食をここで済まそうとしている人たちに違いないな。
俺は買ったら〈空間収納鞄〉に仕舞っておいて後で食べようと思う。
食べ過ぎて動けなくなったら困るからな。
「あ、姐さん、すみません、食い過ぎて動けないっす」
「食べ過ぎた~」
「こんのアホバカマヌケー!!」
「「ああーー!?」」
なにやら少し離れた所でハリセン的な音がスパーンと良い音鳴らしていたような気がしたが、俺は気が付かずにそのままギルドハウスへと向かうのだった。
「そろそろギルドハウスにいくか!」
「ハッ! う、うん。そうだね!」
なにやら後ろを見て目を丸くしていたハンナがちょっとハッとしていたが、特に気にすることでもなかったようで、ギルドメンバーとの待ち合わせ先である我らがギルドハウスへと向かうことにした。
道中は凄かった。
ハンナ生産隊長を見つけた出店の人たちが、挙って「ハンナ様、うちの商品を食べていってください!」「うちの商品も是非!」「これなんか絶品ですよ!」「うちのこれなんて亜竜肉を使ってます!」と、ハンナに貢ぐ貢ぐ。
ハンナも「あはは」と苦笑気味ながらも「みなさんもがんばってください」など声を掛けていたよ。さすがは生産隊長だ! 貫禄が出てる。
「なんかすっごくもらっちゃったね」
「ああ。みんなハンナのことが好きなんだってヒシヒシ伝わってくるようだった」
「そ、そうかな?」
「ああ。ハンナは生産隊長をしっかりやれてるってこれだけで分かる。じゃなきゃこんなに好かれるはずがないさ」
「えへへ」
ハンナの照れ顔がプライスレス。
少し照れくさそうな顔をしつつも誇っている感じがとてもいい。
そんな朝の一時を過ごしつつ、俺たちは〈エデン〉のギルドハウスに到着した。
「みんなおはよう!」
「みなさん、おはようございます!」
「「「おはよう~!」」」
俺とハンナでギルドハウスに入り、いつもの大部屋に入れば、すでにほとんどのメンバーが集まっていた。
ちょうど良い感じの時間に着けたらしい。
すぐにシエラとラナ、そしてリーナがやってくる。
「おはようゼフィルス、ハンナ」
「おはよう! いよいよね!」
「おはようございますゼフィルスさん、ハンナさん」
「改めておはよう。――リーナ、一足先にハンナからポーション類を受け取ったからリストを送っておくな。振り分けを考えてくれ」
「承知いたしましたわ」
「おはようございます、みなさん。今日と明日と明後日、がんばってください、私も微力ですけど応援させてもらいます!」
「ふふん! 任せなさいよハンナ! 私が全部倒してあげるわ!」
「ポーション助かるわ。これがあるから私たちは全力全開で腕を振るえるのだもの」
「えへへ~」
和気藹々と朝の挨拶を交わす。
そうして話していれば、どうやらギルドメンバーが全員揃ったようだ。
「ゼフィルスさん、参りましょう」
「おう!」
まずはリーナと一度、壇上へと上がる。
ここは気の利いた一言を告げるところ――俺は自分の思いを高らかにぶつけた。
「みんな! ついに〈SSランクギルドカップ〉の日がやってきたぞ! 今日から3日間! 学園最強のギルドを決める大会がついに開催されるんだ! 出場するのは180のギルドたち! この中から真のトップが決まる! 卒業する3年生にも優勝は渡せない! 俺たち〈エデン〉が優勝を掴むんだ!」
「卒業する3年生への手加減がゼロですの!」
「卒業する3年生に贈るものは、敗北ってこと!?」
「3年生大丈夫!? 落ち込んだまま卒業式迎えちゃうんじゃないかな!?」
俺が心の内を吐露したら、目を丸くしたサーシャとカグヤとクイナダから活きのいいツッコミをもらった。さすがだ。
ちょっと、うっかり余計なものまで吐露しすぎたかもしれない。
「こほん! また、卒業するのは3年生ばかりじゃない。留学生も同じだ」
俺の一言に〈エデン〉で唯一の留学生、クイナダに全員の視線が集まる。
「今回のSSランク戦はクイナダへの贈り物も兼ねている。しっかり優勝し、気持ちよくクイナダを送ってやりたい! 故に今回、クイナダには多めに出場してもらうぞ!」
「ゼフィルス……」
俺の言葉にクイナダが感動したような、ちょっと潤んだ瞳を向けたので頷く。
「クイナダの所属する〈エデン〉は凄いギルドだったと、胸を張って自慢してくれ! 俺たちもクイナダに自慢できるギルドであり続けよう! 絶対に優勝してみせる! クイナダ、最後だが一緒にギルドバトルを楽しもう!」
「う、うん! 私も頑張る! 〈エデン〉の思い出、いっぱい残すよ!」
「ああ! ――時間も迫ってきたな! そろそろ行くぞ! 最初から対戦相手はあのAランクギルド〈サクセスブレーン〉。だが問題はない! 俺たちなら勝てる! みんな、全力を出していくぞ!」
「「「「「おおー!」」」」」
気合い全開。
ギルドハウス全体が気合いを入れたかと錯覚するほどの、大きな気迫だった。
さあ行こう!
今年度最後の――ギルドバトルへ!
第三十八章 ―完―




