#1731 ミーア先輩、今までありがとうございました。
こんにちは、私はハンナです。
今日は〈生徒会〉で新たな門出を祝う打ち上げが行なわれようとしています。
「ハンナちゃーーーーーーーーーん!! ハンナちゃんハンナちゃんハンナちゃーーーーーーーーん!!」
そこで、唯一の卒業生となるミーア先輩が私を抱きしめて、名前を連呼しながら泣いてました。
「ミーア先輩、まだみなさん集まってもいませんわ、今からそんなのでどうするんですの?」
「そ、そうです。わ、私ももらい泣きしちゃいそうで、ううっ」
「ほら、シレイアさんまでもらい泣きしてしまったではないですか。最上級生として、生徒の模範となるようシャキッとしてくださいな」
「だってアーちゃん! 今日が最後だと思うと寂しくて寂しくて、涙が止まらないのーーーー!!」
「よしよし、ミーア先輩。大丈夫ですから落ち着いてください」
「うう、ハンナちゃーーーーーーーーん!」
抱きついて胸に顔を埋めてくるミーア先輩をなでなでして慰めます。
これではどちらが最上級生か分かりません。
ですが、そうしていると突然ピタリと止まるミーア先輩。不思議に首を傾げていると、バッと離れて今度はシレイアさんの方へ向かったのです。
「ぐす、やっぱり在学中に勝てなかったよーー、シレイアちゃーーーーーーん!」
「ひゃっ!?」
「ああ、シレイアちゃんは安心する~!」
「ど、どういう意味ですか!?」
私からシレイアさんに移ったミーア先輩が今度はシレイアさんの胸に顔を埋めて安心を得ていました。さっきまでもらい泣きしていたシレイアさんが真っ赤になっています。
「もう、そろそろみんな集まりますのよ? はい、〈スッキリン〉をお渡ししますからその顔をスッキリさせてくださいな」
「ありがとうアーちゃん~。うう、やっぱり卒業したくなーい!!」
アルストリアさんから〈スッキリン〉を受け取ったミーア先輩ですが、また瞳を潤ませると泣き出しました。
さっきからずっとこんな調子です。
なにしろ、ミーア先輩は〈生徒会〉での活動が今日で最後になるからです。
――卒業。
週が明けて、SSランク戦が終わればすぐに卒業式が待ってます。
なので〈生徒会〉のお仕事も今日で終わり。
いえ、これでもミーア先輩のわがままで今日まで延び延びになっていたんですけどね。本当ならもう少し早く〈生徒会〉から脱退する予定だったのですが、今度役員になるタネテちゃんへの引き継ぎがあまり進んでいなかったのと、ミーア先輩が受け持っていた仕事がまだ終わってなかったとかで、ずるずる今日まで延びていたんです。
ですが、今日を逃せば次の〈生徒会〉の活動は卒業式後になっちゃいますから、今日が最後のチャンスなんです。
みんなで一致団結してミーア先輩を送ってあげなくてはいけません!
と思っていたら〈生徒会〉室の扉が開きました。
「ただいま戻りました……ってまだやってたんですか?」
「あ、タネテちゃん。おかえり~」
「ただいまですハンナ隊長」
入ってきたのはタネテちゃん。追加の買い出しに行ってもらってたんだけど、ってもうこんな時間!? はわわ、タネテちゃんが買ってきてくれたものを並べたらもうみんな来ちゃうよ!?
あとミーア先輩のこの行動にはタネテちゃんもすでに慣れていたりします。
元副隊長としての威厳がピンチですよミーア先輩! ……手遅れかもしれませんけど。
「ミーア先輩、もういい加減にしないと! 他のみなさんもそろそろ集まってくるころですわ!」
「でも、でもでもアーちゃん~」
「はぁ。もうこうなったら奥の手ですわね。タネテさん、お願いしてもよろしいかしら?」
「へ?」
「承知しましたです」
「だ、脱出です!」
「あ!? 待ってシレイアちゃん!?」
ここでタネテちゃんにバトンタッチするアルストリアさん。そしてそっとミーア先輩から脱出するシレイアさん。最後にちょっと怯えた表情のミーア先輩が残されました。そして。
「いつまで甘えん坊してやがりますかミーア副隊長! シャキッとしやがるです!!」
「ひゃい!?」
「副隊長ともあろう御方がそんなことでは下に示しがつかねぇですよ! ドンと構えて下級生たちに感謝を贈られ旅立っていく、そんな立派な先輩となりやがるのです!」
「ひええ!?」
ドンッと堂々と立ち、腕を組んでビクビク涙目なミーア先輩を叱りつけるタネテちゃん。最近分かったのですが、ミーア先輩はタネテちゃんに叱り飛ばしてもらうのが効果的なんです。タネテちゃんはこういうことは慣れているらしいんですよ。上級生を叱り慣れているってどういうことなんだろう??
でもとても1年生とは思えない迫力なんですよ。さすが1年生でBランクギルドのギルドマスターをしているだけあります。
「あと、あまりハンナ隊長を困らせちゃダメですよ?」
「は、はい。ごめんなさいでしたー」
あ、決着しましたね。
「ハンナ隊長、終わりました」
「えっと、ご苦労様です」
「えへ」
私、なぜかタネテちゃんからはとっても慕われていて、私が褒めたりすると少し照れた様子を見せてきたりします。そこがタネテちゃんの可愛いところです。
ミーア先輩からはギャップ萌えだ、と言われていましたが。
「あ、終わったんですのね。こっちも準備を進めてますわ」
「はい! ヘルプニャンが手伝ってくださるので、とても快適です!」
「あ、ヘルプニャン! 今日もご苦労様です!」
お説教の間にアルストリアさんやシレイアさんがお祝いの準備をしていました。
今はシレイアさんの手に渡っている試作機ヘルプニャンもお手伝い中みたいです。このヘルプニャンを、タネテちゃんがすっごくキラキラした目で見つめているんですよ。ちなみにヘルプニャンはなぜか全身甲冑姿で、顔も隠してます。
以前シレイアさんに聞いてみたら「顔を出して実験していたら大変なことになってしまったんです」と言っていましたけど、どういう意味か未だに不明です。
「ハ、ハンナちゃん――」
「さあ、主役はそこに座ってやがるです。準備はハンナ隊長たちが全てしてくれますから」
「ああ!? 作業が進んじゃうよー!?」
こうして本日の主役であるミーア先輩とタネテちゃんは座って待っててもらい、準備は滞りなくスムーズに進みました。
「サトル君、そっちはどう?」
「準備バッチリです! いつでも大丈夫ですよ! これからみんなを連れてきます!」
「お願いね」
サトル君がくす玉を用意し終えて、他の子たちを呼びにいきました。
実は〈生徒会〉、人手不足でこの前人数を増やしたんですよ。そして増えた新人の面倒を見ているのが、サトル君です。
「連れてきました」
「相変わらず仕事が早いね」
「ありがとうございますハンナ様!!」
もう連れて来ちゃったんだ。
サトル君は、執事のセレスタンさんに師事しているからなのか、仕事がとても早いです。結構頼りになるんですよ~。
ざわめきながら他の〈生徒会〉メンバーが〈生徒会室〉に入ってきます。
やっぱりちょっと狭いですね。
でも来年度は許可が下りたので広い部屋に移動する予定なんです。それまでの辛抱ですね。
「今ですわシレイアさん」
「は、はい! パンパカパーン!」
みんなが入ったところでシレイアさんがくす玉を引っ張って開きます。
そして、「ミリアス先輩、ご卒業おめでとうございます」の文字が垂れ下がりました。
「「「「おお!」」」」
みんな感動していますね。ここからは私の担当です。
「みなさん、集まってくれてありがとうございます! 今日はこれまで〈生徒会〉に大きく貢献してくださいました、ミーア先輩の門出を祝いたいと思います!」
「「「うおおおおお!!」」」
「「「うう、ぐすん!」」」
「ミーア先輩! 卒業してもお元気で! わたくし、この1年半、とても楽しかったですわ!」
「ミ、ミーア先輩に〈生徒会〉に誘って貰えたこと、私、とても嬉しかったです!」
「ミーア先輩、今まで〈生徒会〉を支えてくださり、ありがとうございました!」
「「「「ありがとうございました!」」」」
「うわーん、そんなことを言われたら、私も涙が止まらなくなっちゃうよー!」
怒濤のお祝いにミーア先輩の涙が大きく決壊します。
私たちも拍手でお祝いするのです。
ちょっと展開が急かもしれませんが、タネテちゃんからのアドバイスで、ミーア先輩が考える暇がないほど怒濤の攻めで役員を卒業させた方が良いとのことでこうなりました。
「続いて、新しい役員に就任した子を紹介します。タネテちゃんです」
「ありがとうございます。改めて〈生徒会〉の会計をすることになったタネテです。まだ1年生ではありますが、精一杯務めさせていただくです」
新しい役員のタネテちゃんに盛大な拍手が降り注ぎました。
「続いてミーア先輩の抜けた副隊長の籍ですが、これはアルストリアさんが務めます」
「よろしくお願いいたしますわ。ハンナさんを、そして〈生徒会〉と全ての学生を支えていけるよう、頑張る所存ですわ」
会計から役職を変更し、副隊長に就任してもらったのはアルストリアさんです。
……なぜでしょうか、ミーア先輩よりも頼りになりそうだと思ってしまいます。いえ、きっと気のせいですね!
「他、役職の変更はありません。以上で役職の交代と発表を終わります」
〈生徒会〉来年度の役員メンバーがこれで確定しました。
私も頑張らないといけません。フンス。
「では、続いて打ち上げいきますよ! みなさん、ジュースを持ってください!」
私はみなさんを促し、ミーア先輩やタネテちゃんにスペシャルジュースを渡します。
「これは、〈芳醇な100%リンゴジュース〉です! 〈エデン〉から、ミーア先輩の卒業を祝い、祝儀として贈られました。ゼフィルス君――ギルドマスターからは是非楽しんでくださいと言葉をもらっています!」
「「「おおお!」」」
「それではミーア先輩の門出、そしてタネテちゃんの役員就任、〈生徒会〉の新しい一歩を祝し、乾杯です!」
「「「「かんぱーーーい!」」」」
「乾杯ですミーア先輩、タネテちゃん」
「うう、ハンナちゃーん!」
「ハンナ隊長、乾杯です」
2人とも乾杯です。
ミーア先輩が〈生徒会〉から居なくなっちゃうのは寂しいです。
私もとても寂しくなります。ですが、今は祝います。
ミーア先輩の新たな旅立ちに幸がありますように。
ミーア先輩、今までありがとうございました。




